旧 ペットショップを異世界にて
口コミの効果
レオとソウの来店があった次の日、何故か午前中から何組も客がやってきた。
夢でも見てるのだろうか。
「私、手伝ったほうがいいですよね?」
「いや、ほのかはちゃんと魔法を教えてもらっておいで。場所はちょっと、奥の方に移動してもらった方がいいだろうけど」
良くも悪くも一人で捌き切れる程度の客で済んでいる。
この客入りの中で混乱が起きるのは避けたいので、バアルには奥に引っ込んでもらっている。バアルについてはあのままの格好を受け入れてもらえるような工夫をするか、いっそ着ぐるみでも着てもらうか考えなくてはならない……。
とりあえず見に来た、といった様子の客はこちらからは声をかけず、そっとしておく。買わない客に用はないというわけではなく、ゆっくり見て回ってもらった方が、こちらが声をかけるより今後につながると考えるから。
そもそもそちらまで手が回らないという事情ももちろんあったが……。
「これはなんていう動物なんですか?」
「あぁ、それは名前が付いていなかったからとりあえずイワネズミって呼んでるよ」
「ちょっとごつい名前ですね……」
興味を持った客はこうして自分から声をかけてくる。
元の世界にスナネズミという名前のペット兼餌用マウスがいたためそう名付けた。
名付けた俺自身も最初は愛らしい見た目の割に名前が、と思ったが、この名前が間違っていなかったことが後からわかった。
「そいつ、身を守る時、岩に擬態するんですよ」
擬態といえば、虫を連想しやすいだろう。枝に成り切るナナフシ、アリの姿をしたクモ、ハナカマキリやカレハムシなど。魚類でいえば川を漂う葉に擬態したリーフフィッシュ、砂と同化するヒラメやカレイ。
身を守るためだけではなく、例えばワニガメのような、捕食のための擬態もある。ワニガメの舌はミミズのようになっており、口を開いて、このミミズのような舌を狙いにきた魚を捕食する。
ちなみにカメレオンも樹や葉に擬態はしているが、色が変化するという有名な話は半分が嘘だ。
あれは別に周囲の色と同化出来るものではない。怒って威嚇をする時や温度、状態によって色が変わるだけだった。爬虫類には似たような変化をするものも多い。
「試しに触ってますか?」
「いいんですか!」
ケージに手を入れた時点で先ほどまでただのネズミだったそれは、一瞬で硬い石の姿になる。
「しばらく手の上に置いていれば元に戻るから」
「はい」
緊張した面持ちで岩を眺める女の客。人間なら二十代位に見えるが、この世界ではこのくらいの見た目で数百歳というパターンがちらほらあるので油断できない。
固まっていたイワネズミが元の姿に戻り、手の上で動き始めた。
「わっ、すぐに逃げたりしないんですね?」
ものすごくうろうろする上、隙あらば服につかまってよじ登ってこようとはするが、飛び降りたり逃げ惑う様子はない。高さの認識はできているんだろう。
じっと固まったままだった生き物が手の上で動き出す様子は、身近だったイメージでいえばダンゴムシのそれに近い。
違いとしては、擬態が完璧すぎるというところだろう。それに似せる、というレベルではなく、文字通りそのものになる魔法を利用した擬態だった。ネズミの姿で確認した後に岩になってくれれば簡単に捕獲ができるが、始めから岩の姿であれば全くわからないだろう。
「懐くし賢い動物だけど、どうしても身体が小さい分限界がありますね。トイレも何んとなくしか覚えないし、芸も今の時点では覚えるかどうか何とも言えないってところです」
「芸を覚えるんですか?!」
「大きいネズミになればなるほど賢くなるから、餌で釣りながら覚えさせれば、名前を呼んでくるようになったり、一周その場で回ってみたりくらいの芸なら覚えますよ」
購入に前向きな客はこうして声をかけたり、そもそも向こうから声をかけてくる。
ペットはともかく、パートナー候補の魔獣に至っては俺が呼ばなければ現れない。当然ながら値段もASK状態なので、声をかけてもらわないことには話が始まらないものも多かった。
「お勧めみたいなのはいるのか?」
