Distortionな歪くん

Sia

Distortionな歪くん 08 「妄想武器庫」

Distortionな歪くん 08 「妄想武器庫」

 「「頼む!断谷さんの仇とってくれ!」」

 誰もいないーー不良を例外として誰も寄り付かない、周りの設備に囲まれて、薄明かりしか届かない、体育館の裏に断谷の手下の声が響く。

 アタシは体育館へと通じる階段に座って、手下二人が地面に額をこすりつけて土下座するのを上から見下ろす。滑稽。

 「断谷さんがこの前、本気の告白して振られてメンタルブレイクしちまったんだよ!」

 「それだけじゃない!目撃証言によれば、特徴的な寝癖がついた奴にノックアウトされたらしんだ!」

 「「そしたら、アレだよ!」」
 
 手下二人がシンクロして指をさした方向を見ると、ちょうど差し込んだ光がスポットライトのように、錆びた鉄パイプの椅子に座る断谷に注がれていた。

 「俺の恋は、燃えた…燃えたぜ…真っ白にな…」
 
「この前からあの調子なんだ…」

 断谷はやり遂げた、やりきった様な目で明後日の方向を見つめていた。
 「あしたのジョー」かよ…

 「で、報酬は?」

 「これぐらいーー」

 手下Aが懐から、札を取り出した。
 けど、ただの「野口」が三人。

 「無理」

 「うっ…」

 アタシは速攻で言い放す。当たり前だ。
 
「あんたらアタシのサイトで言ってたよね?『目標を学校に二度と顔を見せないぐらいに半殺しにしてくれ』って」

 「お、おう…」

 手下Aは苛立ちを隠せない顔で、更に懐に手を突っ込んだ。
 それに続くように手下Bも「野口」を重ねる。

 「じゃ、じゃあ、これでーー」

 でも、アタシは欲張りだ。食い気味に、踏ん反り返って、

 「『福沢』十人っ」

 「「は?」」

 またシンクロしてる。仲がいいな、おい…手下二人は顔を曇らせた。

 「『福沢』って、はぁ!?」

 「俺達がカツアゲしても最高『樋口』だぞ!」
 
 なんとしても、今週中に金を集めなければならない。これ以上交渉を続けても、こいつらが金を出さないかもしれない。まったく、強情な奴らだ。人一人を文字通り半殺しまでの怪我を負わせるのに、「野口」ですませようとするとか……ねぇわ。
 その時アタシの頭にテレビかネットの情報とかで得た浅知恵がよぎった。

 「ふぅん…じゃあ交渉決裂で。アタシ、こんなリスク伴って『野口』数枚で仕事する気ないから」

 「交渉の基本は駆け引きにある」だったか…なんだか…まぁ、とにかく、押してダメなら引いてみろってことだろう。

 「「…っ!」」

 手下二人が下唇を噛んで、目を血張らせながらアタシを睨む。効いてる効いてる。さぁもうひと押しっと、アタシはつい口許が緩んでしまいそうになる。

 「にしても、可愛そうねー。フラれた上に、あんなほっぺが腫れるほどのストレートを受けたんだから…」

 アタシは立ち去ろうとしながら、復讐する理由を植え付ける。こう言う奴らは実はこれが一番効く。

 「わ、わかった…『福沢』十人で依頼する…」

 「まいどありっ」

 アタシはまた食い気味に言ってしまった。けど、結果は目に見えてた。
 アタシは足を止め、さっきまで座っていたところに戻った。


 「多分コイツが断谷さんをやった奴だ…!」

 手下Aから依頼金と一緒に、特徴的な寝癖がついた、虚ろな目に貼り付いた笑顔の男子生徒の写真が渡された。
 こんなひょろひょろな奴が、ガチムチヤンキー、断谷をノックアウトしたのか…
 でも、アタシはただコイツを半殺しにするだけ。不安がないと言えば嘘になるが、別に正面から殺り合おうなんて思っていない。
 アタシが殺るのは、暗(半)殺だ。

 「コイツの“異能”は『歪む現実』、能力は自分が見た映像を自由に貼り付ける事ができる。気いつけな…」

 手下Bが大金が抜かれた財布を労わりながら言う。
 聞いた限りだとなかなか強い“異能”だが、この顔で強キャラだと思わないけど…

                             しもへい ひょうこ
 「とりま、このアタシ霜兵 兵子に任せな?」

 アタシは懐が寒くなって、意気消沈している手下二人を背に、いつものようにドイツ製の対人用狙撃銃である「H&K PSG1」を肩に担いで、産まれながらの赤毛を体育館裏に通る隙間風になびかせながら、目標の排除(半殺し)に向かった。






