白の血族

九条一

幕間一(02)

 その頃、私は小さな村落で暮らしていた。
 戦で全ての子供を失っていた老夫婦は、私を我が娘のように愛してくれた。身寄りのない私にとって、家族の温かみを感じるのはこの時が初めてだった。
 老いた夫婦には、農作業は辛い仕事だ。長引く戦乱の余波で、この静かな村でも徐々に年貢の取り立てが厳しくなっていた。いつしか私が主に農作業を行うようになった。
 実は好都合だった。私は疲労を感じない。いつまでも農作業を続けられた。神代家の知識も収穫量を上げることに大いに役立った。
 老夫婦は毎日のように忠告を繰り返した。『髪の毛は常に布で隠すように』と。
 彼らが言うには、私は『美しすぎる』らしい。自分の容姿が異質だというのは認識していた。だが、どれほどの影響力があるのかは、知りようがなかった。

 その日も畑仕事に出ていた。
 予定通り全ての田植えを終え、ひと息つくために瓢箪に汲んであった井戸水を飲む。これは『生命の水』と呼ばれる特殊な水であり、神代家の当主はこの水を飲むだけで生命を活性化させることができる。
 少し汗が出ていたので、頭に巻いていた布で汗を拭った。

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