白の血族

九条一

幕間一(04)

 神代家の当主に対して危害を加えることはできない。なぜかはわからないが、そうなっているのだ。
 今、彼は明らかに悪意を持った行動に出た。だからこそ転倒してしまったのだ。だとしたらこのままここにいるのは危険だ。
「……失礼させていただきます」
 そう言い残し、足早にその場を立ち去る。このまま家に戻るのは周囲に危険が及ぶ可能性がある。私は森の中へと逃げ込んだ。
 我に返った彼は、今度は馬に乗って追って来た。しかし、馬は森に入るのを拒絶した。
「――ええい、言うことを聞かぬか、この駄馬が!」
 勝手知ったる森だ。迂回に迂回を重ね、日が落ちようとする頃にようやく村へと帰還した。そして――

 ――村が燃えていた。

 ウチも、隣の権三さんの家も、今まで丁寧に耕してきた田んぼも。全てが燃えていた。
「――おっ、お父さんっ!」
 全身火傷を負った弥平が、田んぼの水に半分浸かった状態で倒れていた。
「……おお、無事だったか」
「――な、何があったの!?」
 皮膚は溶け落ち、焼け焦げた服が身体に張り付いていた。少しみただけでも、もう長くないのがわかった。
「……に、逃げるんじゃ……織田の…軍勢が……」
 この期に及んで私の心配をしてくれる父。どこまでお人好しなのか。
「……織田…大陸が…無垢人を出せと……」

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