ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜
009 テイマーの力
「“テイマー”って、実際のところどれだけの力があるんですか?」
漠然とした質問だが、言わんとするところはわかる。
「人に効くかってことだよな」
「えっ……と……はい」
「そんな気にすることない。俺も気になってたしな」
「じゃあ、試したんですか?」
ほのかの表情に怯えはない。
どちらかといえば好奇心でそう聞いてきているくらいだ。
「このスキルは、契約を結ぶためのものだ」
「契約?」
「そう。お互いが条件を出し合って、その条件の上で信頼関係を構築しましたという、証明のようなものになるスキルだな」
「それって、無理矢理契約を結ばせるような感じでは無いってことですか……?」
俺も考えた事がある。だが実際には、テイマーのスキルはそこまで便利ではなかった。
「契約に行き着くまでの流れは、スキルがあってもなくても、同じなんだ」
「そうなんですか?」
「例えばハクみたいな猛獣系の生き物は、大抵肉が好き。地道にこちらに敵意がないことを示したり、力で勝てないことを覚えこませたりしながら、こちらに寄ってくれば良いことがあるという流れを作る。肉をあげたりな」
「地味ですね……」
「犬のしつけもそんなもんだろ? まああいつらは初めから人間大好きだから、こっちの世界でもそのタイプのは楽で良いんだけど……話が逸れた。とにかく生き物に地道に色んなことを覚えこませて、お互いに何をしたら嬉しいかを確認しあって、協力関係を結ぶ。これが“テイム”の一般的な流れ」
「思ったよりもややこしいですね……そういった手順を飛ばせるのが“テイマー”だと思っていました」
異世界に来てこの能力に気付いた時には、めちゃくちゃ強い魔物を無理やり従えて無双できる! とか考えたりもした。
そんな夢はすでに、手痛い代償を伴ってあっけなく崩れ去っている。
「多分最初の質問の意図は、人間にも効果があるかって部分も入ってたと思うけど、こういう理由があるからおそらく効かないかな」
「おそらくっていうのは?」
「試したことがないから。もしそれが成り立って、それを利用してしまえば、俺はペット屋じゃなく奴隷商になってしまう。ペットもエゴと言えばエゴだけど、その辺の線引きはしておきたいからな」
人間以外にもこの世界には言語を用いてコミュニケーションが取れる種族はたくさんいる。人間視点で亜人と呼ばれる種族や、龍や精霊のような高位の生命体がそれだ。
“テイマー”というスキルは、人間をはじめ、こういった相手を無理やり従えるようなチートスキルとしては力不足だと考えている。少なくとも俺はその方向に使うつもりはなかった。
「ここまでの話だと、スキルに意味を感じられないんですが……」
「確かにそうだ」
笑い飛ばす。“テイマー”はノーマルスキルとは一線を画するエクストラスキルと呼ばれるレアスキルであるが、こうまとめてしまうと、ほとんど役に立っていないように聞こえる。
「“テイマー”の能力は、結ばれた協力関係を信頼というあやふやな枠から、契約という明確な約束にするものだ」
「契約……」
「例えば、ハクは俺との契約があるから、どんなに腹が減ってもほのかや俺を襲うことはない」
「それは、こんなに仲良くなったのだから当然なのでは?」
ゴロゴロと気持ちよさそうに頭を撫でさせるハクからは、確かに人を襲う様子は想像できない。
「信頼をいくら築いたって、言葉の通じない相手だしな。それに信用を失う行動を取れば、それまでの関係は崩れる」
「信用を失うような行動って?」
「例えば、買われていった生物に餌も与えず、ろくに動けない小さな檻に閉じ込めてしまえば、たちまちそいつは飢えた魔獣に逆戻りする」
「そこまでのことは流石に……」
「そう、そこまでのことはしないはずだ。そんなもん、いくら“テイマー”のスキルで契約を結んでいたって、こちらの不備で契約が破棄されてしまう」
「なるほど……」
ほのかがウンウンうなりながら色々考えている。
「あれ? でも契約が破棄されるんだったらやっぱり、テイマーって……」
「……」
俺も自分で説明していて自信がなくなっって来た。ほんと、この能力大丈夫なのだろうか。
「まあ、最大のメリットは、こちらに危害を与える意思がなければ、信頼関係が崩れないってところだろうな。普通なら、気づかないうちに彼らの信用を損ねることもあるわけだし」
動物たち声なき声に耳を傾けなければ、全く意図していない行為も彼らの尊厳を傷つける。
「猫って水が嫌いなのは有名だよな?」
「そうですね。それが……」
「それを知らずに、飼い主の好意で風呂に入れてやろうとしたり、暑いからって水をかけたりってことは、あり得るだろ?」
「ああ! ペットとして飼育法が確立していなければ、そういったことも起こり得るんですね」
「そう。だから普通、パートナーは一匹になる。そんなに気を使って色々世話をしていくのは厳しい」
