白の血族

九条一

第一章(06)

『お前も気づいていると思うが、神代千梨は普通の人間ではない。現代では千梨のような白髪碧眼もそこまで珍しいというわけではないが、それでも彼女は特別だ』
 彼女に神秘的なものを感じたのは事実だ。飛び抜けた容姿もさることながら、会話で感じたあの知性はどこか現実離れしていた。
『お前が春休みを終え、高校に入学してからひと月後に杏奈が生まれた。杏奈は二歳二ヶ月ということになる』
「ハムスターかよ! どんな妊娠期間だ!」
 思わず声に出してツッコミを入れてしまう。
『お前には千梨は新潟に移住したと伝えていたはずだが、それは千梨の意向だ。実際はずっとあの遺跡の近くで暮らしていた』
 ……マジかよ。オレ、高一の夏休みはずっと新潟を探し回ってたんだぜ。
『その後千梨は徐々に痩せていき、約一年後に衰弱死してしまった。どうやら千梨はそれを事前に知っていたようだ。杏奈や自分の消息をお前に知らせなかったのも、そのためだったらしい。お前を過度に悲しませないように、とな』
 ……っ、……そんなもので、この悲しみが消えるものか。
『杏奈のことはお前に任せる。表向きはお前たちの妹ということにしておけばいいだろう。もうじき夏休みになるが、杏奈が二学期から富士原中学に転入できるよう、麗子の方から手を回しておいた』
 手回しがいいな。ただ、綺華にはどう説明したものか……。下手に刺激するとサンドバッグにされかねない。
『あの遺跡の中から千梨を救出して以降も、私はあの遺跡の調査を続けてきた。そして確信したことがある。千梨は少なくとも四百年以上あの遺跡に閉じ込められていた、ということだ』
 ――四百年?! 千梨はどう見ても二十歳そこそこだったぞ? ……ただ、確かに何を見ても驚いていた感じはあった。四百年の時を越えたとすれば、その反応にも説明がつく。
『千梨は自分のことについて、ほとんど語ろうとはしなかった。ただ、古代文字は完全に理解していたようだ』
 ……それは知ってるよ。

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