白の血族

九条一

第一章(01)

 カーテンの隙間から差し込む一条の光に促され、ゆっくりと目を開く。
「――あっ、パパ、おはようっ!」
「…………?」
 元気な女の子の声がした。
 声がした方へと振り向くと、見知らぬ女の子がデスクチェアの背もたれを前にして、跨るように座っている。少女にも関わらず総白髪だった。肌も限りなく白く、人形よりも人形らしい、現実離れした容姿をしていた。かといって人間離れしているというわけではなく、溢れんばかりの笑顔が印象的だ。

 …………パパ?

 ――オレは榊統詞(さかき とうじ)。近所の富士原(ふじがはら)高校に通う高校三年生。高校では優等生で名が通っており、残念ながら子供のいるような年でもない。
 まだ覚醒していない脳をフル回転させて記憶を探るが、全く見覚えがない。
「………誰?」
 そう問いかけつつ相手を観察してみる。
 年の頃は十歳そこそこだろう。まず目を引くのはその肩まで伸びた豊かな白髪。瞳の色は明るい青で、南国の海を思い起こさせる。目鼻立ちが整っており突出した美少女と言えるだろうが、残念ながら年齢からオレの守備範囲外だ。
「はじめまして! あたしは杏奈だよっ」
 はじめまして、ということは自分の記憶がおかしいわけではないようだ。それより問題なのは、なぜオレの部屋に見知らぬ少女がいるか、ということだが……。
「……ねえ、お嬢ちゃん。どこから入ってきたんだい?」
「杏奈って呼んでよ!」
 こんなところで泣かれでもしたら妹にしばかれてしまう。とりあえず言われたとおりにしておこう。
「……あんなちゃん、どこから入ってきたの?」
「そこのドアからだよ」
 廊下へと通じるドアを指差しつつ言う。ここは二階だし、窓からということはないか。
「……じゃあ、この家にはどうやって入ったの?」
「もちろん、玄関から入ってきたよ」
 至って常識的な回答だった。ただ、昨晩はオレ自身が戸締まりしたことを覚えている。

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