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夢と現実と狭間の案内人 [社会不適応者として生きるということ⋯⋯]

巴崎サキ

恵美との小さな事件 ①

 カラン♪ カラン♪

「いらっしゃいませ~!!」


 今日から、一学期のテスト週間に入る。
 この期間は、部活はお休みの為久し振りに喫茶店に寄ってみた。
 本来、勉強するための時間に使うべきなのだろうが、あたしにとってはこっちの方が大事な時間だ。


 カフェというより、喫茶店と言った方がしっくりくる。
 個人経営の昭和の雰囲気を残した古い店構え。
 入り口から堂々と  “ヒグマの剥製”が迎えてくれる。
 オーク調の木目で統一された店内。
 木製のテーブルには、赤の革張りのソファーが置かれている。
 奥の席では、麻雀の出来るテーブルがあり、サンドウィッチを片手にしたおじさんからは紫煙が上がっていた。
 普段おばちゃんやらサラリーマンやらOLさん達で賑わうこの店内。
 もはや染み付いているのか店内からはタバコの香りが漂う。
 まだ時間が早いのか、奥にいるおじさんと、ところどころおばちゃん達がいるだけで店内は割とガラーンと空いている。
 そのおかげでか、普段なかなか座れない窓側の席に案内された。

 この喫茶店は部活がないときに3人でちょこちょこ来ていた。
 しかし、今日は明日香がいない。何故かというと、必死にノートやらプリントやらのコピーに励んでいるからだ。

「なんか、咲希と二人で来るの超久々じゃない??」

「だねっ!!
いつもは、明日香入れて3人だからね♪」

 いつも、必ずといっていいほど3人で行動しているあたし達にとって2人だけというのは妙に新鮮さすら感じた。

「あら、咲希ちゃん、恵美ちゃん、いらっしゃい。お決まりですかぁ??」

 メニューを見ていたあたし達に店主の奥さんがオーダーを取りにくる。

「あっ! あたし紅茶のホットでレモンはなしで!! 恵美は??」

「えっ? えっ⋯⋯私⋯⋯⋯⋯まだ決まってないよ~。
ん~~どうしよ~かなぁ~~?? ん~~あれもいいし⋯⋯これもおいしそうだし⋯⋯」


 恵美はいつもこうだ。
 メニュー表を開いてからかなり長い。
 優柔不断というかなんというか。
 そして、いつも結局同じものを頼む。

「ミルクティーのホット下さいっ!!」

 ⋯⋯やっぱり。

「はい。じゃ、ちょっと待っててね」

 そう言うと、奥さんは厨房の方へと引っ込んで行く。

「あっ、あの~カップって指定できますか??」

 あたしは、少し勇気を出して尋ねてみる。

「もちろん。いいですよ」

(⋯⋯やった)

 この店は、コーヒーや紅茶をマグカップ等ではなく、カップとソーサーだけで2万円近くもする高級食器で出してくれる。
 最初それを聞いた時は、緊張してカップをカタカタカタカタ言わせてしまっていたものだけど、なんでも慣れてしまうものだ。
 あたしは、以前来た時に出してもらえたカップとソーサーの柄が凄く気に入っていた。
 白をバックに淡い色を主体とした水彩画のようなお花の絵。
 口周りと取っ手の縁取りは金色で装飾されている。
 あたしは、これが何処のブランドのなんというカップなのか気になり教えてもらっていた。

「えっと、ウェッジ⋯⋯ウェッジなんとかの、スウィート⋯⋯スウィート⋯⋯なんだっけ??」

 緊張して出てこない。
 と言うより、一度聞いただけでは覚えれなかった。

「ウェッジウッドのスウィート プラム ダマスク??  花柄の」

「えっ⋯⋯あっ!  それです!!」

 手のひらが汗ばみ、顔が熱くなってくるのがわかる。

「恵美ちゃんは、なんか指定あった??」

「私は⋯⋯ロイヤル・コペンハーゲンならなんでもいいです」

「はい。じゃ、待っててね」

 そう言うと、奥さんは厨房へ戻っていった。

 お互い、携帯電話のメールチェックをしていると⋯⋯

「はい。どうぞ」

 あたしの目の前に、大好きな花柄が広がる。

(これ! これ!)