「何をしたいかによるけど、お客さんの冒険スタイルを教えてくれたらある程度答えられるよ。あと予算次第だけど」
「そもそも生き物にどれだけの値段がついてるのかがわからないから、予算って言われてもってところはあるなぁ」
なるほど。確かに言われてみれば、客からすれば全く未知の世界だろう。
俺としては元の世界の基準があるので何となく値段設定の基準はあるが、それはあくまで俺の基準でしかない。
人気になればなるほど仕入れの関係で値段を抑えることはできるが、現時点でそういった売れ筋のペットもパートナーもほとんどいない。
強いて言えば定期的に各国の軍や貴族から依頼が入る竜種だけがそうだが、あれはそもそもの値段が高すぎていきなり来た客に勧められるものではなかった。
「ねぇ!この子すごく可愛いじゃない!私でもテイムできるのかしら?」
「ここにいる子なら保証はするけど、その辺で見つけたからといって簡単にテイムできるもんじゃないな」
「ふーん。そうなのね」
テイムの難易度はそのまま値段の差に結びついている。
わかりやすくするなら、ペット枠は見つけやすさ、パートナー枠は強さが値段の基準になる。ペット程度なら見つかれば比較的簡単にテイムはできる。見つけることと、見つけた後に逃げられないこと以上の技術はいらない。
一方パートナー枠は一度実力の差を見せつけてから従順にさせるという手順がある。結局強いほどテイムまでたどり着くのが難しくなるというわけだ。
こうして様々な客の対応をしながら、店を開いて以来初めて忙しさを感じながら対応をするという事態になった。
興味を持つだけ、話を聞くだけで購入に踏み切る客はほとんどいなかったものの、手ごたえを感じる忙しさだ。
ーーー
「なぁなぁ、グランドウルフを見せてくれよ」
「あれは売り物じゃないけど……」
一番多かったのはこの要望だった。
ここまで来るとこの客入りの理由も納得がいく。
「お、これは……思ったよりもって感じだな」
「レオが大げさに宣伝した結果だ。何かあれば責任を取る必要がある」
昨日来店した二人組が、革袋いっぱいの金貨を握りしめて来店した。
夢でも見てるのだろうか。
「私、手伝ったほうがいいですよね?」
「いや、ほのかはちゃんと魔法を教えてもらっておいで。場所はちょっと、奥の方に移動してもらった方がいいだろうけど」
良くも悪くも一人で捌き切れる程度の客で済んでいる。
この客入りの中で混乱が起きるのは避けたいので、バアルには奥に引っ込んでもらっている。バアルについてはあのままの格好を受け入れてもらえるような工夫をするか、いっそ着ぐるみでも着てもらうか考えなくてはならない……。
とりあえず見に来た、といった様子の客はこちらからは声をかけず、そっとしておく。買わない客に用はないというわけではなく、ゆっくり見て回ってもらった方が、こちらが声をかけるより今後につながると考えるから。
そもそもそちらまで手が回らないという事情ももちろんあったが……。
「これはなんていう動物なんですか?」
「あぁ、それは名前が付いていなかったからとりあえずイワネズミって呼んでるよ」
「ちょっとごつい名前ですね……」
興味を持った客はこうして自分から声をかけてくる。
元の世界にスナネズミという名前のペット兼餌用マウスがいたためそう名付けた。
名付けた俺自身も最初は愛らしい見た目の割に名前が、と思ったが、この名前が間違っていなかったことが後からわかった。
「そいつ、身を守る時、岩に擬態するんですよ」
擬態といえば、虫を連想しやすいだろう。枝に成り切るナナフシ、アリの姿をしたクモ、ハナカマキリやカレハムシなど。魚類でいえば川を漂う葉に擬態したリーフフィッシュ、砂と同化するヒラメやカレイ。
身を守るためだけではなく、例えばワニガメのような、捕食のための擬態もある。ワニガメの舌はミミズのようになっており、口を開いて、このミミズのような舌を狙いにきた魚を捕食する。
ちなみにカメレオンも樹や葉に擬態はしているが、色が変化するという有名な話は半分が嘘だ。
あれは別に周囲の色と同化出来るものではない。怒って威嚇をする時や温度、状態によって色が変わるだけだった。爬虫類には似たような変化をするものも多い。
