夢と現実と狭間の案内人 [社会不適応者として生きるということ⋯⋯]

巴崎サキ

この眠気は何だ??いつから?? (2)

 メニューからいつも頼んでる物を注文し、自己紹介も簡単に終えると、あたしの普段のこっちでの生活や、高校での生活についての話題になった。

 まぁ、それが唯一の共通の話題なのだから仕方がない。

 ここ最近の授業中や休み時間の居眠り、直近でのトラブルの話、今日のテスト中での事なども話題にでた。
 もちろん、まだ10数分前の遅刻の事も。

「え??なにぃ??咲希、あんた最近学校でそんな寝てんの??」

 果歩が呆気に取られている。
 まぁ、それもそうだ。
 中学の時は、そんな事は全くなかったのだ。

 成績はともかくとして、授業態度は至って真面目だったし、ましてや授業中寝るなんてもってのほかだった。

 高校3年生から、学校の風潮に染まってしまってたるんでいると言うのもあるのだろうが、それでも授業中によく寝てしまうようになった。

 今では、通学中や下校中の電車やバスでの移動中、しかも立ったままでも。そして、全校集会時や昼休み、挙げ句の果てには友達と話している最中でも寝てしまうようになったのだ。

 自分でも、なんとなく普通ではない⋯⋯少なくとも皆んなとはなにか少し違う体質なのかも?とは思い始めていた。

 とはいえ、別に痛いわけでも痒いわけでもなく、ただ急に眠くなってしまうぐらいで周りに迷惑をかけてしまう事はあってもそこまで深刻には考えなくなってきていた。

 果歩が再び口を開く。

「けど、確かに所構わずと言えば所構わずなんだろうけど、聞いてる感じだとある条件下では大丈夫そうだよねぇ??」

(ほえっ??)

 あたしは、四杯目のビールを半分程無くしつつ、ねぎまを咥えながら間抜けな顔で聞いていた。

 明日香も、二杯目のビールが無くなるかというところでジョッキを持ったままフリーズする。

 唯一シラフの恵美は『これ、美味しいね!!』と、のんきなことを言いながら延々と料理を食べている。しかし同時に、しっかりと聞き耳を立ててもいる。

「では~、そんなある条件下とはぁ~??
果歩さん、お答えをどうぞ~~!!」

 あたしは、答えを振る。

「⋯⋯あんた、段々めんど臭くなってきたねぇ。え~っと、あんたさ~体育の時とか部活で息切らしてる時とか、ケッタ(自転車)盛り漕ぎしてる時とかは眠くならないんだよねぇ??」

「えぇっ??いや、そりゃそうでしょ?!流石に、テニスの練習中とか試合中に寝てたらヤバイでしょ!!流石のあたしもそりゃ~ないわ~!!ゼーハーゼーハー⋯⋯おやすみ。⋯⋯って、ないない!」

 あたしが答えると、
すぐさま果歩が答える。

「いや、別にバカにしてるわけじゃなくってさ。うち、あんたがそんなふうに寝ちゃうところ見たことないから、いまいちピンとこなくてさ。要は  “気絶”  や  “失神”  といった類いではないんだなぁ~ってこと。いくら一瞬で落ちちゃうとは言っても、気絶とかが原因なら走ってたって何してたって倒れるじゃん!!
つまりそういうのではないと。」


(えっ??そんなの考えた事なかった⋯⋯)


 果歩は続ける。

「眠くならない条件は今のところ、体育、テニス、ケッタから共通するに息が切れる程の運動時!!
あとは⋯⋯⋯⋯今とかっ!!
あんた、ここでお酒飲んでる時そんな寝かたした事ないじゃん!!まぁ、酔っ払って寝る事はあるけど⋯⋯。」

 一同に視線があたしに集まる。

「⋯⋯あんた、実は毎日お酒抜けてないとか??」

「そんな訳あらすかぁ!!明日香っ!!」

「止まったら寝ちゃうってこと??咲希、回遊魚みたいだねっ!!」

「ちょっとっ!!恵美まで!!やめてよぉ。
もう、果歩がいらんことまで言うからだよっ!!」

 3人ともゲラゲラ笑っている。
 あたしも、可笑しくて仕方がなくて一緒になって笑っていた。

 段々、あたしの居眠り対策会議のようになってきていたけど、あたしは嬉しくて⋯⋯楽しくて仕方なかった。


「そういえばさ~、あんた彼氏と会ってんの??例の、年上で他県の!!」

 果歩が、思い出したかのようにあたしに聞いてきた。

 あたしには、10歳離れた他県に住んでいる彼氏がいる。

 遠いと言うのもあり、連絡こそ毎日とってはいるが、正直なところ月に1度ぐらいしか会えていない。

 けど、あたしは今はそれでよかった。

 彼氏といるより、こうして友達達とワイワイやっている方が気が楽で楽しい。

 彼氏といると、十も離れているのもあってか だろう、あたしの中でどこか背伸びをしているのか気持ちがピンと張ってしまっている。

 それに、無意識のうちに『子供っぽく見られたくない』ってのが働いてか、格好やら何やらやたら気をつかう。(メイクは下手だけど。)



