白の血族

九条一

第一章(05)

 書斎のドアを開けると、正面には木製の大きなデスクが置かれていた。左右の壁一面には本棚が設置されており、ハードカバーの書物がぎっしりと埋まっている。
 家具などの配置は子供の頃に見た時とほぼ同じだが、デスクの向きだけ逆のような気がする。現在は校長室みたいにこちら向きだった。
 部屋は整然と片付けられているが、デスクの上には文庫本サイズのメモ帳が無造作に置かれていた。メモ帳の半分ぐらいのところに、これ見よがしに大きめのしおりが挟まっている。
「……ここを読めってことか」
 
『――統詞、久しぶりだな。私は遺跡の新たな手掛かりを得たのですぐに旅立たねばならん。この手記を良く読んで、お前が最善と思う行動を取れ。私から強制することは何ひとつない』
 オヤジめ、相変わらずだな。押し付けるようで押し付けてない。突き放しているようで突き放してない。恨みどころをうまく消しているところがむしろ腹立たしい。
『まず杏奈の件だ。遺跡の深層部は少々複雑で、数日間ベースキャンプに戻れないことも考えられる。十分な面倒が見られないのでお前に預けることにした。言っておくが、杏奈はお前と神代千梨の子供だ。二年ほど前に思い当たることがあるだろう』
 ……ちょっと待て。もしあの時の子供だったとしても杏奈はせいぜい一歳半だぞ。あんなに流暢に言葉を話せるもんなのか? それに外見はどう年少に見積もっても小学生未満には見えなかった。

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