幼馴染の妹の家庭教師をはじめたら疎遠だった幼馴染が怖い 〜学年のアイドルが俺のことを好きだなんて絶対に信じられない〜

すかい@小説家になろう

クラスのアイドル

 高西愛沙たかにしあいさ


 学年で一番可愛いのは? と男子に聞いたら、10人に8人くらいは高西愛沙と答えると思う。
 実際幼馴染の贔屓目なしにみても、かなり顔立ちが整っている。スタイルもよく、勉強もできて、運動もそこそこできて、非の打ち所がない。
 そして誰にでも分け隔てなく優しい。


 ただし、俺を除いて。


「なに?」
「いえ……なんでも」


 眺めていたのがバレたのか声をかけられた。夏の暑さを吹き飛ばすくらいには冷めきった声音で。


 肩まで伸びた艶のある髪をさらさら靡かせ、本来大きい目をこれでもかと細めてもなお、「美人だなぁ」という感想が自然と湧き起こるくらい、愛沙は美人に成長していた。
 俺なんかもう、モブどころか背景もいいところといえるくらいには。


 これだけの接点で「なんで高西があいつに……?」という声が上がるくらいには俺と愛沙との間に大きな壁がある。俺が悪いんじゃない、と思いたい。単純に愛沙が人気になりすぎ、目立ちすぎるようになっているわけだ。


「そう……」


 それだけ言って自分の席に戻っていく愛沙と入れ替わりで前の席から声をかけられる。


「なぁ、お前高西さんと幼馴染なんじゃねえのか?」


 声をかけてきたのは滝沢暁人たきざわあきと


 こいつはやる気のなさそうなボサボサの髪を隠そうともしないくらいには自分のことに無頓着なのに、もとの顔立ちがいいだけでモテる憎たらしい男だ。
 それ以外のところはなんだかんだ馬が合うので、なんで仲良くなったかは覚えていないが仲良くしている。


「親同士が仲いいだけだな」


 愛沙とは小学校までは本当に仲が良かった。と、俺は思っている。
 親同士が仲がいいことで、よく一緒にでかけていたし、愛沙自身もまぁまぁ馴染んでいてくれたと思う。
 今となっては親同士が仲のいいだけの存在に逆戻りしてしまっているわけだが。


「なーんか、やたらお前を見るときだけ視線が違うよな」
「恨まれるようなことした記憶はないんだけどなぁ……」


 中学に入ったあたりからすれ違っていった気がする。
 俺にはわからない決定的なすれ違いがあって、いまじゃこれだ。


 誰にでも人当たりの良い学年のアイドルが唯一笑顔を見せない相手。それが俺。


「あれ、恨んでる感じには見えないんだけどなぁ……」


 暁人はそう言うが、あの視線を見て他にどう解釈すればいいというのか。


「なんでだろうな……」
「他の人はこう、完全に他人って感じで接してるだろ? 高西さんって」
「そうか?」


 あの容姿だ。男からのラブコールは止む様子をみせていないし、かといって相手を作る気が一切見えないため女性陣から疎まれることもない。それどころか、むしろ性格の良さとスペックの高さから女子の人気も高い。今も机の周りにはいわゆるスクールカースト上位の男女が彼女を囲んでいる。


「ほら、あれあからさまに壁があるというか、距離があるというかさ」
「そうか? 俺には人気者たちが楽しそうに話してるようにしか見えない」


 混ざるのも怖いしなんなら見るのも怖い。1人でいた愛沙を眺めているだけで冷たい声をかけられざわつかれるのだから、あんな眩しい集まりは直視するのもはばかられる。


「ま、お前がそうなら俺はいいけど」


 よくわからない事を言って暁人はまた机に突っ伏していった。いまから授業が始まるというタイミングでこれだから結構なご身分である。


 暁人から視線を外すと、クラスメイトに囲まれてにこやかに微笑む愛沙とまた目があう。
 それまでにこやかに話をしていたというのに、俺と目があった途端凍りつくかのような冷たい視線で睨みつけられた。


「はぁ……」


 ま、もうこれから接する機会もほとんどない相手だしな。
 なにか悪いことをしてたなら謝りたいが、嫌われていたとしても困ることはないだろう。


 そう気楽に考えられていたのは、まさに今日この日までだった……。



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