「あんま。月一かなぁ。」

「相変わらずか。ねぇ、知ってる??この娘久々に彼氏に会いに行ったと思ったら、7時位にはもう帰ってきてて、私とここで飲んでるんだよ」

 果歩が、嘘偽りない事実を話し出すと、明日香が乗っかった。

「咲希ほんと??ってか、早くない??7時に名古屋って⋯⋯夕方にはバイバイしてるってこと??」

「そうなんだよねぇ。なんか、『このくらいの時間には帰らなきゃ、帰り真っ暗になって危ないからねぇ』とかなんとか言って帰らされる」


「子供かっ!!」

 3人から、総ツッコミが来た。

 風向きが悪いので話を変えるしかない。

「あたしに言われても⋯⋯そういえば、恵美こないだの話の途中って何だった??」


「あぁ~、あれ??私、彼氏できたっ!!」

「はぁ??マジっ??」

 今度は、別組での総ツッコミ。

「同級で、男子テニス部の矢崎君。咲希は知ってるよねぇ??」

 “矢崎慎吾”  

 知ってるも何も、男子テニス部の部長だ。あたしは部長会議で何度も顔を合わせ話したこともある。

(あいつ、いつの間に⋯⋯)

 いかにも『オレ、間違った事大嫌いです』ってタイプで、しかも”私が部長です”  と顔に書いてあるかのような貫禄のある人だ。
 決して悪い人ではないが、彼女を作るタイプにも見えなかった。

「そりゃ~、知ってるけど。早く言ってくれりゃよかったのに。」

「⋯⋯咲希には、1番に話したんだけどなぁ~~。」

 どこか遠くを見ながら、恵美がぼやく。

「あっ⋯⋯そっか。ごめん。」

「うそうそ!!わざと嫌味っぽく言ってみただけっ!!あれはあれで、おしまい。ってか、酔っ払うと名古屋弁増えるんだね??ウケるっ!!」

「⋯⋯いいじゃん。名古屋人なんだもん。」


 一通り飲み食いしてテーブルが空になった頃、店長が割って入ってきた。

「電車で来たって聞いたけど、時間大丈夫??」

 時計を見ると9時を回っていた。

「やばっ!そろそろ帰んなきゃ!!」
「ははは。明日、普通に学校だしねっ!!」

 明日香と恵美は高速で身支度を済ませる。

「咲希、まだ飲んでくんでしょ??送りいらないからいいよ!!シラフの恵美もいる事だし!!」

 そういうと、テーブルにお金を置いて出口へ向かっていった。

「明日香ちゃんと、恵美ちゃんだね!!名前覚えたよ!!また、食べにおいで!!」

 店長が、2人に握手しながら話すと

「どれも凄く美味しかったです。ごちそうさまでした。」

 恵美が、ペコリと一礼する。

「あんた、めちゃ食ってたしね!!
あっ!ご馳走さまでした。
さき~、果歩ちゃん、行くねぇ!!ばいば~い!!」

 と、明日香だが、酔っ払って加減がバカになってるのか声がやたら大きい。


「恵美、明日香の事よろしくね!!気をつけてねっ!!ばいば~い!!」


 あたしがそう言うと、二人はうなずいて帰っていった。


「いい子たちだね。あんたのこと、よく理解してると思う。」

 そういうと果歩は、4杯目を空ける。

「でしょ??すごい一緒にいて楽だし楽しい。」

 あたしは、そう言うと同じく4杯目の空ジョッキを置く。

 それを見計らって、果歩が聞いてくる。

「どうする??まだいく??」

「そりゃ、いくでしょ!!なんか今日気分いいし。パパ~~ここに2杯おかわり~~!!」

 あたしは、手を挙げ猛烈にアピールする。

「やれやれ。しょうがない。とことん、付き合ってあげますかっ!!」



翌朝


「咲希ーーーーっ!!
あんたは、何回起こされりゃ気が済むのっ!!
いい加減起きなさいっ!!」

 母が、あたしの頭の上で怒鳴り散らしている。

(⋯⋯痛っ!!)

