SiN・MAZINGERーZERO

SUBARU

第12話

スバルが地上に降りた場所は、ディストピア星人と交戦した秋葉原。そこは最早、秋葉原ではなかった。

各所から火の手が上がり、ビル群は壊滅。正に《地獄》そのものだった。
「もうオタクの聖地とは呼べねぇな」
スバルはこれが全て理性を失ったディストピア星人の仕業だと悟った。普通に倒すのは簡単だ。だがしかし、ワルキューレからの依頼は『ディストピア星人を救う』であり、『ディストピア星人の始末』ではないのだ。
「今の俺じゃ、救う事は出来ないな……でも」
何とかして助けてやりたい。そう思ったその時。
スバルの右手に微かな光が灯った。それは『優しさ』。最早感情にすらならない程度にしか残っていない小さな光。
スバルは光を両手で包み、聖者のようにしゃがむ。
光は少しずつ広がり、やがて秋葉原全土を包み込む大きなヴェールとなる。
スバルの心に、温かさが入り込む。後ろには未来都市のような要塞が現れ……
「……変身」
そう呟くと、要塞から聖騎士と戦車が融合したような甲冑が装着されていき、そして鎧を全て装着した瞬間、鎧にヒビが入り、そのヒビから輝かしい光が溢れている。
甲冑が割れた時、まるで神が生まれたように光が溢れ、その神は片腕を突き上げ、飛び去った。


破壊活動を行っていたのはやはりディストピア星人だった。彼女は完全に人間達への復讐心に囚われ、ただの破壊宇宙人へと化していた。
全てを破壊せん勢いで光弾を撃ちまくっていたディストピア星人の前に、神が降り立った。
その神は、スバルとあまり変化がない見た目をしていた。
目は赤から青に変化している。ロングコートからジャケットに変わり、赤いラインが青く染っている。右腕にはアクセフベルガードと呼ばれるガントレット型エネルギー増幅器がある。
その神の名は《真の勇者ゴッドエクリプスモード》。ほんの僅かに残されていた『優しさ』で変身した形態である。
「ぐおぎやぁぁあぁぁあああ!!」
ディストピア星人は奇妙な咆哮をあげ、エクリプスに襲い掛かる。
「……なんだ、これ」
エクリプスは急激な肉体の感覚の変化に驚き、戸惑うがディストピア星人を止めるため、戦闘体制を整える。


ディストピア星人の攻撃は、エクリプスにはかすりもしなかった。いや、"全て受け流されている"と言った方が正しいか。
右フックはエクリプスの左掌底で相殺され、キックはチョップで相殺される。しまいには赤い怪光線をも青い光のヴェールで防がれる。
その事にしびれを切らしたディストピア星人は近くにいたかろうじて生きている人間を投げ飛ばそうと腕を伸ばす。
エクリプスは一瞬怯んだが行動も速かった。両腕を十字に組み、青白い光線《スペシウム・シュトローム》を放つ。
スペシウム・シュトロームはディストピア星人の腕を粉砕し、ディストピア星人はよろめく。
「……ここまで落ちたか」
エクリプスは右手を空へと伸ばし、赤い光をその身に宿す。
黒いジャケットが真っ赤に染まり、アクセフベルガードが両腕に付くなどの変化を遂げ、更に少し筋肉質になる。
元のエクリプスが《慈愛》を示す『ルナフォーム』ならば、この形態は《強さ》を示す『コロナフォーム』である。
こうなるとルナフォームとは戦闘スタイルが大きく変わり、敵を容赦なく叩きのめす戦い方をとる。
エクリプスコロナは両腕を突き出し、球体を作るように回し、胸の前に持ってきた。
それを黙って見ているディストピア星人では無い。ディストピア星人は両腕をから赤い怪光線でエクリプスコロナの攻撃を阻止しようと構える。
ディストピア星人の怪光線が放たれる寸前、エクリプスコロナは87億度の業火を圧殺光線として放つ《ブレイジング・ウェーブ》を放った。
ディストピア星人はブレイジング・ウェーブをまともにくらい、絶大なダメージを負った。最早戦えるはずがない。だが、ディストピア星人は立ち上がる。全ては母星を破壊した人類への復讐のため。
エクリプスコロナは右手を再び空へ伸ばし、青い光を纏い、ルナフォームへ戻る。
エクリプスは両腕を胸の前に球体を作るようにして持ってきた。そして両腕を突き出し、邪念を払う光《ルナエキストラクト》を放つ。
ディストピア星人はルナエキストラクトを受け、動きを止めた。ルナエキストラクトによって復讐心が浄化され、憎しみに溢れた魂を浄化したのだ。
「……あれ?」
ディストピア星人……いや、ワルキューレ星人は周りを見渡す。
「ここはどこ?私は……」
そこで言葉は止まる。そして……
「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!」
絶叫した。弟子であるワルキューレ達、ましてやスカディですら『美しい』と称してくれた姿ではなかった。そしてワルキューレ星人はこの惨劇は自らが引き起こしたと悟った。
エクリプスのルナエキストラクトですら、ワルキューレ星人の肉体を戻す事は出来なかったのだ。
「私は……故郷を奪われ、姿を奪われ、罪を犯した……あぁぁぁぁ……」
ワルキューレ星人は倒れ込む。そしてエクリプスに頼む。
「お願い……私をディストピア星人として倒して……」
エクリプスは首を縦には振らなかった。それでもワルキューレ星人は頼む。
「私には……この醜い姿と罪を、背負って生きて行く事なんて出来ない……お願い、楽にして……」
ワルキューレ星人は涙を流し、願う。
エクリプスは首を縦に振り、腕をT字型に組んでエネルギーを溜めてから、傾けるように右腕をL字型に構え直して発射する《クヴァンタムストリーム》を放つ。クヴァンタムストリームを受ける瞬間、ディストピア星人は、確かにワルキューレ星人の姿を取り戻し……爆発四散した。


ワルキューレ星人はディストピア星人として死んだ。爆発の中、沢山の光が舞っていた。その光はヴァルハラを通り、元々ワルキューレ星があった場所で新たな恒星となり、光り輝いた。

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