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夢と現実と狭間の案内人 [社会不適応者として生きるということ⋯⋯]

巴崎サキ

いつもの、お店にて

 「ねぇ、咲希さき。あんたも来週いよいよ結婚式だねぇ!!」

 ギリギリで間に合った私は、親友の果歩かほと2人でいつものお店のカウンターに座る。
 そこで、ファーストドリンクを頼み終えたところだ。

 照明はほぼ消され、ところどころオレンジ色にぼんやりとキャンドルライトが灯った店内。
 ここは、事あるごとに2人で来ているなじみのBAR。

 シャカッ シャカッ シャカッ

 トットットットッ

 目尻に沢山のシワを刻んだマスターが、シャープにシェイカーを振り私のお気に入りの "XYZ" が注がれる。
 白色の、アルコール度数25度以上とちょっと強めだが、この味が気に入っていた。

 しっかりと磨かれた木目調のカウンターテーブルがキャンドルの光を反射し置かれたカクテル・グラスをより映えさせる。

 「そだね。果歩、今までありがとね。ここまで来れたのも、ほんと果歩がいてくれたからだと思う。」

 「いいんだって!!そういう、お堅い話わ!!ドリンクきたし、飲も!飲も!!」

 そう言うと、彼女は自分のお気に入りの "マティーニ" の入ったカクテル・グラスを見つめる。
 こちらは無色透明だが、中にオリーブが一つ落としてある。度数は30度を越えているので、お高い。

 「うん!!」

 私達は、お互いグラスを持ち上げる事はせず、脚の部分をつまみそのままテーブルを滑らせ⋯⋯

 "チン"

 と、極々小さな音を鳴らせる。

 本来、乾杯の際グラスとグラスをぶつける事はせずグラスを掲げるだけなのだが、私達はこの小さな甲高い音が好きで、これをスタートの合図にしていた。

 "XYZ" とは、アルファベットの終わり、つまり最後のカクテル⋯⋯"これ以上のものはない" と、言う意味らしいのだが、勿論最初はそんな意味なんて知らない。
 私の好きなアニメ  "シティー○ンター" と被ったことがキッカケだったりする。
 まぁ、取っ掛かりなんてそんなもの。

 彼女  “果歩” のオーダーした "マティーニ" にしても、『カクテルの帝王』と呼ばれているなどとは露知らずマスターに⋯⋯

 「このカクテルは、映画であの"マリリン・モンロー"や、『007』の"ジェームズ・ボンドが飲まれてた事で有名なのですよ。」

と、聞き

 「マジ?ちょっと、マスター私にもう一回オーダー聞いてよ!!」

 「えっ?あっ⋯⋯はい。お客様お飲み物は⋯⋯」

 「マティーニで。
⋯⋯⋯⋯ちょっ、ヤバイ!格好いいじゃん!!
咲希、私ファーストオーダーこれからこれにするわ!!」

 ぐらいのものである。


 彼女の名前は『たちばな  果歩かほ
 同じく年齢30歳    未婚
 同じ中学の同じ部活動(ソフトテニス部)で知り合った同級生。
 テニスのダブルスの相方でもある彼女とは、もう17年の付き合いになる。
 現在は、医療系の職に就き毎日ドタバタドタバタと走り回っているらしい。
 難しい事は考えず、言いたい事ははっきり言う。
 私に無いものを持っている頼もしい親友だ。
 学生の頃と比べて変わった所といえば、テニスに支障が出るからとショートカットを貫いていたのが、今ではセミロングになったぐらい。
 仕事中は、ポニーテールを余儀なくされるが、今は髪を下ろし前髪も作られ毛先が少し巻かれている。  
 こんなに雰囲気って変わるんだなぁってしみじみ思う。


 静かにジャズが響き渡る、お客さんもまだ疎らな22時。

 一通りお互いの近況報告が終わり、唐突にマティーニを半分程一気に飲むと、果歩が聞いてくる。

 「ところであんたさ~、最近病気の方はどうなの??ここ数年、症状は良くなってるとか、彼氏もいろいろ衝突はあったにせよ理解してくれてるのは知ってる。
けど、相手の親には話したの??」