「ごめん!!お母さん、ちょっと静かに⋯⋯」

 この、母の通る声が頭に響いて響いて仕方がない。
 おまけに胃が気持ち悪くて堪らない。

「臭っ!!あんた、またえらい飲んできたんだねぇ!!大概にせなかんにぃ」

 朝の日課の母のお説教が始まるが、相手できるほどの気力がない。

「今日、休んで⋯⋯」

「ダメですっ!!」

 結局、私は諦めて家を出る。

 が、適当にその辺をプラつき母が仕事に出かける時間を見計らい帰ってきた。

 学校には “体調不良” と連絡し仮病を使った。

(こんな状態でバスなんか乗ったら100%吐く。無理)

 あたしは、明日香と恵美に『二日酔いにつきダウンです』と、メールを送る。

(メール打つだけでも気持ち悪い)

 すると、すぐに返信が返ってきた。

「マジ??大丈夫??」
「アホっ!!結局何杯飲んだわけ??」

「6杯までは⋯⋯覚えてる」

「はぁ??」
「あほアホあほアホあほアホ!!寝てろっ!!」


(⋯⋯あはは。ごめん)


 あたしはベッドに横になると、今度は世界がグルグルグルグル回り始めた。

(気持ちわる~。もう最低)

 寝てしまおうと目を閉じると、よりいっそう目の回りが加速する。

 あたしは諦めて水を飲みに行くと、昨日のことを思い返す。

(そういえば、果歩  “条件が⋯⋯”  とかなんとか言ってたなぁ)

 テーブルに座ると、倒れながら起きていられる時、寝てしまう時とをいろいろ書き出してみることにした。


・電車やバスは立ってても座っててもダメ。
・眠くなってから歩くと、フラフラしてダメ。
・つまり、歩いていてもダメな時もあると。
・途中起きたとしても頭がぼーっとして何も考えれなくてダメ。
・けど、驚かされて起きた時はシャキッとしてて大丈夫。
・運動してる時も大丈夫。
・ジッと座って大人しく人の話を聞いていると高確率でダメ。(特に授業や集会。)
・テスト中もたまにダメ。


⋯⋯とりあえず、こんなところか。

(⋯⋯これ、ダメな時の方が多くない??⋯⋯もう、なんでもいいや。寝よ)



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現在

「あはは。この日のことは覚えてる。あんた、あの後仮病使ってたんだ!!」

 果歩は、懐かしそうに笑う。

「けど、学校行ってた時からそれなりに結構症状はもう出てたんだね。知らなかったわ。」

「うん。実はね。ただ、私もこの時まさか自分が病気だと思わなかったし。それに、高校の時は正直、明日香達に迷惑かける事はあったけど、それほど生活に支障はきたしてなかったのね。寝てたからといって、怒られるような環境でもなかったし。だから、そこまで深刻に考えてもいなかったの。」

 そう。
 私は、他の同じ病気の人たちと比べてこの時はまだ症状も軽く、環境も今思えば恵まれていた。

 大学入試が控えていたわけでもないので、進学の不安もない。
 寝てばかりで成績が⋯⋯センター試験が⋯⋯と、いった悩みもない。

 2学期に入り、就職試験そして面接と運良く発作も起きず難なくパス。
 そして内定通知が届く。

 内定が取れれば、学校は卒業までの間ほぼ遊びに行くだけのようなものだ。

 寝ていようが、遊んでいようがとにかく単位さえ落とさなければ、卒業さえきちっとできれば何のお咎めもない。

 引退試合を見事初の優勝で飾り、体育祭でも優勝。
 そして、文化祭が過ぎ去り、最高の二学期を終え冬を迎えると一気に卒業が見えてくる。

 3学期に入り、社会人になってからの心得や、卒業に向けての話など教室や体育館で先生の話を聞く機会が増えてくる。

 だが、その頃そのことごとくを私はほとんど寝て過ごしてしまうようになっていた。

 寝るつもりはない、起きていようと必死に抵抗しているのだが、静かに人の話を聞いていると猛烈な眠気に襲われ知らぬ間に落ちるようになっていた。

 人の話を聞く=寝る

 と、言うことが癖になってしまっているのでは??と、その時私は思っていた。

 そのあたりから徐々に不安が襲い始める。

 私の内定いただいていた就職先は実家からは遠く寮生活になることが確定していた。


 朝、1人で起きられるのだろうか??

 先輩や上司の話を寝ずにちゃんと聞けるのだろうか??

 そもそも、入社式起きていられるの??

と。



 カタッ

 私は、オールド・ファッションドを半分ほど飲み干すとテーブルに置く。

 カランカラン

 溶けた氷が崩れ、甲高い音を鳴らす。



「高校はね、まだよかったの。社会人になってから、本当に本当にきつい日々が始まったの」

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