 放課後の教室で、わたし達は帰ってもやる事がなかったので歪くんの提案により、ババ抜きをすることにした。
 わたしは早めに札が揃ったから一抜けして、残ったのは歪くんと里壊くんになった。

 歪くんはハートの2を一枚、里壊くんはジョーカーとハートの2を持っている。

 「どっちだ?右か?左か?神か?悪魔か?奴隷かぁ?皇帝かぁ?どっちだ?考えろ、考えろ、考えろ!俺は!!(cv 藤原竜也)ーー」

 「はよ引け!!」

 実写版カイジで藤原竜也が演じた時のセリフを言って、奇怪な動きで、なかなかカードを引かない歪くんに里壊くんがつっこむ。

 パキッ トスッ
 何かが割れて、突き刺さる音が聞こえた。多分、空耳だろう。わたしは歪くんの方を向く。

 「もう、急かすなよ里壊…僕はこれが言いたかったんだよ…!」

 歪くんはふてくされるように、肩をすくめて話す。

  「お前まさか、そのためだけに『ババ抜きやろう』なんて言ったんじゃないよな…」

 「そうだぁ…!」

 歪くんはキメ顔で顎に手を当てて笑う。

 「そうなのか…」
 「そうなんだ…」
 
歪くんの潔さにわたしと里壊くんがハモって、がっくりと頭を下げた。

 「理由はどうあれ、早く引けよ」

 里壊くんが残った2枚の札を歪くんに寄せる。
 すると歪くんのスイッチが入り、左手を頭に当てると、

 「考えろ!奴は何を考えてる!考えろ!(CV 藤原竜也)」

 「またか…」

 やれやれと、歪くんの藤原竜也に呆れる里壊くん。
 多分、こんな風に好きな事をやってる歪くんは誰にも止められない。

 「ははは…利根川…アンタ賢いぜ…!(CV 藤原竜也)」

 「誰だよ」

 なおも歪くんの藤原竜也が続く。 

 「あんた、俺が蛇に見えたか…?(CV 藤原竜也)」

 「いや」

 パキッ トスッ
 また何かが割れて、何かが床に刺さるような音がした。空耳じゃない。確かに聞こえた。
 けど、気づいたのはわたしだけだ。歪くんは藤原竜也を演じるので夢中で、里壊くんはそれを相手するのにいっぱいだからだ。

 「なら、お前こそが蛇なんだッ!(CV 藤原竜也)」

 「『いや』って言ったぞ?」

 「こんな風に物言わぬ心理戦は鏡で見るようなーー以下略ーーその優秀さ故に驕りを打ったんだよ、このみっともない奴隷が!(CV 藤原竜也)」
 
 「うん、わかった引け」

 里壊くんは、歪くんのあくびが出るほどの長々としたカイジの名台詞を全スルーして、急かすように、カードを前に突きつける。
 歪くんはやや不満な顔をしたが、迫真の演技と奇怪な動きでカードをもぎ取る。
 
「最悪な運命!最悪な境遇!その全てをねじ伏せて俺は引く!イケェェェェェェ!!CV 藤原竜也)」

 歪くんが引いたのは、見事にハートの2だった。
 
「うおおお!(CV 藤原竜也)…ん?違う!」

 歪くんは一瞬奇怪な動きで舞い上がったが、切り替わるように表情を曇らせた。

 「どうした?お前の勝ちだぞ?」

 里壊くんが顔に手を当てて、動揺する歪くんに対して、首をかしげる。

 「違うんだぁ…」

 歪くんが引きつった笑顔で、ゆっくりと口を開く。
  里壊くんはわかんねーなっと、眉をひそめてまた、首をかしげる。わたしも歪くんの言動を理解できていない。
 この前は海くんに負けてあれだけ息巻いていたから、てっきり、負けるのが嫌いなのかと思っていた。さらには、里壊くんと戦った時も完全勝利に固執していた…でも、何故、勝てたのにあんな不満そうな顔をするのか…歪くんはわからないことだらけだ。

