白の血族

九条一

第一章(09)

『身体能力については普通の人間と大差ないようだが、彼女らの知性および生命力が非常に高いのは間違いない。そもそも千梨は満足な食料のない遺跡の中で四百年以上生き続けていたのだ。その生命力は推して知るべし、だ。その突出した生命力は他の同族にも備わっていて無垢人の数を増やした、と考えるのは的外れではないだろう』
 あの山中湖遺跡から千梨を救出したのは二年前の春。オヤジが解読した古代文字から巨大岩の後ろに何かが隠されていることを突き止めた。試行錯誤の末、その巨大岩の下部を爆破し、岩を転がすことでようやく岩をどかせることに成功したのだ。そしてその裏には遺跡への入り口が隠されていた。
 まさかその中に生きた人間がいようなど想像もしてなかったので、話しかけられた時は心臓が飛び出るほど驚いたものだ。
『私は千梨から古代文字について聞き出そうと試みたが、全て失敗に終わった。普段の会話には気さくに応じてくれるが、古代文字や遺跡に関することになると途端に口が重くなる』
 それはオレも感じていた。ただ、古代文明などに関係なくオレは彼女に惹かれた。たびたび女子に告白されるオレにとって、これほど一人の女性に執着するのは初めてだったと言っていい。千梨は今まで会った人間とは全く異質の、遥かに超越した存在だったのだ。

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