世界最強のダンジョン攻略者、学校に入学して普通の人生(スローライフ)を目指す

すかい@小説家になろう

フローラ姫

「配られた受験番号が偶数のものは筆記、奇数のものは実技からだ!それぞれ指定された試験場所まで行くように」


 15歳になり、王都のアカデミーへの入学試験を受けられるようになった。
 あれから2年。ようやく普通の生活を始められる。そう、普通だ。
 普通に生きていく。そのためにここにきた。


「筆記試験からか……」


 指定された会場で試験開始を待つ。
 権威ある王立アカデミーというだけあって、かなりの数の貴族がいる。貴族階級はいろんな面で優遇されるものの、入学試験ではその限りではない。
 同じような平民も含めて、周りがみんな賢く見える。大丈夫だろうか……。
 15歳と言えばすでに何年も教育を受けているのが普通だ。15からも勉強しようなんてやつはそりゃ当然賢いんだろう。
 俺はこれまでろくに教育を受けてこなかった。動けなかった2年でなんとか詰め込んだものの、不安は残る。


「隣、いいかしら」
「はい。どう……ぞ?」
「ありがとう」


 席は来たものから自由。空いていた最前列に座っていたが隣に来た人物を見て息を呑んだ。こんな大物まで入学試験を受けるのか……?


「緊張してるんですね」
「わかりますか」
「ええ、私もそうですから」


 俺が緊張したのは試験ではないんだが、まあいいか。
 微笑む姿は10人が見れば10人振り返る完璧なものだ。芸術と言っていい。8人いる王子、王女の中でも最も国民の人気が高い姫。フローラ=アーク=アエリア第3王女。通称光の姫フローラ。
 この人と話せただけでここに来た甲斐があるかもしれない……。いや違う。俺は合格して普通を手にするんだ。
 15までどこの学校にも通っていない俺が攻略者以外の真っ当な仕事に就くためにはここで頑張るしかない。


「お互い頑張りましょう」
「はい。ありがとうございます」


 緊張しているとは思えない優雅な姿に、こちらが何に緊張しているのかわからなくなった。
 そのおかげか緊張は和らいだようだ。


ーーー


「準備はいいな?試験開始!」


 緊張が解けたおかげかはわからないが、筆記試験はある程度なんとかなった、気がする。
 というより、比較的簡単な、いや違うな。攻略者のための情報に寄ってくれていたおかげでわかりやすかった。ダンジョンは大陸に66あると言われているが、その全てはまだ見つかっていない。ではなぜ66とわかっているかといえば、各ダンジョンの石碑や記録魔法からの情報を読み取ったものだ。
 試験の内容はほとんどそれらに関する情報だ。もっとこう、計算や芸術分野でせめられたらやばかったと思うが、これならなんとかなるだろう。
 あとは神のみぞ知るところだ。合格したらあの完璧美人と同じクラスということも……いやないな。クラスは能力別だ。ここまで優れた教育を受け続けた王女様と2年だけの付け焼き刃の俺が同じクラスということはないだろう。


「とにかく問題は次だ」


 最大の難関である実技試験の会場へ向かった。俺はここで、どの程度力を使っていいかの判断に迷っていた。


 ◇


「試験では総合的な力を見るために、シャドーと戦ってもらう!武器は好きなものを使っていい。持参しているならそれを使え!無ければここから好きな獲物をとれ」


 剣、槍、斧などをはじめ、見慣れないものも含めて様々な武器が貸し出しに出ている。
 見覚えのあるユニーク武器を発見して懐かしい気持ちになる。
 ーー片刃の刃。やたら刀身が細いあれは、昔なじみの剣士から刀と教わったものだ。強度と切れ味を極限まで高めた片刃の剣があると聞いたけど、あれがそれだろう。使いこなせる生徒がいるのか?あの剣士でも扱いきれないと言っていたから、相当難しいんだろうな。


 とりあえず俺は無難に剣を選んで順番を待つ。


「魔法を使っても構わん!相手はシャドー。切っても焼いても何も起こらん!気にせずやれ!」


 シャドーはアエリア王国の魔法技術の集大成と呼ばれる戦闘人形だ。
 戦闘能力や動き方の方向性などは調整が可能で、今は訓練用に必要以上にダメージは与えないよう、また、相手に強さを合わせるように設定されている。


「次!」
「こちらもあいたぞ!」


 5体のシャドーに対して受験生が順番に戦闘を行なっていく。シャドーを倒せばほぼ合格は間違いない。とはいえこいつら攻撃力は設定で弱めてあるが、討伐となるとまるで話が変わる。そんなことができるのは4人しかいないダンジョン攻略者たちくらいだろう。
 ダンジョンを攻略すると人間離れしたわけのわからない力を得る。特殊魔法の習得や、儀式レベルの大魔法を個人で使用可能にするなど。この力があれば、たとえアエリア王国の粋を集めたシャドーと言えど、無事では済まないわけだ。