その点、テイマーの契約なら、そういった不慮の事故で信頼関係を失うことがない。原理はわからんが、なんらかの形でそういった内容を生き物に理解させるスキル。これが“テイマー”の能力だ。
本当に大した能力じゃないな……。ちょっと凹む。
「でも、アツシさんは実際に何匹もの生き物を手懐けてますよね。私にはその難しさがまだわかりませんが、この子たちが本気で敵意をむき出しにしている中、手懐けるなんてできる気がしません」
「あぁ……。“テイマー”持ちは生き物に懐かれやすいとか、言葉を理解させられるとかいう説もあるけど、その辺はわからないな」
そもそもこのスキルを持っている生きた人間を、俺は知らない。過去に記録があったので少し見た程度だ。
5年もやっていてこれだけの数の生き物を相手にしていれば、なんとなく感じ取れる部分もなくもないが、それをスキルのおかげと言い切るのは癪だし、自らの力だと言い切るのも躊躇われる、微妙な心境だ。
「ま、そういうわけだからほのかみたいな力のほうが正直、羨ましい部分もある」
「私、多分テイマーの力ってもっと……ふぁ……」
ほのかがなにか言いかけたところで可愛らしくあくびをした。
「すみません……」
頬を染めながら小さくなるほのかに笑う。
「今日はもう疲れただろ」
「そう、かもしれません」
「部屋はエリスの魔法で簡単に掃除してくれたらしいから、寝る分には困らないと思う」
空き部屋にちょうどいい木箱の山があったので、ベッドのようにセッティングしてある。
明日にはちゃんとしてやらないとだな。
「明日からはほのかに具体的に魔法を教えていくから」
眠そうだった目を一気に輝かせるほのか。
実際に教えるのはエリスだが、まぁいいだろう。
「あ、でも、お店のことも教えて下さい!」
「Bランクの冒険者ならわざわざこんなとこで働かなくてもなんとかなるぞ?」
自分で言ってて悲しくなるが、まぁそもそもBランクの魔法使いというのが特殊すぎるんだ。仕方ない。
「いえ、私がお手伝いしたいんです……! それに、お給料ももらっちゃいましたし」
「そうか」
給料と称してわたした金額も、Bランクなら一日あれば余裕で稼ぎ切るだろう。
まぁでも、ほのかの目を見ると断るのも申し訳ない気持ちになってくる。
「じゃあしばらくは店のことを覚えるのと、魔法の特訓だな」
「はいっ!」
「慣れてきたら冒険者としても活動していこう。最初は俺もついていくから」
「心強いです!」
ゆくゆくはこの世界で誰かに頼らなくても済むようにしてあげなければと思う。
ただこうして出会えた縁だ。俺も、懐かしい故郷の話をできる貴重な相手と楽しみたい気持ちもある。
ほのかが満足するまではここにいてもらえばいいだろう。
漠然とした質問だが、言わんとするところはわかる。
「人に効くかってことだよな」
「えっ……と……はい」
「そんな気にすることない。俺も気になってたしな」
「じゃあ、試したんですか?」
ほのかの表情に怯えはない。
どちらかといえば好奇心でそう聞いてきているくらいだ。
「このスキルは、契約を結ぶためのものだ」
「契約?」
「そう。お互いが条件を出し合って、その条件の上で信頼関係を構築しましたという、証明のようなものになるスキルだな」
「それって、無理矢理契約を結ばせるような感じでは無いってことですか……?」
俺も考えた事がある。だが実際には、テイマーのスキルはそこまで便利ではなかった。
「契約に行き着くまでの流れは、スキルがあってもなくても、同じなんだ」
「そうなんですか?」
「例えばハクみたいな猛獣系の生き物は、大抵肉が好き。地道にこちらに敵意がないことを示したり、力で勝てないことを覚えこませたりしながら、こちらに寄ってくれば良いことがあるという流れを作る。肉をあげたりな」
「地味ですね……」
「犬のしつけもそんなもんだろ? まああいつらは初めから人間大好きだから、こっちの世界でもそのタイプのは楽で良いんだけど……話が逸れた。とにかく生き物に地道に色んなことを覚えこませて、お互いに何をしたら嬉しいかを確認しあって、協力関係を結ぶ。これが“テイム”の一般的な流れ」
「思ったよりもややこしいですね……そういった手順を飛ばせるのが“テイマー”だと思っていました」
異世界に来てこの能力に気付いた時には、めちゃくちゃ強い魔物を無理やり従えて無双できる! とか考えたりもした。
そんな夢はすでに、手痛い代償を伴ってあっけなく崩れ去っている。
「多分最初の質問の意図は、人間にも効果があるかって部分も入ってたと思うけど、こういう理由があるからおそらく効かないかな」
「おそらくっていうのは?」
「試したことがないから。もしそれが成り立って、それを利用してしまえば、俺はペット屋じゃなく奴隷商になってしまう。ペットもエゴと言えばエゴだけど、その辺の線引きはしておきたいからな」
人間以外にもこの世界には言語を用いてコミュニケーションが取れる種族はたくさんいる。人間視点で亜人と呼ばれる種族や、龍や精霊のような高位の生命体がそれだ。
“テイマー”というスキルは、人間をはじめ、こういった相手を無理やり従えるようなチートスキルとしては力不足だと考えている。少なくとも俺はその方向に使うつもりはなかった。
