ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

012 冒険者ほのか

「この子、もう実戦に出してみようと思うのだけど」


というエリスの言葉を受けてほのかを冒険者ギルドへ連れてきた。


「ついに私も冒険を……!」


 ほのかは期待に目を輝かせ、ガッツポーズで掲示板の前に立つ。
 気持ちはわかる。俺も初めて依頼を受けるときはそんな感じだった。


「基本的には好きな依頼を受けるといい」


 掲示板を見て依頼の善し悪しを判断することも、冒険者には必要なスキルだ。


「とはいっても、最初は迷うでしょう。いきなりBランクなんだから」
「まぁそれもそうか」


 普通はFランクから。選ぶことができる依頼も限られているが、ほのかの場合はBランク。掲示板にあるクエストはすべて受けることができるから迷うのも当然だろう。


「じゃあ少し絞るか……?」


 声をかけるがほのかは既に1つの依頼書に集中していた。


「アツシさん、これって」
「ん?」


『金塊の調査 適性ランクB』


「調査依頼か」
「いいんじゃないかしら」
「ただなぁ……」


 ほのかは多分、こないだ俺が出した金を気にしている。そして2日目にしてうちの財政状況を的確に把握し、これを選んだように思う。
 とはいえ調査依頼自体は依頼失敗の違約金がほとんどなく、Bランク相当ということはほのかにとって丁度良い環境で実施するということを考えると悪い選択ではない。


「まあ、いいか」


 依頼者はギルド。指定された場所に金塊が隠されているという噂が流れ、適性ランクを無視した挑戦者が犠牲となるケースが後をたたないために出した調査依頼のようだ。金塊が必要というよりは、その噂にケリをつけるための依頼であるため、もし金塊を発見した場合は発見者に権利を譲ると書いてある。
 つまりギルドとしてもこの噂を信じておらず、周囲をくまなく調査したという証明がほしいだけということだ。


「じゃ、依頼を受ける流れは私が説明しましょうか」
「はい! よろしくおねがいします!」


 エリスは一応師匠として冒険者のイロハも教えるつもりがあるらしい。その間に俺はほのかの調査依頼に合わせた採取、討伐依頼を確認しておいた。もしほのかが金塊の調査を諦めざるを得ない状況になったとしても、この依頼を把握しておけば無駄足にはならない。いくつかは受けておいてもいいだろう。


「しかしほのか、調査用の魔法でも覚えたのか……?」


 ほのかは考えなしの子ではない。いくら金銭面に負い目を感じているとはいえそれだけの理由で選ぶようなことはないはずだ。
 だが調査に利用できる魔法となると、土魔法を中心とした複雑な複合魔法を強いられる。たった1日でそこまで覚えているとすれば、本当にこの世界に名を刻む魔法使いになるだろう……。


「末恐ろしい同郷人だな……」


 ◇


「じゃ、いきましょうか」


 説明の必要な2人より先に依頼を受け、ギルド入り口で待っていた俺にエリスが声をかけてくる。
 だが一緒にいたはずのほのかがいない。


「置いてきたのか?」
「あら、付いてきてると思っていたんだけど」


 振り返るとほのかが変な男に絡まれていた。


「へぇ、魔法使い! すごいんだねぇ、君」
「ありがとうございます!」
「でも初心者なんだねぇ」
「あはは、そうなんです」
「じゃあさ、俺が色々と、手取り足取り教えてあげようか? 実は俺も魔法が使えるんだよね」


 そういって男は火の玉を宙へ浮かべてみせた。
 エリスと顔を見合わせる。


「アツシがかっこよく助けてあげるべきシーンじゃない?」
「いや、ほのか別に困ってないよな」
「まぁ、そうねぇ」


 ほのかの表情を見るとただ人に話しかけられたくらいにしか感じていないようだ。


「私、すごい師匠がいるので!」
「へぇ、でもそれ、俺より強い〜?」


 真実を知っていると恐ろしくなる言葉を男が吐く。


「んー……お兄さんのことはよくわかりませんが、多分強いですよ!」
「ふーん。でもさ、じゃあもしおれのほうが強かったら、俺が色々と」
「あ、ごめんなさいそろそろ行かないと」
「大丈夫だって! ほらほら」


 男がほのかに手を伸ばそうとしたところでエリスが動こうとする。それを手で制してもう少し様子を見るように告げた。


 バチッと光がほとばしり、ほのかの身体に触れようとした男の手が弾き飛ばされた。
 エリスではない。ほのかがやった紛れもない魔法だ。


「あの子……まだあんなこと教えてなかったのに」
「昨日夜な夜な色々やってるのが聞こえてたからな」
「ほんとに……将来が楽しみね」


 魔法を自ら組み立てるというのは、多少魔法の才能がある程度では届き得ない領域だ。魔法を習ってたった1日でそれをこなすほのかは異常、身内がいれば神童として褒め称えただろう。
 男は今起こったことが信じられないという顔をしていたが、次の瞬間、顔を歪めて笑った。


「へぇ〜。そう。俺に手、出しちゃうんだ?」


 手を出したのは男のほうだが、そんなことは言うだけ無駄なんだろう……。
 いよいよ手助けをしようと思ったところで、今度は俺がエリスに止められた。


「多分あの子、まだ困ってないわ」
「あー……みたいだな」


 ほのかに向けて男が手をかざす。


「ちょっと痛い目合ったらわかるっしょ。俺がお前の師匠なんかより段違いに強いって」


 バチバチと男の手を纏うように魔力波が巻き起こる。冒険者ギルドでこの程度の諍いはよくあることなので、周囲も特に何も言わない。


「で、あの男、知ってるか?」
「いいえ。初めてみたわね」
「じゃあ良くてAランクか」


 流石にSランクの冒険者はエリスなら顔くらいわかるだろう。俺のように隠しているやつじゃなければ。
 あのタイプがSランクを隠すとは思えないので結果的にAランク以下ということだな。Aランクでもまぁ目立つ存在にはなるから、Bくらいな気もする。それ以下であれほど自信があったらそれはそれでおかしいのでBが妥当か……。だとしたら、ほのかの相手になるはずがなかった。


「ま、授業料ってことで受け取りなよ。だ〜いじょうぶ。ちゃんと起きるまで介抱してあげるからさ」


 溜めに溜めた男の魔力波が収束し、炎になってほのかに襲いかかった。


「こんなところで魔法を出したら危ないですよ?」
「へ……?」


 男が必死に溜めた魔法は、ほのかが振り向きざまに片手間で放った魔法にかき消された。


「私の師匠なら、コントロールしてても私なんかには止められないので」
「あ、あぁ……そう……」
「じゃあ、行きますね」
「はい……」


 すっかり萎縮した男を置いてほのかがこちらへかけてくる。


「お待たせしました!」
「あぁ、しかしほんと、恐ろしい才能を感じるな」
「この子はそれでいて、魔法を楽しんでるからね。ほんとに面白い子ね」


 この世界は生活に必需になるため、魔法と慣れ親しんで育つ人間が多い。そのため魔法に対する憧れや楽しさは、元の世界で言う科学に魅力を感じるかどうかというレベルになる。


 ちなみに先程のナンパ男は、ほのかの合流した先にいるエリスを見て口を開けて固まっていた。









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