「試しに触ってますか?」
「いいんですか!」
ケージに手を入れた時点で先ほどまでただのネズミだったそれは、一瞬で硬い石の姿になる。
「しばらく手の上に置いていれば元に戻るから」
「はい」
緊張した面持ちで岩を眺める女の客。人間なら二十代位に見えるが、この世界ではこのくらいの見た目で数百歳というパターンがちらほらあるので油断できない。
固まっていたイワネズミが元の姿に戻り、手の上で動き始めた。
「わっ、すぐに逃げたりしないんですね?」
ものすごくうろうろする上、隙あらば服につかまってよじ登ってこようとはするが、飛び降りたり逃げ惑う様子はない。高さの認識はできているんだろう。
じっと固まったままだった生き物が手の上で動き出す様子は、身近だったイメージでいえばダンゴムシのそれに近い。
違いとしては、擬態が完璧すぎるというところだろう。それに似せる、というレベルではなく、文字通りそのものになる魔法を利用した擬態だった。ネズミの姿で確認した後に岩になってくれれば簡単に捕獲ができるが、始めから岩の姿であれば全くわからないだろう。
「懐くし賢い動物だけど、どうしても身体が小さい分限界がありますね。トイレも何んとなくしか覚えないし、芸も今の時点では覚えるかどうか何とも言えないってところです」
「芸を覚えるんですか?!」
「大きいネズミになればなるほど賢くなるから、餌で釣りながら覚えさせれば、名前を呼んでくるようになったり、一周その場で回ってみたりくらいの芸なら覚えますよ」
購入に前向きな客はこうして声をかけたり、そもそも向こうから声をかけてくる。
ペットはともかく、パートナー候補の魔獣に至っては俺が呼ばなければ現れない。当然ながら値段もASK状態なので、声をかけてもらわないことには話が始まらないものも多かった。
「お勧めみたいなのはいるのか?」
「何をしたいかによるけど、お客さんの冒険スタイルを教えてくれたらある程度答えられるよ。あと予算次第だけど」
「そもそも生き物にどれだけの値段がついてるのかがわからないから、予算って言われてもってところはあるなぁ」
なるほど。確かに言われてみれば、客からすれば全く未知の世界だろう。
俺としては元の世界の基準があるので何となく値段設定の基準はあるが、それはあくまで俺の基準でしかない。
人気になればなるほど仕入れの関係で値段を抑えることはできるが、現時点でそういった売れ筋のペットもパートナーもほとんどいない。
強いて言えば定期的に各国の軍や貴族から依頼が入る竜種だけがそうだが、あれはそもそもの値段が高すぎていきなり来た客に勧められるものではなかった。
「ねぇ!この子すごく可愛いじゃない!私でもテイムできるのかしら?」
「ここにいる子なら保証はするけど、その辺で見つけたからといって簡単にテイムできるもんじゃないな」
「ふーん。そうなのね」
テイムの難易度はそのまま値段の差に結びついている。
わかりやすくするなら、ペット枠は見つけやすさ、パートナー枠は強さが値段の基準になる。ペット程度なら見つかれば比較的簡単にテイムはできる。見つけることと、見つけた後に逃げられないこと以上の技術はいらない。
一方パートナー枠は一度実力の差を見せつけてから従順にさせるという手順がある。結局強いほどテイムまでたどり着くのが難しくなるというわけだ。
こうして様々な客の対応をしながら、店を開いて以来初めて忙しさを感じながら対応をするという事態になった。
興味を持つだけ、話を聞くだけで購入に踏み切る客はほとんどいなかったものの、手ごたえを感じる忙しさだ。
ーーー
「なぁなぁ、グランドウルフを見せてくれよ」
「あれは売り物じゃないけど……」
一番多かったのはこの要望だった。
ここまで来るとこの客入りの理由も納得がいく。
「お、これは……思ったよりもって感じだな」
「レオが大げさに宣伝した結果だ。何かあれば責任を取る必要がある」
昨日来店した二人組が、革袋いっぱいの金貨を握りしめて来店した。
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