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夢と現実と狭間の案内人 [社会不適応者として生きるということ⋯⋯]

巴崎サキ

新生活の始まりと、新しき出会い

ーー1ヵ月後、4月1日  入社式当日ーー

 ピリリリリリッ

 早朝6時、モーニングコールのように携帯電話が部屋中に響き渡る。

 アラームもかけていないのに。

 それは、母からの電話だった。

「あんた、起きてる??  大丈夫かね??」

 との、電話だった。

 あたしは2日前から、ここ女子寮にて一人暮らしが始まった。
 この寮は、これから毎日勤務することになる、某有名食料品会社の工場からは目と鼻の先にある。

 学生時代、まともに1人で朝起きれたことがない娘が心配で不安で仕方なかったのだろう。
 頼んでもいないのに電話をかけてきた。

「大丈夫!  大丈夫!  もう、30分以上前から起きて、もう準備してるからっ!!」

 今日は、名古屋の本社にて9時から入社式がある。
 この寮は隣の市の為、余裕を持って7時半には出たいところだ。

 起きられるかどうかの不安が母の倍以上はあるあたしは、朝6時に一つ目の目覚まし時計、6時15分に少し離れた所へ2つ目、そして6時半に携帯のアラームと仕掛けておいた。

 だが、蓋を開けてみると朝5時半前にはすでに目が覚め、しかも起きれていた。
 さすがのあたしも初出社の緊張には負けたらしい。

「あんたが⋯⋯一人で??  しかも、そんな時間に⋯⋯。まぁ、いいわ。起きてるなら。絶対二度寝しちゃだめよ。がんばってね。」

 そう言い残すと、母は電話を切る。

(心配かけてますなぁ、あたしは。さーーて、顔洗ってこよっ)

 あたしは部屋を出ると廊下をスタスタと歩き、手洗い場へ向かう。

 ここの寮は、1人部屋の6畳一間。トイレ風呂共同で、洗濯機と乾燥機も共同である。
 火気厳禁の為ガスは無く、水道も部屋にはない。
 おまけに、築年数もかなり経っておりとても綺麗とは言えない。
 
 そのためか、現在女子寮は男子寮に比べて入寮者は圧倒的に少なく数人しかいない。
 
 その代わり、電気代、水道代、駐車場代、寮費全部コミコミで1ヵ月3000円と言う破格の値段だ。

 しかも、お風呂の管理や寮の掃除(勿論トイレも)は管理人が全てやってくれるというのだ。(但し、自分の部屋は別だが)

 手洗い場につくと、すでに1人洗面台で歯を磨いている人がいた。
 上下黒のスウェットに、グレーのヘアバンドで前髪を上げたお姉さん。
 首にはピンク色のタオルを下げている。
私の知っている顔だった。

「あっ!  純さん、おはようございます!!」

 あたしは、元気に挨拶すると、口をモゴモゴさせながら返事が返ってきた。

「おはーーっ!!咲希ちゃん、早いねぇ。まだ、6時だよ!!7時半に寮前集合じゃなかった??」

 石原いしはら   純奈じゅんな
 あたしと同じく2日前からこの寮に越してきた同期。
 大卒入社になるのだが、大学入試の時に一浪しているらしく年齢は5つ上の今年24歳。
 学生時代にすでに一人暮らしをしていた為、この寮暮らしも彼女にとっては既に慣れたものだった。
 出会って今日でまだ3日目だが、一人暮らしが初めてというあたしを、彼女は常に気にかけてくれていた。
 ご飯に行く時も、お風呂に行く時も常に一緒だった。
 