「何が『違う』の?歪くん」

 わたしは歪くんを逆立てない様に、聞いてみる。

 「考えてみよう。漫画の『主人公』はさっきの様に読者が、『あー。コイツ負けるんだなぁ』みたいなわかりやすいフラグを立てる。僕も藤原竜也でそうした…しかぁし!」

 「「しかし?」」

 また、里壊くんとわたしがハモる。

 「見ろ!このとうりだ!僕は勝ってしまった!これじゃあ漫画の主人公と同じどころか、その下のモブと変わらない!!しかも、勝ってしまったら『蛇でいてくれてありがとう…(CV 藤原竜也)』は出来るが、皆さんお馴染み『どぉしてだよぉぉぉ!!』ができねーじゃないかぁ!!」

 歪くんはさながらデスノートの最終回で、夜神 月が追い詰められた時の様な…いや、それをアレンジした様な奇怪な動きで、負けたかった理由を話す。
 
 「…で?」

 里壊くんがめんどくさそうに頭を掻く。

 「つまぁり!お前が負けたら、実質僕の負けなんだよこんちきしょう!くそぅ!どうして俺だけこんなめにぃぃぃ!!(CV 藤原竜也)」

 「勝手になってんだろ」

 里壊くんが真顔で疲れた表情で、左腕を抑えながら床でジタバタ荒ぶる歪くんに、冷静なツッコミを入れる。

 「帰るか。亜依」

 里壊くんがリュックを背負いながら、わたしに言う。
 わたしはトランプをまとめて、

 「歪くんは?」

 「床でもがいてる藤原竜也はほっといて大丈夫だ」

 また、冷静な顔で里壊くんは言う。どうやら里壊くんも歪くんの扱いに慣れてきたみたいだ。
 実はわたしも思ってた。歪くんはどんなに倒されても、倒れても必ず起き上がるからだ。

 「どぉしてだよぉぉぉぉぉ!(CV 藤原竜也)あ、痛っ」

 歪くんは頭を机にぶつけても、藤原竜也をやめてない。と言うか、やめる気配が無いので、わたしは一様歪くんを一声かけて教室を後にー



 「グ…ネード!!ーー」



 パリンッ カランカラン…

 「え?(CV 藤原竜也)」

 何処からか聞こえた声の次に、窓ガラスが割れ、教室に映画でしか見たことの無いものーー果物で例えるなら、そうーーパイナップルに似てる形ーーソレが投げ込まれた。


 「「あっ」」


 わたしと横たわっている歪くんはソレに気づいた。しかし、里壊くんは気付かずに後ろを向いている。

 数秒の出来事だが、何故だか、ゆっくり時間が流れてる感覚ーー

 わたしは振り返って、全力疾走で逃げようとする。恐らく泣きそうな顔だ。

 歪くんを置いて…

 こんな時にまでわたしは、自分の事が大事なんだな、と思う時間すらなかったーー


 ーーソレは起爆する。







 ドォーンーー






 「ーーキャアァァ!………あれ?」

 わたしは目を開けた。一瞬見えた景色だと、教室が炎で赤く染まり、わたしはその炎に包み込まれた…筈だ。

 「安心しなよ、平輪さん。僕が爆発していない映像に、もっと言えば手榴弾が投げ込まれる映像を貼り付けたから」

 「う、うんありがとう…」

 歪くんはさっきの藤原竜也ポーズのままで、ドヤ顔で答える。わたしはホッとしながら「歪む現実」のおかげで助かった事に気づいた。
 
 「え?何だ!?何が起きた!?一瞬めっちゃ明るくなったぞ!?何した!歪!」

 里壊くんは軽いパニック状態で、歪くんに聞く。
 里壊くんは起爆する前、後ろを向いていたから起爆した事に気づいてなかったので「理解できない」が発動して助かったのだ。

