幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら疎遠だった幼馴染が怖い 〜学年のアイドルが俺のことを好きだなんて絶対に信じられない〜

すかい@小説家になろう

挑発

「ふふ……ふふふ……」
「お姉ちゃん、怖い……」


 康貴が帰った後の高西家。私とお姉ちゃんはそれぞれ今日の余韻に浸っていた。
 お姉ちゃんの方はちょっとなんか、危ない感じもするけど……。


「だって、名前呼んでくれたの、何年ぶりか……」
「よかったねぇ。ほんと」


 そしてその目をうるませて顔を染めながらクッションに沈むの、それ見せたら康貴にぃ、すぐお姉ちゃんのものになると思うんだけどなぁ。
 ま、そんなすぐにはムリだよね。


「ありがとね。今日」


 直球の感謝に思わず目を見開いてお姉ちゃんの方を見てしまった。
 恥ずかしくなったのか「なによ」と言って顔を背けてしまったけど。


 ほんとに嬉しかったんだね。お姉ちゃん。


「でもね、お姉ちゃん。それで満足してたらだめだよ」


 お姉ちゃんはほっといたらこれで満足しきってしばらくまた何もしないはずだ。


 こうして久しぶりに何回か接してれば昔と変わってないことがよくわかる。昔と変わっていないということは、お姉ちゃんと私を惚れさせるくらいに、魅力的で優しいってことになる。


「でも……まなみには言ってなかったけど、私康貴には多分嫌われて……」


 なんで2人してこんなことを言ってるんだろう……。


「いいの? 康貴にぃ、取られても」
「取られる……?」
「知ってる? 1年生の中では康貴にぃ、結構人気なんだよ?」
「えっ!?」


 うつむいていたお姉ちゃんが掴みかからんばかりの勢いで飛んできた。


「ほら、康貴にぃ面倒見がいいから」
「でも、あいつが下級生と話する機会なんて……あ……」
「康貴にぃ、応援団だからねぇ」
「あ……そっか……そうよね。あいつ歳下にはすごく優しいから……」


 なぜかお姉ちゃんから責められるような視線を受けるけど、気にしたら負けだ。


 うちの学校はクラスごとの縦割りで体育祭のチームを分けてる。応援団とは名ばかりで実際には体育祭の実行委員会として雑務を押し付けられており、集まる機会も多い。


「でも康貴にぃ、あんなのよく入ったよねぇ」
「あれね……うちのクラスは運動部が多いから」
「あー……」


 集まる機会が多いせいで部活に集中させたい強い運動部は、応援団に入るのを禁止しているところが多い。結果的に運動部が活躍する体育祭の実質的実行委員会は、非運動部、なんなら康貴にぃのような帰宅部が多く入ることになっているというわけだ。


 ま、いまはそんなことどうでもいいか。とにかく今はお姉ちゃんをちょっと焦らせることだ。


「あのね、私テスト終わったら康貴にぃとデートしてもらうの」
「ふーん。そう。テストが終わったら……え? デート……?」
「デート」
「デート……?」


 あ、思ったより効いてる。待ってでも効きすぎてて目が怖い。


「私がテストで30番以内に入ったら、何でも言うことを聞いてもらうって約束したんだよ」
「なにそれずるい……」
「で、デートをしてもらうの」
「でもそれ、どうやって30番以内に入るの……?」
「うっ……」


 2人して本当に信用がない。
 私だってやれば出来るのに……。2人とも見てろよ〜!


「まあまあそれはともかくさ! お姉ちゃんもやってみたらどうかな?」
「やってみる……?」
「30番以内に入ったらデート作戦」
「30番以内に入らないほうが難しい状況で……?」


 こいつ……。


「じゃあ例えば、康貴にぃと勝負するとか」
「勝負?」
「そう。成績で。お姉ちゃんならハンデつけてでもなんとかなるでしょ?」


 康貴にぃも家庭教師を頼まれるくらいの成績はずっとキープしてるみたいだけど、お姉ちゃんに比べちゃうと、ね……。


「明日学校で言ってみたら?」
「学校で……? でも私、あいつに避けられてるから……」


 多分そうじゃないから大丈夫だよ、お姉ちゃん。


「じゃ、私だけテストが終わったらデートしてこようかな」
「む……」
「ふふ……」


 頑張れ! お姉ちゃん!
 その後下を向いて考え込み始めたお姉ちゃんに小さくエールを送って、私はそっと部屋を出た。




「お姉ちゃんに塩を送るのはこれで最後にしたいなぁ……」

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