 自然と笑みが溢れた。


 フッと顔を上げると恵美がこっちを見て口を片手で抑えながらクスクス笑っていた。

「どしたの??」

 あたしが、不思議に思い尋ねると

「咲希、子供みたい。かわいい」

 そう言うと、今度は両手で口を覆った。

 聞くと、小さな子供がお子様ランチを目の前にした時の表情そっくりとの事。

(⋯⋯やめてよ)

「ねぇ。あたしたち、もしかして周りから生意気に見えてたりするのかなぁ??」

 制服に身を包んだ、たかが18歳の小娘が  "ウェッジウッドだー"  "コペンハーゲンだー"  なんて、言っているのである。
 周りのおばちゃん達からは、なんと思われてるのやら。

「まぁ、いいんじゃない?? 美味しいんだし」

 そう笑顔で返してくると、恵美はミルクティーを一口啜る。

 なんだかよくわからない返しに一瞬固まるが、確かに気にしたところで仕方がない。
 あたしも、出された紅茶を一口啜る。

「美味しい!!」

 好きなカップ、好きな香り、好きな味を堪能していると子供が少し背伸びをして大人の世界をしれた感覚に浸れる。

 あたしに迷いは無い。やっぱりこれが好き。

「ねぇ、恵美ってさ~悩んだ挙句、結局いつもとおんなじ物頼むじゃない??  それって⋯⋯悩む必要なくない??」

 あたしは、どの店に行っても店員さんに聞かれると、あたふた慌てだして回り回って結局観念したかの様に無難ないつもと同じものを選択してしまう恵美の行動が可愛くて好きだった。

「だって~。
せっかくだから、飲んだ事ない物にしようかな~とか思うんだけどね⋯⋯」

「決まんないでしょ??」

「⋯⋯うん。それと、店員さん待たせちゃ悪いし⋯⋯とか考えるとテンパっちゃって⋯⋯」

 恵美らしいと言えば、恵美らしいが⋯⋯これでは今後が心配過ぎる。

「別に、ここで飲まなきゃ二度と飲めない訳じゃないんだから適当でいいじゃん!!」

「⋯⋯まぁ、そうなんだけど⋯⋯。なんか悩んじゃうんだよねぇ」


 あたしは、素の香りと味を堪能し終え少しだけ味を変える為、砂糖を一杯だけ入れながら話しを続ける。

「悩みといや~、明日香テストどこにヤマ張るか結構悩んでたねぇ~」

「そだね。単位かかってるみたいだしねっ!!
明日香、今頃大変なんだろうねぇ??」

 明日香のイライラ顔が頭に浮かび、二人してクスクス笑ってしまう。

「まぁ、テスト範囲のプリントやらノート全部コピーだからねぇ!!
どうせやらないんだろ~に、そこまでするのもどうなのやら⋯⋯」

 あたしは、紅茶を啜りながらこれからの数時間を明日香がどう使うのか想像する。
 そこに時間を割くぐらいなら、ヤマ張った所を勉強する時間に使った方がいいんじゃないかなぁ?? なんて、思ってしまう。

 ガタッ!!

 急に何かを思い出したのか、不思議そうな顔をしながら体を乗り出し恵美が聞いてくる。

「そういえばさ~、明日香って私たちには「ノートとってある?」って、聞いてこないよねっ??」

 明日香は、この時期が来ると必ずクラスの真面目ちゃんグループの所に行って  「コピーさせてくれっ!!」  と、頼み込んでいるのだ。

「あっ!たしかに。
あたしはともかくとして、恵美は全部きっちり書いてあるのにね!!」

 あたしは、何度か恵美のノートを見た事があるが、ただ黒板の通りに書き写すだけでなく、更に綺麗にまとめてある。
 誰が見たって見やすく解りやすいと思う。
 オマケに字も綺麗と言うんだから敵わない。

 あたしは、続ける。

「まぁ、あれじゃない?? いつも一緒にいるのに、まさかきっちりやってあるなんて思いもしなかったとか⋯⋯」

「ははっ。そうかもね。まぁ、咲希のは⋯⋯ノートも、プリントもヨダレでふにゃふにゃだからそもそも⋯⋯」

 フッと横向きながらボソボソと言い出す恵美。

(こらっ! 誰と話しとる! 誰と!!)