 コトッ

 私は、持っていたグラスをそっと置く。
 グラスから指を離す事なく、中の液体を見つめながら⋯⋯

 「実は⋯⋯⋯⋯言えてない⋯⋯。」



 そう⋯⋯⋯⋯呟いた。



 「⋯⋯そっか。
ん~、まぁ~いいんじゃない??
無理に言わなくて。症状殆ど今はないんでしょ??なら、別にわざわざ⋯⋯。彼氏はなんて言ってんの??」

 果歩は、難しそうな顔をしながら無意識に眼球を "右上" "左上"と動かしている。
 内容はともかく、彼女なりにいろいろ考えながら答えてくれているんだろう。

 「言わなくていいだって。
言わなきゃ行けない状況になったら、トラブルが起きる前にオレから話すって⋯⋯。」

 「へぇ~、言うじゃん!あいつ!!
それでいいと思うよ、私も。
話したところで、

『はい。そうですか。』

ってすぐに理解してもらえるもんじゃないじゃん。あんたの場合。」


 「⋯⋯う~ん、まぁ。」



 私は、特発性過眠症という難病を抱えている。

 とはいえ、 "痛い" 訳でも "痒い" わけでも、直接この病気で死んじゃうわけでもない。

 症状としては  主に  “過眠”
 簡単に言えば『睡魔』 だ。

 これが、私の一番の大きな大きな悩み。

 日中、所構わず異常な眠気に襲われ起きていられなくなる。

 それは、作業中
 会議中
 友人との会話中、電話中
 歩行中
 試験中

 と、全く時と場所と状況を選ばず寝てしまう。

 そして、その症状の深刻さは世間には全く理解してもらえなかった。

 病気の認知度の低さがもたらす弊害。

 私の20代はこの病気に振り回され、夢すら諦めさせられた。

 理解を求めて話しても”病気なんだ”と言うことすら誰からも信じてもらえず、只々信用を失い無駄に警戒されていくだけだった。

 不眠症の方に話しても  『寝れるだけマシでしょ』 といった始末。

 気づいたら、病気である事を打ち明けようなどという考えは私の頭の中からキレイさっぱり消えていた。

 それでも、ある事をキッカケに病気持ちだという事を親友の果歩には打ち明けた。それが3年前だ。
 それでも、7年間は黙っていた。

 しかし、打ち明けたと言っても病気の原因(とはいえ、原因は未だ不明なのだが⋯⋯)と、症状ぐらい。

 果歩は、睡眠に関する専門知識がある訳ではなかったが、医療系の職についていたためか検査データを見て、その数値やグラフの異常性をすぐに理解してくれた。

 足らない知識はネットなので調べて、薬の効果や副作用等にまで理解を深めてくれたりしてくれた。

 今日、この日この場所をセッティングしたのは果歩。


 ただの、偶然。

 
 しかし、私としては結婚を間近に控えたこのタイミング。
 私がこの病気が原因で、どんな事を言われ続け、どんな目に遭い、どんな事を思い、どんな事が起きていたのかを初めて話そうと思う。

 前々から思ってはいた。
 この人にだけは伝えておきたいと。

 この機を逃したらここから先、もう話す機会はない気がしたから⋯⋯。


 「果歩⋯⋯あのね。聞いてほしい事があるんだけど⋯⋯いいかなぁ??」

 急に、心臓の鼓動が速くなる。
 鼓動が強く速すぎる為、指先が震え持つグラスがカタカタと音を立て始める。

 「えっ?  いいけど⋯⋯ちょっと咲希どした?大丈夫??」

 私の急な変貌に少々戸惑う果歩。


 「⋯⋯うん。(ふぅ~。) うん、大丈夫。
私の病気のことなんだけど、症状とかは前に話したと思うんだけど⋯⋯この病気のせいで私の20代が裏ではどんなだったか、どんな思いだったかとか、原因不明で治療法もないのにどうして症状が治まったかとか、結婚まで至ったかとか、果歩に全部話しておきたい。」

 私は、そう言い終えると残りの “XYZ” を一気に飲み干した。

 「⋯⋯わかったよ。今日は時間は気にしないで。最悪、朝まででも大丈夫だから!!
納得いくまで話しなよ!!全部、聞いたげる!!
あっ!マスター、咲希になんかオススメカクテル一杯作ってあげて!!」

 一部始終を見ていたマスターは、少し考えると

 「こちら、”オールド・ファッションド”になります。」

 そういうと、ロックグラスに入ったウィスキーベースのカクテルが出てきた。

 オレンジに、レモン・ピール、そしてカクテルピンに刺さったレッド・チェリーが添えられている。

 「あの~、これは??」

 私は、飲んだ事はおろか、聞いたこともないこのカクテルについて質問した。
 そもそも、私はウィスキーを殆ど口にしたことがない。

 「咲希ちゃんは飲んだ事ないジャンルかもしれないね。
実は、カクテルにはそれぞれにカクテル言葉があるの。花言葉をイメージしてもらえればいいかな。
この “オールド・ファッションド” と言う名前のカクテル言葉は 
      “我が道を行く”
つまり、#強い意志__・__#や#覚悟__・__#を意味してる。
頑張って!!
あっ!因みに、その一杯は私の奢りですから。」

 私は、ロックグラスを握ると目頭が熱くなり視界がボヤけてきた。

 (ありがとう。)

 「果歩ちゃんには、これ。」

 そう言うと、無色透明の液体が入ったロングタンブラーがススっと出てくる。

 「マスターこれは??」

 果歩が期待じみた表情をしながらマスターに問いかける。

 「チェイサーです。因みに、アルコール度数0パーセント、これも奢りです。」

 マスターはそう言い残すと、深いシワがより深くなるように  ニィ~っと笑みを浮かべると他のお客さんのお酒を作りに行ってしまった。

 「⋯⋯聞こえはいいけど、それってただの水じゃん。
はぁ~、要は私は酔っ払うなってことかぁ。」

 私は、そのやり取りを見ていて緊張がほぐれると共に勇気を貰った気がした。

 「果歩⋯⋯。私ね、病気だと発覚したのは21歳の頃なんだけど今思えば⋯⋯⋯⋯」



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