世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す

すかい@小説家になろう

入学試験

「きゃぁああああああああああ」
「戦闘を中断しろ!!!」


 叫び声は戦っていた女子ではなく、待機列から発されたものだ。
 原因は……。


「その魔法はどうも刺激が強すぎたらしい」
「加減、できなかった……」
「いや、本来この試験は加減をして受けるようなものではない。合格は保証する。ここまでにしてくれ」


 その姿を見た時にまず驚く。


「ん…… 」


 4人しかいいダンジョンクリア組の1人。
 その4人の中で唯一の現役攻略者にして、女性攻略者。マリー=フォン=ネイシスが申し訳なさそうに、いや不服そうその場を後にする。
 ある意味王女より珍しい存在だった。どうなってるんだ……。王都のアカデミーってそんなレベルが高かったのか?
 これなら帝国の方で学校を探すべきだっただろうか? いや、帝国だと結局行きつく先は攻略者か……。王国のアカデミーも攻略者志望が多いがまだマシだから選んだんだ。


「あれ……マリーじゃないのか」
「うそ……なんで学校に……?」


 ダンジョン攻略の実績が認められ女性にして準男爵になっている。相続はできないが異例の女性貴族としても話題になった子だ。


「見てたか。あれ」
「ちらっとは。だけどまともに見てたら倒れるのも無理はないだろ……」
「生きる伝説がなんでこんなところに……」


「あれは……無理……」
「しっかり!試験受けるまでは倒れちゃダメだよ!」
「私もあれはダメ……」


 あちらこちらでマリーの話で持ちきりになった。原因はその能力だ。
 マリーには元々特殊な力があった。死者や悪魔と呼ばれる、この世ではないところにいるものたちと意思の疎通が図れるというものだ。
 その力を生かし、66のダンジョンの1つ、『黄泉の国』に唯一挑み、ボスの攻略を果たした。
 彼女はあのダンジョンだからこそ力を発揮でき、攻略を果たせたという変わり者。最上級の攻略者と比べて遜色ない実力も当然あるが、他のクリア組と異なり、クリアを果たしていない他の攻略者と大きく実力の差がない希有な存在だった。


「いきなりあんな……ゾンビって言うのか? あれ」
「待って、思い出させないで。吐きそう……」
「俺もだ……」


 意思の疎通が図れるだけだった彼女がダンジョン攻略で得た力が、死者を使役する力。
 この力も段階があり、死んでからの暦が長ければ長いほど、強力かつ扱いにくくなるらしい。そのため彼女の主戦力は死んで日の浅いものたち、いわゆるゾンビがメインとなる。


ーーネクロマンサー。彼女にのみ与えられた職業だった。


「初めてみたけど……でもすごいわね」
「数が違いすぎるもの……どこから出てきたの、あのゾンビ……」
「土に還って行ったけど……召喚魔法?」
「シャドーがかわいそうって、初めて思った……」


 受験生たちの話ではその戦場はかなり凄惨なものだったらしい。
 試験官が止めるまでの一瞬でゾンビたちはシャドーに群がり、なすすべも無くその身を食いちぎられていったという……。名前の通り黒い影の塊でしかないシャドーだが、その時ばかりは悲壮感を漂わせていたとか。
 もちろん、シャドーを完全に消滅させたマリーの合格は間違いない。ただあれは参考にできない。そこまで目立つわけにもいかないからな……。





 さて、いよいよ俺の番だ。


「名前は?」
「リカエル=ギークです」
「ルールは聞いていたな!では」


 剣を構える。


「はじめ!」


 まずは剣で斬りつける。フローラ姫を思い出し、スピードをなるべく合わせたつもりだったが、予想外のことが起きた。


「は?」


 シャドーが攻撃を受けきれず真っ二つになったのだ。
 試験官は信じられないものを見たと言う顔でこちらをみている。


「お、おい!なんかやべえぞ?!」
「何がだ!いやなんだこれ……」


 真っ二つになったシャドーを見て受験生たちの注目を集めてしまう。やってしまった……。
 ちなみにシャドーはその程度では壊れない。すぐに実体を取り戻すと今度は黒い剣を持った状態で現れる。その剣を上段から一気に振り下ろしてくる。衝撃波とともに斬撃がこちらに襲いかかった。


「なんだこれ?!」
「シャドーが武器を持ってる?!というか斬撃が飛んだ!?どうなってんだ!」
「わかんねえけどなんかすげえぞ!見ておけ!」


 この上なく目立っているし、試験官も何か言いたそうに口をパクパクしている。
 とりあえず斬撃は受けざるを得ない。俺が避ければ他の受験生に迷惑がかかる。剣を横に一閃。飛んできた斬撃を受け止めるように斬撃を投げ返した。


「今度はあいつも斬撃飛ばしたぞ!」
「あんなの吟遊詩人の冗談だろ!?」
「でも目の前でやったぞ!」


 斬撃の威力はぴったりシャドーのものと合わせていたから消えて無くなる。そしてすぐ、試験官の言葉を思い出して戦闘意思を解除する。こちらに敵意がなければシャドーは襲ってこない、そういう話だったはずだ。
 だが――


「なっ!?」


 どういうわけかシャドーの身体がブレ、そのまま3体に分裂した状態で切りかかってきた。殺意も敵意も抑えたつもりだったのに……。


「暴走だ!受験生は一度建物まで逃げろ!教員がいたら事情を伝えて応援を」


 試験官が分裂したシャドーの1体を引き受けてくれる。


「無事か!」
「ありがとうございます」


 襲いかかる1体をなんとか後ろへいなし、剣を振りかぶったまま突撃してきたシャドーの攻撃に構える。
 だが、次のシャドーが俺のもとに到達することはなかった。


「逃げてください!」
「え?」


 第3王女がシャドーの剣を受けていた。


「大丈夫か!」
「受験生は下がれ!」


 すぐに他の列を担当していた教官が応援に駆けつける。炎の塊のような槍が2本、シャドーに向かって放たれる。
 やってきた試験官たちは各々の武器と魔法でシャドーを次々押さえ込んでいき、すぐに俺と王女は戦闘から離脱した。うまく連携している教官たちの間にいれば邪魔になりそうだった。
 シャドーは1体ずつスイッチの位置が異なる。それを知っていないと事態が収束しないが、3つに分裂したことでそれを探すのに苦労しているらしい。
 だがまあ、俺や王女様が戦闘に参加せずとも、教官達はしっかり分裂したシャドーをすべて押さえ込んでくれているから、制圧も時間の問題だろう。


「助けてくれ……いただきありがとうございました」
「これから同じ生徒として学んでいくのですから、堅苦しいのは辞めてくださいませ」
「そうは言っても……」


 まだ入学試験だ。王女様はともかく俺はこのトラブル、どうなるかわからない。


「ふふ。リカエルさんですね。私、覚えましたよ」


 ふっと王女が纏っていた堅い雰囲気がなくなる。こっちが素なのかもしれないな。
 それも一瞬のことで、すぐに従者とともに他の生徒に紛れていった。
 当事者として責任は感じるが、俺もおとなしく他の受験生のいるところで隠れさせてもらうことにしよう。

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