転生プログラマのゴーレム王朝建国日誌~自重せずにゴーレムを量産していたら大変なことになりました~

堀籠遼ノ助

73 龍の骨

「な、な、なんじゃありゃあ!」


 目の前にそびえ立っている巨大な円筒は、竜街全体を取り囲む巨大な城壁だ。高さは10メートルをゆうに超えるだろう。
 正面に見える巨大な城門は開かれており、その先は緩やかに上る見事な城下町が広がっている。その坂を上り切った町の中心部には、見事な西洋風の石作りの城がそびえ立っている。


 だが、俺が度肝を抜かれたのは巨大な城壁でも、美しい中世ヨーロッパ風の街並みでも時代の重みを感じさせる雄大な城でもない。


 城の中心を食い破るように突き出し、城壁の高さも遥かに超えて鎮座する非現実的な存在。それは――


「あれは……骨……なのか?」


そう、そこには巨大な骨があった。巨大も巨大、その高さは高層ビル並み。50メートルを超えているかもしれない。


「うん? ああ、主は見るのが初めてか。あれは龍の骨じゃ」
「龍……。念のため聞くけど、この世界にはあんな化け物がその辺を何体も闊歩してるわけじゃないよね?」


 あんなのがその辺をウロウロしていたら、ゴーレムが何体いてもかないっこない。象に蟻が立ち向かうようなもんだ。


「おらんおらん。龍なんてそうそう現れるもんじゃない。あそこにいる骨も、現れたのは300年前。初代東王に退治された龍じゃ。それ以来龍は現れておらん」
「あれを退治? 嘘だろ、あんなの人間に倒せるのか?」
「ほれ、龍の額を見てみい」


 鈴音に言われるがまま額のあたりを凝視する。すると何かが小さく太陽の光を反射しているのが見えた。


「なんか光ってるけど。なにあれ? 爪楊枝?」
「あれは剣じゃ。初代が作った七色剣の内の一本、消魔の剣が刺さっておる。初代は龍の攻撃をかいくぐり、消魔の剣を額に突き刺してとどめを刺したんじゃ」
「へえ、強かったんだな初代は」
「そりゃあワシの契約者じゃからな。当然じゃ」


 ……………………ぱーどぅん?


「まてまてまてまて。今さらりと重要なワードが聞こえてきたんだが……。それって初代国王が鈴音の契約者ってこと?」
「うむ。言ってなかったかのう?」


「初耳だ! え、じゃあ鈴音って結構偉い人なんじゃ?」


「結構どころじゃありませんよ。鈴音様は国家の歴史そのものです」
 エマニエルさんが振り返って言った。


「これが国家の重鎮……」
 俺はまじまじと鈴音の顔を見る。
 ろくに仕事も手伝わずゴロゴロしているごくつぶしで人でなしの妖怪婆が国家の重鎮……。
「おい主。今何か失礼な事を考えておるな」
「いや全然」


 俺はきっぱりと言い切り鈴音のジト目をスルーする。


「……それで話は戻るけど、じゃああの龍ってやつは今はいないんだな?」
「≪暴走者≫が現れぬ限りはな」
「ぼうそうしゃ?」
「魔法が暴走してしまった魔導士のなれの果てじゃ」
「魔法って暴走するものなの?」
「安心せい。そもそも人は暴走するほどの魔法量を持って生まれてくることは無い」
「じゃあ俺は? 普通の人よりもけっこう魔力量が多いみたいだけど」
「巧魔氏の魔力量は結構どころではありません! 人知を超えてますよ!」
 千春さんが興奮気味に言った。


「千春の言う通りけっこうどころでは無いが……あるじを含め、契約者は≪加護≫によって守られておるから問題あるまい。今まで契約者が暴走したなんて話は聞かないしの」
「じゃあ大丈夫か……」


 本当に大丈夫だろうか? いや、話を聞いた限り俺は大丈夫なのだろうが、何か見落としてるような気がする……。


「さあ、そろそろ門につきますよ。検問があるので手荷物を開けて下さい。」


 エマニエルさんが俺たちに告げる。既に目の前には龍都の巨大な門が迫っている。
 俺たちは入門手続きをするため、いそいそと手荷物を開け始めた。

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