 「落ち着けって、里壊。ただ手榴弾が投げ込まれて起爆しただけだって!」

 「あー、なーんだ………はぁ!?」

 歪くんは窓ガラスを背に起き上がって、里壊くんに笑顔でありえない状況が起きた事を説明する。里壊くんは目をギョッとさせて、漫画でもよく見る反応をした。

 「でも、何で手榴弾が?」

 わたしはメガネを直しながら歪くんに聞く。すると、歪くんは少し考えると何か閃いたのか、目をパッチリさせ、

 「…さぁ?」

 「…そうなんだ…」

 ことごとく、期待を裏切る歪くんにガックリしながら何処か安心するわたしが居る。

 「てか、手榴弾なんて誰が投げ込むんだ?軍隊でもないと持ってる奴いねーだろ」

 里壊くんがリュックを机に置いて、額の汗を拭きながら聞く。

 「うーん…そうだねー。きっと僕に嫉妬したガチムチ黒光り外人の元陸軍中将とかが、暗殺にーー」

 「いくらお前が憎まれっ子でも、そんな事あるわけねーー」




 パリーン

 その時、歪くんの背後の窓ガラスをアクション映画のワンシーンの様に割って教室に入ってくる、荒い赤毛のロングヘアーの女子生徒が飛び込んでーー

 「歪め」

 とっさに後ろを向いた歪くんが「歪む現実」で、窓ガラスが割れる前に戻した。
 
「ぶっ!」

 急に戻った窓ガラスにぶつかってゆっくりと落ちていく、赤毛の女子生徒。
 それを見届けると、歪くんは振り返って、
  
「不正はなかった!」

 っと、またドヤ顔をしながら「寿司ざんまい」のポーズをとった。

 「「最低だー!」」

 里壊くんとわたしは大声でまたハモる。

 せっかくの新キャラ登場シーンを、悪気もなく台無しにする歪くん。そして、その出来事を何事もなかったかの様にリュックを背負って、

 「さ!帰るか!」

 バンッ パリーン

 「『不正』しかねーだろ!クソがぁァ!」

 先程の赤毛の女子生徒が今度は物騒なものを両手に持って発砲しながら、教室にやっと入ってくる。
  今にも歪くんを殺してしまいそうな程に息が荒い。

 「わぉ!怖!」

 歪くんは大袈裟に驚きながら、里壊くんの方に逃げる。
 里壊くんは戦闘体勢になる。
 
 「あー!クソ!クソ!クソ!fuckin shit!狙撃しようとしたら変な動きで全部避けるし、窓から入ろうとした、戻されるしで本当っ!最悪!死ね!大人しく暗殺されろ!!」

 荒い赤毛の女子生徒が歪くんにむかって、二丁の拳銃を構える。それを見て歪くんは里壊を盾にして、後ろに隠れる。
 ここで合点がいった。ババ抜きをしている最中に何度も聞こえた何が割れて、何かが床に落ちる音。それは、歪くんに対する狙撃の音だったのだ。そして、手榴弾を投げ込んだ犯人も、彼女に違いない。

 でも、彼女が今持っているのは二丁の拳銃。その狙撃銃は何処にいったのか…仮に暗殺をするなら、証拠は残さないはず…狙撃ポイントに銃を置いてきたとは考えにくい。
 考えられるのはただ一つ。“異能”の能力だ。

 「歪くん、まさか、それに気づいて変な動きしてたの?」

 「…イエス」

 歪くんは真顔で答える。

 「嘘だろ」

 里壊くんは冷静に否定する。
 質問に変な間を開けて答えた歪くんの嘘は、誰にでもわかるほどわかりやすかった。
 
 「あと、俺を盾にするな!」

 「どいひー!」

 里壊くんが後ろに隠れていた歪くんを、彼女の方に勢いよく蹴り飛ばす。
 彼女はそれを見て銃を連射する。里壊くんはわたしに弾が当たらないように、自分の背中を盾にしてくれた。後ろをみていれば、攻撃を受けたかわからなくて、「理解できない」が発動するからだ。
 
 彼女が放った弾丸は歪くんに直撃した。しかし、「歪む現実」で自分が生きてる状態を貼り付けて、また歪くんは元に戻る。

 「チッ!」

 「あぬさぁー。言いたかったんだけどさぁ」

 自分のやる事なす事全てがうまくいかくて、苛立ちが隠せない彼女に向かって、歪くんは虚ろな目を細めて質問しようとする。

 「なんだっ…?」

 彼女はリロードしながら、歪くんに聞き返す。

 「気に入らねーなぁ…」

 「は?」

 嫌な予感がした。

 「何が『気に入らねー』んだよ?」

 彼女はリロードを終え、今にも引き金を引きそうな表情で、殺意に満ち満ちた表情で歪くんをジッと見つめる。

 歪くんは不満そうに彼女に指をさして口を開く。自分は何もしてないのに攻撃をしてきた事が気に入らなかったのか…
 
 「その、『とりあえずJKとかに似つかわしくない銃を持たせればギャップ萌えしてかわいいか!』みたいな発想のキャラデザが、心底気に入らねーんだよ!!そう言う奴は、『まんがタイムキララ』でお腹いっぱいなんだよォォォォォォ!!」