 あたしにとっては、  “お姉ちゃん”   のような存在になっていた。

「そうなんですけど、二度寝しちゃうのが怖くて。それならいっそ起きてよっかなって!!っていうか、純さんも早くないです??」

 そう言うとあたしは顔をバシャバシャと洗う。

 すると、純奈さんは口元に2本指を当てながら

「へぇ。関心、関心。
まぁ、私の場合は補充しなきゃだからね。
じゃ、一緒にコーヒー行こっか!!」

 と、誘ってくれた。

 あたしは、すかさず

「は~~いっ!!」

 と、返事を返した。


 1階の玄関近くには、壁面がすべてガラス張りの共同の応接室がある。

 そこは、黒の革張りのソファーがいくつかあり、テーブルの上には灰皿と新聞が常に置かれていた。

 あたし達は、寮の自販機でコーヒーを買うとその部屋に入り腰かける。

 もう、染み付いてしまっているのだろう。
かなり、ヤニ臭い。

 純奈さんは、慣れた手つきで赤い箱を取り出すと、

「あっ!咲希ちゃん、煙大丈夫だった??」

 と、聞いてきた。

「気にしなくて大丈夫です。あたしのお父さんヘビースモーカーだったので」

「そっか!そっか!よかった」

 純奈さんは、ライターで火をつけると口から紫煙をフゥーーと吹き出す。

 タバコで同席するのは、今回が初めて。
 
この二日間は、『私タバコ吸ってくるから、じゃ~ねぇ』と言われ別れていたからだ。

「そういえば、咲希ちゃんは吸わないんだっけ??」

 純奈さんは、コーヒーをグイッと飲むとそう聞いてきた。

「えっ??あ⋯⋯あたしは⋯⋯た⋯⋯まに」

 あたしは、そう言うと俯いてしまった。

 誕生日が来ていないのでまだ18歳。
 
 どんな反応されるのか少し怖かった。

 ここだけの話、高校3年生の頃から実は私はタバコに手を出していた。

 と、言っても一月で一箱が無くなるか無くならないかぐらいのペース。

 いつもの店で、飲んでいる時とその帰りに吸う程度だ。

 親には当然言っていない。

 だが、おそらく父は気づいていたのだと思う。

 この間の、『タバコ吸うか??』の一言がその証拠だと思う。

「なんだ~。気にして損したじゃん!!吸わないの??」

「えっ??  あの~⋯⋯持ってきてなくて」

 未成年が、初っ端から会社に寮にとタバコを持ち込むと言うのはさすがにどうかと思い、あたしは本当に持ってきていなかったのだ。

「はぁ??  なんでそれを早く言わないのよ??
じゃ~、ここに来てから一本も??マジで??
これ、私のでよければ吸いなよ!!」

 そう言うと、赤い箱から1本出しあたしにくれると、そのまま火をつけてくれた。

「あっ!ありがとうございます。
スゥ~~。
うっ!  ゲホッ!ゲホッ!ゴホッ!!きっつ~~。これ、いくつです??」

 あたしは、久々でと言うよりもタールのキツさでむせてしまった。
 
きっと、あたしが普段吸っているタバコのタールの量より圧倒的に多いのだろう。

「12ミリ。ごめん。咲希ちゃんにはキツかった??」

「いえ。まぁ、あたし普段3ミリなのでキツイといえばキツイですけど!!」
(⋯⋯4倍か。そりゃ、キツいはずだ~)

 そう言うと、あたしは一度に吸う量を減らす。

 純奈さんは、紫煙を吐きながら足を組み替えると、

「ははは。そりゃ、キツイわ。無理しないでね!!ところで、どう??入社式緊張してる??」

 と、聞いてきた。

 だんだんと部屋全体が白いモヤに覆われ始める。

「ん~~。思ったほどではないです。むしろ、2日前にここに来たときの方が緊張しているぐらいです。ただ⋯⋯」

 あたしは、灰皿にトントンと灰を落とすと、ここに来る前から不安に感じていることを思い出す。

「ん??ただ??」

「実は、あたし高校の時から長時間人の話を聞くと、妙にすごい眠気に襲われちゃって寝ちゃうことが多いんです。人の話を聞く=寝るみたいな、なんか変な癖がついちゃってるみたいで。学校の授業とか、全校集会の時とか⋯⋯。今日、ちゃんと起きてられるのか不安で⋯⋯」

 純奈さんは、首を横に傾けながら不思議そうな顔をしている。

「えっ?そんなことで悩んでるの??いや~、さすがに大丈夫でしょ!!お偉いさんに囲まれてる中で寝れたらある意味大物だって!!」

 笑いながらそう言うと、タバコを灰皿にグシャッと押し付け立ち上がる。

「じゃ~、そろそろ準備しよっか。私たちは、男どもよりも時間かかるからねぇ」

 応接室に来て10分ほど経っただろうか。

 私は、純奈さんと別れると自分の部屋に戻る。

 体を動かし、人と話せたことで思っていた以上に頭が冴えている。
 おかけで、二度寝する事はなさそうだ。

 あたしは、テキパキと準備を済ますと、母にメールを打つ。

「え~っと、『今から行ってきます』っと!!」

 すると、30秒もせず返信が来た。

「頑張れっ!!行ってこいっ!!」

 あたしは、フッと笑みがこぼれた。

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