 あたしは、両肘をテーブルに乗せ両手であごを支えたまスーッと目を細くしながら恵美を見つめる。

「それを、言わないでよ。多少は気にしてるんだから。多少だけど。
知ってる?? ヨダレまみれのプリントの大変さを。
ペンは滲んで自分で書いた字なのに読めないし、先生に提出するの死ぬほど恥ずかしいし、おまけにちょっと臭いし⋯⋯」



(⋯⋯えっ?  あた⋯⋯まが⋯⋯)



「 はははっ!! 知らない! 知らない!! ごめんて!!
あっ!!  そうそう思い出した!
ねぇ、咲希!!  聞いて聞いて!!   あのね⋯⋯
ん??   あれ?   ⋯⋯咲希??  聞いてる??」


「⋯⋯⋯⋯。」


「ちょっと!!  咲希!!  どうしたの??   ん??  あれっ??  寝てるの??  ねぇ!  ちょっと!!」

「⋯⋯⋯⋯。
えっ?  あ⋯⋯。 ごめん⋯⋯」

 あたしは、顎を両手に乗せた状態でそのまま眠っていたらしい。

 ただ⋯⋯記憶にはない。

 寝てしまっていた実感がない。

「⋯⋯。
ねぇ、咲希。
いくらなんでも寝るの早すぎない??  ほんの数秒前まで起きてたにぃ!!
⋯⋯無理してない??  大丈夫??」


(⋯⋯また⋯⋯急に頭が、ぼ~~っとする)


「ん?  あっ、うん。大丈夫だよ。ごめん」

 正直なところ大丈夫だとは自信が持てない。
 ここ最近、たまにだがこうなのだ。
 眠くなってきたなぁ~っというウトウト感がない。
 いきなり意識が落ちる。
 そして、目が覚めたあとも意識がはっきりせず、ぼ~~~っとしている。

「⋯⋯大丈夫ならいいんだけど。
でね、こないだの部活の帰り私「忘れ物したから先に帰ってて」って、言って学校戻ったじゃん」

「⋯⋯うん」

「あれ、嘘!!
ほんとはねぇ~呼び出されてたんだ!!」

「⋯⋯うん」

「男子テニス部の矢崎君っているでしょ??いつも私が話してる人!!」

「⋯⋯うん」

「その人にねぇ~、こく⋯⋯」

「⋯⋯そうなんだ~」

「なにが??」

「⋯⋯えっ??  何がって⋯⋯」
(あれ??  やばい。あたし、何話してたかなにも覚えてない)

「私、まだ話してないよ。「そうなんだ~」ってなに??」

「えっ??  あっ⋯⋯うん。ごめん」
(そうなんだ~ってなに??あたしが言ったの??)

「ねぇ、さき~。私としゃべってるのそんなにつまんない??」

「ううん!!  そんなことないよ~!!  なんか、ぼーーーっとしちゃってて」
(⋯⋯頭が、ぼ~~っとする。ふらふら⋯⋯する)

「熱でもあるんじゃない??」

「⋯⋯。」
(⋯⋯。あっ!)

「えっ?  あっ!  なんだった??  ごめん!  聞いてなかった!!」
(⋯⋯いま⋯⋯あたし⋯⋯また⋯⋯寝てた??)

「⋯⋯なにもいってないよ。⋯⋯ねぇ。帰ろっか」

「えっ?  あっ⋯⋯うん」

(恵美⋯⋯怒っちゃったよねぇ⋯⋯。どうしよう⋯⋯)

 あたしたちは、会計を済ませるとそのまま帰りの駅へと向かった。
 いつもは、すぐに着いてしまう駅までの道が物凄く長く感じる。
 夏特有の不快な、体にまとわりついてくるような暑い空気すら感じ取ることができない。

 ひたすら続く長い沈黙⋯⋯。


 なにか⋯⋯何かしゃべらなきゃと気ばかり焦る。
 いつも、温厚な恵美。
 こんな空気⋯⋯初めてだ。

「⋯⋯あっ⋯⋯えみ⋯⋯あの⋯⋯」

 あたしは、なんとか勇気を出して声を絞り出す。

「あっ!  咲希、ごめん。先帰って。 ちょっと寄りたいとこ⋯⋯あるから⋯⋯」

(えっ??)

 そういい残すと、恵美はあたしを置いて駅とは反対方向へ走って行ってしまった⋯⋯。

「⋯⋯あっ」


 恵美の目が、赤くなり光っていたように見えたのは気のせいだろうか⋯⋯。


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