 「「そんな理由!!」」

 またまたハモった。
 歪くんは奇怪にのけぞりながら叫ぶ。
 彼女は歪くんが言い切った直後に、攻撃を仕掛ける。歪くんの訴えは気にしていないようだ。
 
 「 FIRE!」

 銃を連射して、その全弾が歪くんに当たるが、歪くんはすぐに元に戻る。その瞬間、二丁拳銃を持ていたはずの彼女の手には二丁拳銃が消えて、先端に流線型の弾頭がついた、バイオでお馴染み、ロケットランチャーこと「RPG」が握られて発射体形になっていた。

 「消し飛べ、『RPG-7』!!」

 「えー…ズルじゃん…」

 歪くんは独特な指の指し方をして、まいたなっと、苦笑いをする。

 「  FIRE!!」
 
 弾頭が一直線に歪くんに激突し、教室が再び赤い炎で包まれる。が、また歪くんが元に戻す。
 
 「もうやめようぜ?争いは何も生まないんだよ?知ってる?小学校の道徳で習わなかったのかな?」
 
歪くんが肩をすくめて煽りながら彼女を、説得しようとする。だが、こんな説得の仕方で誰も応じるはずがない。彼女の苛立ちはピークになる。
 
 「はぁ?そんなん一々覚えてる訳ねーだろ…!てか、とりあえず死ね!『ASG-12-』 FIREーー」

 歪くんにちょっと目を離した先に、今度はRPGが消えて、真っ黒いショットガンを両手に持っていた。

 「歪め」

 歪くんは彼女が銃を持ち替えた瞬間、「歪む現実」で彼女が「武器を持っていない映像」を貼り付けて武装解除した。
 歪くんは得意げに、顎に手を当ててニヤニヤしている。

 「君の“異能”は多分、僕に似ているところがあるねぇ…こんな感じに!!」

 「『バリスティック・シールド』…!」

 歪くんは彼女に今日見てきた、鋭利な物を貼り付けて不意打ちをかける。
 その時彼女は目の前に、データの思念体の様なものが重なり形を成していき、テレビで何度か見た、特殊部隊が使っている盾が完成した。
 その盾に歪くんの攻撃が弾かれて、シャーペンやら、コンパスがカタンッと床に落ちた。

 「アンタの“異能”は、見た映像を、今見ている対象に貼り付ける能力…つまり、攻撃を当てさせたくない所を障害物で遮ったりして隠せば、攻撃は簡単に防御できる…」

 それを言うと彼女は急に落ち着いて盾を下ろした。すると、その盾からデータの思念体が散って形を失って消える。

 「ははーん。君の“異能”は僕みたいに、物体を持ってこれる能力か…こんな平和な時代に物騒で、気に入らないなぁ…」

 歪くんは奇怪なポーズで得意げに指を指してなた。
 すると彼女は片手を腰に当てて、再び目の前にデータの思念体を形成し始める。

 「半分正解。アタシの“異能”は『妄想武器庫』[ディリュージョン・アーマリー]。自分が取り入れた武器の情報を元に、自分好みに武器を精製できる能力…だからーー」

 データの思念体が、縦に円形の穴が空いた、円柱を形成し始めた。頭が悪そうに聞こえるが「蓮根」に似てる形だ。後ろにはとても太くて長いチューブが横向きに螺旋状になってくっついている武器…ガトリング…

 「ーー『GAU8』…戦闘機に付いているこのクソデカ機関砲ですら、アタシが片手で持てるほど、こんなに軽く精製できちゃうって訳……ちなみに言うとアンタを狙撃した時に使った弾も特別製で、ガラスほどの柔らかさなら、最小限に音を小さくして貫通できるの」

 彼女はジャキンッと音を鳴らし、物理法則を無視したかのように、細腕で馬鹿でかい機関砲を軽々と構えると、機関砲に繋がったコードにはスイッチが付いていて、彼女はグッと力を込めて構えた。「歪む現実」を警戒しているのだろう。

 「喜べよ…!アタシのお気に入りの武器で死ねるんだ…!」

 彼女は今日初めて、ニッと笑った。

Distortionな歪くん 08 「妄想武器庫」完

コメント

コメントを書く

「現代アクション」の人気作品

書籍化作品