ペットショップを異世界にて~最強店長の辺境スローライフ?!〜

すかい@小説家になろう

001 才能

「可愛い……こんな可愛い生き物がいたんですね……」
「フェリスか。そいつは確かに元の世界にはいないタイプかもしれない」
  
 フェリスは耳がやたら大きいねずみの仲間だ。耳が大きいというのは他のサイズ感を小さく見せるため、全体の見た目は可愛らしくなる。日本でも珍しいペットとしてフェネックなんかは人気だったし、世界一可愛い動物に選ばれたこともあったはずだ。
  
「フェネックより小さいですね?」
「フェネックはきつねだけど、こいつはねずみだからな。これでアダルトだ」
「こんな、手のひらサイズで……」
  
 恍惚の表情でフェリスをなでるほのか。どちらも単体で可愛らしいものが一人と一匹で互いを引き立てる。
 立派な看板娘として活躍してくれそうだな。


 ◇
  
「こっちのコーナーは……」
「えさコーナーだな。ある意味そこが一番売れ筋だ」
「えさって……ひっ!」
「小動物はほとんど虫が主食だからなあ……」
  
 衣装ケースのような大き目の半透明のケースの中、蠢きあう虫たちというのは慣れていても結構気持ち悪い。
 ダンゴムシが平たく、大きくなったような、ダイオウグソクムシのようなフォルムの虫。爬虫類飼育をしているとデュビアというゴキブリの一種がまさにそれなのだが、あえて彼女にゴキブリの名前を告げることは避けよう。
 見た目はダンゴムシかワラジムシなのだから。
  
「これ……何が食べるんですか……」
「フェリスもこれあげたら喜んで食べるぞ」
「ひぃ……」
  
 ペットという感覚に馴染みの薄い世界。人工フードというものがない以上、野菜や果物だけでは栄養が偏る。どうしてもこういったもので直接たんぱく質を摂取させていくことが、雑食性の動物たちの飼育には必要不可欠だった。
  
「メインは奥の爬虫類系の餌だけどな」
「爬虫類! トカゲとかですか?」
「大まかなくくりで言うと、ヤモリ、トカゲ、ヘビあたりだなあ」
「ヘビ!」
「あ、そっちはいけるのか」
  
 てっきり虫と同様の反応かと思えば、その辺には抵抗がないようだ。むしろ、目を輝かせてうきうきしている。
  
「その虫たちを越えていかないと、爬虫類たちのところへはたどり着けない」
「なんでですか!?」
「んー、哺乳類とか鳥類は割りとなんとかいけるにしても、その奥にいるやつらはそこを通り抜けるくらいができないと飼いきれないんだよ。期待を持たせておいて結局“かえない”っていうのは、お互いのためにならないからな」
「なるほど……。飼えると思っていた期待と、買ってもらえると思う期待ですね」
「そういうこと」
  
 とはいえ、ほのかは客というわけではないので、虫を隅に避けて道を空ける。
 ここで働く以上いつかは慣れてもらわないといけないが、今はまあいいだろう。
  
「わあ!」
「このコーナーでそんな喜んでもらえるとは……」
  
 人が二人すれ違うには狭すぎるようなスペースに、ケージが積み上げられている。
 基本的には一つのケージに一匹、ヤモリやトカゲ、ヘビがいる。
  
「可愛いですねえ」
「そいつは今は可愛いけど、俺よりでかくなるぞ……」
「それはそれで、育てがいがあっていいですね!」
  
 かなりこの道のポテンシャルの高さを感じさせる発言だ。
  
「ただ、そいつらを扱うには虫は避けて通れないな」
「うぅ……でも、この子達のためなら頑張れる気もしてきました」
「すごいな……じゃあちょっとやってみるか」
「え……?」
  
 善は急げという。
 さっそく先ほどのケースから、隠れ家になっている厚紙のようなものを取り出す。中に入っている虫を小さいケースに叩き落し、隠れ家を元に戻す。ばたばたと逃げ回る姿も、慣れるとこれはこれで楽しいが、この数をいきなり相手するのは難しいだろう。移し変えた小さいケースだけを持ってほのかの元へ戻る。
  