「ここまでの話だと、スキルに意味を感じられないんですが……」
「確かにそうだ」
笑い飛ばす。“テイマー”はノーマルスキルとは一線を画するエクストラスキルと呼ばれるレアスキルであるが、こうまとめてしまうと、ほとんど役に立っていないように聞こえる。
「“テイマー”の能力は、結ばれた協力関係を信頼というあやふやな枠から、契約という明確な約束にするものだ」
「契約……」
「例えば、ハクは俺との契約があるから、どんなに腹が減ってもほのかや俺を襲うことはない」
「それは、こんなに仲良くなったのだから当然なのでは?」
ゴロゴロと気持ちよさそうに頭を撫でさせるハクからは、確かに人を襲う様子は想像できない。
「信頼をいくら築いたって、言葉の通じない相手だしな。それに信用を失う行動を取れば、それまでの関係は崩れる」
「信用を失うような行動って?」
「例えば、買われていった生物に餌も与えず、ろくに動けない小さな檻に閉じ込めてしまえば、たちまちそいつは飢えた魔獣に逆戻りする」
「そこまでのことは流石に……」
「そう、そこまでのことはしないはずだ。そんなもん、いくら“テイマー”のスキルで契約を結んでいたって、こちらの不備で契約が破棄されてしまう」
「なるほど……」
ほのかがウンウンうなりながら色々考えている。
「あれ? でも契約が破棄されるんだったらやっぱり、テイマーって……」
「……」
俺も自分で説明していて自信がなくなっって来た。ほんと、この能力大丈夫なのだろうか。
「まあ、最大のメリットは、こちらに危害を与える意思がなければ、信頼関係が崩れないってところだろうな。普通なら、気づかないうちに彼らの信用を損ねることもあるわけだし」
動物たち声なき声に耳を傾けなければ、全く意図していない行為も彼らの尊厳を傷つける。
「猫って水が嫌いなのは有名だよな?」
「そうですね。それが……」
「それを知らずに、飼い主の好意で風呂に入れてやろうとしたり、暑いからって水をかけたりってことは、あり得るだろ?」
「ああ! ペットとして飼育法が確立していなければ、そういったことも起こり得るんですね」
「そう。だから普通、パートナーは一匹になる。そんなに気を使って色々世話をしていくのは厳しい」
その点、テイマーの契約なら、そういった不慮の事故で信頼関係を失うことがない。原理はわからんが、なんらかの形でそういった内容を生き物に理解させるスキル。これが“テイマー”の能力だ。
本当に大した能力じゃないな……。ちょっと凹む。
「でも、アツシさんは実際に何匹もの生き物を手懐けてますよね。私にはその難しさがまだわかりませんが、この子たちが本気で敵意をむき出しにしている中、手懐けるなんてできる気がしません」
「あぁ……。“テイマー”持ちは生き物に懐かれやすいとか、言葉を理解させられるとかいう説もあるけど、その辺はわからないな」
そもそもこのスキルを持っている生きた人間を、俺は知らない。過去に記録があったので少し見た程度だ。
5年もやっていてこれだけの数の生き物を相手にしていれば、なんとなく感じ取れる部分もなくもないが、それをスキルのおかげと言い切るのは癪だし、自らの力だと言い切るのも躊躇われる、微妙な心境だ。
「ま、そういうわけだからほのかみたいな力のほうが正直、羨ましい部分もある」
「私、多分テイマーの力ってもっと……ふぁ……」
ほのかがなにか言いかけたところで可愛らしくあくびをした。
「すみません……」
頬を染めながら小さくなるほのかに笑う。
「今日はもう疲れただろ」
「そう、かもしれません」
「部屋はエリスの魔法で簡単に掃除してくれたらしいから、寝る分には困らないと思う」
空き部屋にちょうどいい木箱の山があったので、ベッドのようにセッティングしてある。
明日にはちゃんとしてやらないとだな。
「明日からはほのかに具体的に魔法を教えていくから」
眠そうだった目を一気に輝かせるほのか。
実際に教えるのはエリスだが、まぁいいだろう。
「あ、でも、お店のことも教えて下さい!」
「Bランクの冒険者ならわざわざこんなとこで働かなくてもなんとかなるぞ?」
自分で言ってて悲しくなるが、まぁそもそもBランクの魔法使いというのが特殊すぎるんだ。仕方ない。
「いえ、私がお手伝いしたいんです……! それに、お給料ももらっちゃいましたし」
「そうか」
給料と称してわたした金額も、Bランクなら一日あれば余裕で稼ぎ切るだろう。
まぁでも、ほのかの目を見ると断るのも申し訳ない気持ちになってくる。
「じゃあしばらくは店のことを覚えるのと、魔法の特訓だな」
「はいっ!」
「慣れてきたら冒険者としても活動していこう。最初は俺もついていくから」
「心強いです!」
ゆくゆくはこの世界で誰かに頼らなくても済むようにしてあげなければと思う。
ただこうして出会えた縁だ。俺も、懐かしい故郷の話をできる貴重な相手と楽しみたい気持ちもある。
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