転生プログラマのゴーレム王朝建国日誌~自重せずにゴーレムを量産していたら大変なことになりました~

堀籠遼ノ助

3 ゴーレムクリエイター

 まずは目が見えないことには始まらない。


『ゴーレム』というからには、きっと人の形をしているのだろう。であれば、目がついているはずだ。何とかそのゴーレムの視界とリンク出来ないだろうか。


 俺はまず、細長い体型のゴーレムを念じた。言葉を発しなくても魔法は行使できるのか? という最大の不安は、無機質な声が頭の中に響くことで解消された。


≪命令を受け付けました。形状を細長に設定完了。次の命令を行って下さい≫


(うわっ、誰?!)


≪解。魔道コンパイラ です≫


 コンパイラっていうと、俺が元いた世界では人間の言葉をコンピュータの言葉に翻訳してくれるツールのことだが……。


(魔導コンパイラってことは、俺の言葉を魔法に変換してくれるってことかな?)


≪解。ご認識の通りです≫




  なんて便利な。白髪宇宙人がくれた能力かもしれない。やるな貧乳。


(よし、では続きだ。灯台みたいなイメージで、高いところからぐるりと360度見れるようにしてくれ。戦闘力は無くていい)


 どこまで魔法が使えるか分からないため、無駄な能力は付けずに節約をする。


≪視界360度確保、装甲破棄、碗部破棄、設定完了≫


(ゴーレムの視界を俺にリンクされられるか?)


≪解。視界共有可能です。実行しますか?≫


(頼む)


≪視界共有、設定追加完了≫


 よし、ではいこう。頼むから上手くいってくれよ。


(ではーークリエイト・ゴーレム実行)


compileコンパイル. クリエイト・ゴーレム、実行≫




 すると、俺の右手が糸に引っ張られるかのように持ち上がった。


 再びズズズ……と振動が伝わってくる。


 俺の目の前に歯が剥き出してヨダレを垂らす狼の姿。


(うわ?! ビックリした、ゴーレムと視界が共有されたのか)


 またたく間に俺の視界はぐんぐんと上昇し、狼達を見渡せるようになった。


 360度視界があるというのは、後ろに目がついているようで、不思議な感覚だ。
 狼は最低10匹はいると思っていたが、こうして見渡すと、約30匹はいそうだ。


 狼達は警戒するようにあとずさる。


 菫と晃一があんぐりと口を開け、ゴーレムを見上げていた。


「……菫、お前の仕業か?」


「……あたしの魔力じゃゴーレム1体を維持するだけで精一杯よ。それよりも、この子から強い魔力の感じるんだけど」


「……たしかに魔力の発動を感じる。だが強すぎる。国家魔導師クラスの魔力じゃないか」


 二人の視線がおそるおそる俺に向けられている。


 何かやってしまった感じがするのだか、今はそんなことにかまっている時ではない。今は狼達も引いているが、灯台ゴーレムくんに戦闘力は無い。
 早く戦闘力のあるゴーレムを作成しなくては。


(ーー私は魔法を行使する)
≪魔法行使の意思を確認。ご命令を≫


 とりあえず魔道コンパイラとの対話を開始させる。


 さて、まずは形状だ。通常のゴーレムだと、攻撃力は期待できるが、動きがトロいだろう。狼にすり抜けられてしまう危険がある。ゴーレムの体を小さくするか? でもそれだと強度に不安が……。
 ……いや、待てよ。人の形にこだわる必要は無いのではないか?


(ゴーレム形状を狼へ)


≪形状:狼、受け付けました≫


 おお!できた!言ってみるもんだ。さて、次は行動だ。


(俺たち3人を守りつつ、一番近い敵へ攻撃)


≪3人の守護、一番近い敵への攻撃、設定完了≫


(1体だけだと不安だな。同時に複数作ることは可能?)


≪解。可能です。が、保持するゴーレム数に応じて維持魔力が増大します。≫


(なるほど。じゃあ、30分稼働させると何体いける?)