「いけそうか?」
「う……なんとかがんばります」


 顔をひきつらせながらも蠢く虫たちの入った容器を受け取るほのか。


「このままあげてもいいんだけど、栄養価が足りなくなるのを避けるために、ここに魔法の粉をかけます」
「魔法の粉?」
  
 元の世界では、虫を餌に使うときにはカルシウムパウダーをまぶすという鉄則があった。野生下で食べているであろう虫や野菜をそのままあげているのだから、特に必要もない気もしたが、この辺はどうしても癖が抜け切らずにわざわざカルシウムやその他栄養素を配合した粉末を用意していた。
  
「これをこいつらにまぶしてからあげる」
「やってみます」
  
 慎重に粉末を虫にまぶす。粉が落ちるたびに虫たちが跳ね、そのたびにほのかもビクンと跳ねる。
 微笑ましい光景だ。決してやましい目で見てはいない。決して。
  
「あとはまあ、このまま虫をケージにつっこんだら勝手に食べるんだけど、ピンセットであげてみようか」
「これを、つまむんですか……」
「難しいか……」
  
 しばらくピンセットを片手に格闘していたが、どうしようもなさそうだったので助けに入る。
  
「うちでは使ってないけど、コオロギとかバッタに近いような虫は足を取ったりっていう作業も必要だったりする」
「さすがにそれは……」
「まあ、慣れるよ」
  
 ピンセットで捕まえられるかどうかは慣れの問題だ。ピンセットで虫を“捕まえようとした”というだけで、この子はもう大丈夫だろう。
  
「はい」
「あ、ありがとうございます」
  
 捕まえた状態のピンセットをそのまま手渡す。
  
「じゃあ指名も入っていたことだし、マジックモニターへの餌やり体験といこうか」
「マジックモニター?」
「安直だけど、この世界で始めて俺がみたオオトカゲだから。マジックは異世界の俺の中での象徴、モニターは元の世界でもオオトカゲっていう意味」
「そうだったんですね」
「聞いてもそいつに名前はなかったから、新種として名付けたんだよ」
  
 敵性の魔物であっても“テイム”でパートナー化することは可能ではあるが、基本的にパートナー候補は無害な野生動物になる。
 そもそも動物達をパートナーとして活用する手法はあまり一般的ではない。
 調教方法が確立されておらず、敵性の相手の場合にはほぼ確実にスキル頼みになること。俺の持つ“テイマー”のスキルがレアなスキルであることが主な原因だ。


「すごいんですね! アツシさんのスキルって」
「いや、珍しいだけだぞ?」


 これまでもたまたま懐いた動物や、言葉によってコミュニケーションが取れる高位の生物と共に戦うことはあったが、それ以上はスキル頼みになるパートナーの仕組み。俺のようにそれを専門に行う業者もいなかったようで、しっかりした調教法が確立されているのは馬と小型の竜、あとは手紙を運ぶ鳥くらいだった。
 無害かつ懐きにくい動物をわざわざ探し回るような人間は少なかったようで、新種は比較的簡単に見つかった。マジックモニターもその中の一つだ。
  
「わ!ぱくって!すごい!」
「可愛いだろ?」
「はい!これなら虫も頑張ろうって思えます!」
  
 食欲旺盛な彼らは餌の準備をはじめた時点で、チロチロ舌を伸ばしながら擦り寄ってくる。ピンセットを差し出せば喜んでパクパク食べてくれる。
  
「餌やりは飼育者に大きな楽しみの一つだよなあ」
「はい!」
  
 まあ、これだけの数がいると流れ作業で消化するだけになってしまうのだが。
 今日は新鮮な体験ということで喜んでもらえたならよかった。





「アツシさん、そういえばスキルとかそういう部分、教えてもらっても良いでしょうか?」
「ああ、そうだった。悪いな」
「いえいえ! そんな……! ただ私もなにか役にたてないかと思って」


 ペットショップ経営に役立つスキルは……一般的にはあまり嬉しくはないだろうな。
 実際この世界に来て最初はかなり苦戦した。もっとこう、わかりやすく強いスキルやステータスが欲しかった。普通に死にかけたからな……。


「ほのかもなにかしらスキルは持ってるだろうし近いうちに見に行こうな」
「そうなんですか?!」


 目を輝かせるほのか。
 勢いで虫が飛び出したがマジックモニター達がしっかりキャッチしてくれる。


「すみません……」
「いや、興奮するのもわかる。この作業が終わったらすぐにでもやろう」
「良いんですか……?」


 おずおずと伺いを立てる様子は期待と興奮を全く隠しきれていない。この当たりは歳相応に可愛いな。





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