 他の受験生に目を向けると、武器を手にシャドーと戦うもの、魔法を撃ってシャドーを攻撃するものなど、それぞれアピールしている。貴族は当然として、平民でもここに来る人間はそれなりの教育を受けてきている。そのへんの村や街に住む人たちよりは間違いなく、武器や魔法の扱いには長けていた。ユニークなものだと使役する動物たちを使って攻撃や防御をしているのもあった。色々あって面白いな。


「あ、あれは……」


 受験生たちの中に見知った、というわけではないがわかる顔を見つけた。


「名前は……いや言わなくてもわかるが形式上、名乗ってくれ」
「フローラ=アーク=アエリアです」
「シャドーは生死に影響するような攻撃はして来ないが、危険だと判断すればすぐに止める!あとは十分アピールができたと感じたら自分で戦闘をやめるように。敵意を発しなければシャドーは襲ってこない」
「わかりました」


 言葉遣いは特に王家でも貴族でもへりくだることはない。この国はそこまで身分格差がない点や、王家がそういったことに寛容なためこの形で通っている。
 他所の国でやったらその瞬間首が飛ぶところもあるだろうな。


「では、はじめ!」


 さて、第3王女は容姿だけでなく何を取っても卒なくこなす完璧王女だ。文官としても武官としても歴史に名を残すだろうと言われている。お手並み拝見、というより、ここでシャドーとの戦い方を学ばせてもらおう。


「いきます」


 律儀にシャドーに一礼すると次の瞬間には姿が霞む。魔法による身体強化と軽い身のこなしでシャドーに斬りかかった。
 かろうじて反応を見せたシャドーだが押されている。なるほど、あのスピードならシャドーは反応できるが、反撃はできないらしい。
 いや、レイピアで攻撃しながら小出しにファイヤーボールで牽制を入れているのか。だからシャドーは反撃に移れない。一撃一撃は軽いが、確実にダメージを蓄積できている。


「すげえ!」
「さすがフローラ姫!」
「あの踏み込み、見えたか?」
「いや、見えねえ」
「シャドーが防戦一方?!壊せるんじゃないのか!」
「いいぞ!やれ!」


 観客と化した受験生たちが次々に歓声を上げはじめる。確かに、見る人を魅了する華のある人だし、立場だし、戦い方だ。
 それに、噂が確かなら第3王女の見せ場はここからだ。
 しばらくその見栄えのいい剣技を重ね、そして


「光よ!」


 完成した。


「これは!」
「光魔法!?本物?!」


 幾何学的な模様が王女の戦闘範囲にいくつも浮かび上がり、幻想的な光を放ち始める。


 4つの基本属性は誰もが練習を重ねて使ったり組み合わせることができる。
 だが、魔法にはそれ以外に、使える人が限られている特殊な属性がある。数ある魔法の中でも最も強力な上級属性の1つ、光魔法。
 適性だけなら3人に1人は持っていると言われている光魔法だが、それだけではその強力な属性魔法を使いこなすことはできない。というより、これまで存在は知られていたものの、誰も使いこなせたものがいなかった。失われた魔法、いわば神の力と考えられていた。ロストされた技術の中で最も有名なものがこの光魔法だった。
 この2年の間にの王家の誇る宮廷魔法使いたちによって理論が構築され、さらに、その理論を実行までこぎつけたのがこの第3王女。宮廷魔法使いたちもこの第3王女も、稀代の才を持つ優れた人物だ。


 光の姫。この光魔法の確立によって、王家の目立たないはずだった第3王女の名は、国民の誰もに知れ渡った。


「バースト!」


 空中の魔法陣が張り裂けるように形を崩し、周囲に眩い光を放つ。次の瞬間には、シャドーへ光が収束して飲み込まれている。強力な光魔法を受け、シャドーの身体が溶けて無くなっていく。光がはじけ、それと同時に、シャドーの身体も弾けて消えた。


「素晴らしい。さすがは光の姫君といったところか」
「いえ。私などまだまだです」


 その言葉に応えるように、光とともに弾けたはずのシャドーがその姿を再び現す。


「ははは、あれを倒されてしまっては困る。アエリア王国が誇る最高戦力なのだから」
「そう、ですね……」


 どこか暗い顔をする王女様だったが、教官の言う通りそう簡単に倒されたら困るだろう。それこそほんとにクリア組くらいなんだ、本気であれを壊そうとして、壊し切れるのは。


 ◇


 その後、光の姫ほどインパクトを受ける受験生は現れずにつつがなく試験は進行していく。フローラ姫レベルなら合格は確約されるとして、他の候補者からそこまで大きな差を見出すことができず、合格ラインが曖昧なまま俺の番が近づいていた。


「仕方ない、フローラ姫ほど目立たないように、似たような形で終わらせよう」


 方針も決め、覚悟も固まり、もう少しで俺の番、というところでトラブルが起きた。


「きゃぁああああああああああ」


 試験会場に悲鳴が響き渡った。

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