≪解。 3体です≫


(よし。じゃあ3体だ)


≪同時作成数3体、設定完了≫


 よし、実行だ。


(クリエイト・ゴーレム実行!)


compileコンパイル. クリエイト・ゴーレム、実行≫


 途端、俺の体から力が抜けるような感覚に襲われる。


≪通告、マスターの残り魔法量が50%を割ったため心肺機能が低下しております≫


 うっそ、まじでか。魔法の使いすぎはリスクが大きいんだな。まあ、今はそんなことを言っていられる状況じゃないんだけど。


 先ほどと同じように、右手がぐっと上がり、クリエイト・ゴーレムが発動。


 すると地面に黄金色の魔法陣が3つ現れ、鋭い風のような音と共にゴーレムが湧き出てきた。


 そこに現れたのは、全長4メートルを越えるかと思われる巨大な灰色の狼が3体。


 双眸から蒼白い不気味な光を放ち、狼達を見下ろす。


 狼は自分達よりも遥かに大きい狼形ゴーレムを見て恐怖を感じたのか、耳を伏せながら後ずさっている。


「す、すげえ、3体同時に。しかも獣の形をしているゴーレムなんて聞いたこともない。本当にこの子がやってるのか?」


「ほんとに信じられない。まさかこの子、蒼の魔導師? でも髪は蒼くないわ……」


 と、狼型ゴーレムの1体が跳躍、一番近くにいた狼に飛びかかる。


「キャウン!」


 狼は避けることも出来ずに、断末魔をひと声あげると、その場に動かなくなった。


 その後は狼型ゴーレムの独壇場だ。突然の出来事に硬直した狼達を逃さず、風が吹きすさむように狼たちを次から次へとなぎ倒していく。


 狼達は急激にその数を減らしていき、半数以上が斃れたところで、狼たちは呪縛がとけたかのように一斉に逃げ出していった。


 唸り声に満ちていた森には静寂が戻り、遅れて虫の声が聞こえ始めた。まるで俺の勝利を祝福する音楽のようだ。


(はあ助かった。……しかし管理者の奴め、「かなりきつい状況」って表現はざっくりにもほどがあるだろ)


「た、助かった」
 晃一がホッとため息をつく。


「ええ。――あなたがお母さんを助けてくれたの?」


 菫が問いかけてくるが、俺は表現が上手く作れなかったのでただ見つめ返すしか出来ない。


 周囲には無数の狼の死体がころがっており、他には俺が作り出したゴーレム4体と、菫が作り出したゴーレムが1体佇んでいる。


「……おかしいわ。なんでゴーレムが消えないのかしら。」


「ん? そのうち消えるんじゃねえか」


「いえ、ゴーレムは戦闘が終わると同時に消えるのよ。そういう魔法なの」


「じゃあ消えないってことは……」


 俺の作り出した狼型ゴーレムは周囲を警戒し、菫が作り出したゴーレムは俺たちを守るようにうずくまったままだ。


「何かから、私たちを守ろうとしている」


「何かって……なんだ?」


 その時、森を揺さぶるような大きな唸り声が響いた。周囲の木々から鳥たちが一斉に飛び立つ。


「おいおいウソだろ……今の声ってまさか……」


 晃一の後方、葉が大きく揺れる。


 すると警戒していた狼型ゴーレムの1体が、跳躍した。 が、突如森から突き出した巨大な#咢__あぎと__#がそれを許さない。


 腹部を抉り取られたゴーレムは砂に還っていってしまった。


「……グレーターウルフ」


 晃一が怖々と見上げるその先には、闇を切り取るように鎮座する白く、巨大な体躯が――。


 確実な死が、俺たちを見下ろしていた。




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・名前:折笠拓海(前世)
・年齢:0歳
・種族:ヒューマン
・技能:土属性魔法LvMAX
    ???スキル(灯台ゴーレム、ウルフゴーレム)
・称号:無し
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