暑がりさんと寒がり君が幸せに暮らしたかった話

黄崎うい

二話 ロリ兄は率直すぎますね

「…………ん~? ……あっ、暑がりさん! 」

 寒がり君が目を覚ますと、その目の前には暑がりさんが座り、寒がり君の頭を撫でていた。

「おはよ、寒がり君」

 暑がりさんは、寒がり君を見下ろしながらにこりと微笑んでそう言った。お姉さんのような落ち着きで気がつかれても尚、髪をフワリと撫で続けていた。

「あの、そろそろ、そのお手を離していただければありがたいのですが……」

「ダメ。どうせまだ動けないんでしょ? 動けるようになるまではあたしの好きにさせてもらうわ」

 指がピクリとも動かない。手を払い除けることも叶わず、寒がり君は反論するすべを失った。

「ねえ、寒がり君」

「なんでしょう、暑がりさん」

「あの小娘はいったい何? 」

「あの、暑がりさん。俺、思うんですけど……」

 寒がり君の視界に映らぬところで、暑がりさんも大きく頷いた。二人とも覚えているというか、忘れられなかったというか、脳に焼きつているというか、謎に記憶に残っていた。

 あの妹、確実にあの小娘に向かって兄様と呼んでいた。

「小娘じゃないかもね」

「じゃあ、あの妹はロリっ子なのでロリ兄にしますか」

 かなり真面目に真剣な真顔でそんなことを寒がり君は言った。あまりの真剣さに一度は笑いを堪えようとしていた暑がりさんだったが、堪えきれず、吹き出してしまった。

「ぷっ、あーっはっはっは!ハハハ、ハハ……はぁ、はぁ、はぁ」

「暑がりさん、どうしたんですか? 軽く酸欠ぎみなようですが」

「どうしたんですか? と言われてもね、いや、ロリ兄は無いわよ。流石にね、ダサいわ」

 寒がり君はあからさまにしょんぼりした顔をして起き上がった。体がようやく動くようになったようだ。手をグーパーしてみたり、少しずつ慣らしていた。

「じゃあ、何でしたっけ、自称」

「あー、えっと、確かね……。領主様ね」

 あのポニーテールの言っていたことを少しずつ思い出しながら領主だと言っていたことを思い出した。二人でそういえばと思いだし、やはり変な子供だと呆れた。

「りょーしゅしゃま、とか」

「良いわね。ふふっ、採用」

 珍しく意見が一致したときにはハイタッチをするのが二人のなかで謎の決まりになっていた。パシッと良い音を鳴らして二人は笑った。この場所がおかしな場所じゃなければ良い幼馴染みなどに見えるのかもしれない。

「お、二人とも目が覚めたようじゃのぉ」

 再び、不快な音をたてながらりょーしゅしゃまが入ってきた。寝不足なのだろうか、それとも今が深夜なのか、目には隈が出来ていた。見た目が幼女なだけあってか、眠たそうだ。

「りょーしゅしゃまだ」

「りょーしゅしゃまですね」

「確かにわしは領主様じゃが、何か違くないかのぉ? 」

 領主は、りょーしゅと呼ばれて嬉しそうにうなずいたが、しゃまと言われて耳を疑った。たまたま噛んだわけでもない。しかも、暑がりさんも寒がり君も真顔だ。

 領主は考えるのをやめて切り出した。

「まあ良い。体調も平気そうじゃからの、説明をさせてもらうかのぉ」

 そう言って領主は、トテトテと二人の前を通過し、椅子に「よいしょ」と座った。

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