SiN・MAZINGERーZERO

SUBARU

第4話

The・ONEを退けたスバルは近場にあったバイクに乗り、グリフォンの微かな魔力を辿って走っていた。
宿敵に大ダメージを与え、撤退まで追い込んだのに、彼は何も感じなかった。不思議に思ったのはわずか数秒。彼は瞬時に全てを理解した。
人間には、喜怒哀楽の4つの根本的な感情がある。その内の"喜"と"哀"が欠損してしまったのだ。いや、まるで『誰かが感情を奪い去った』。スバルにはそんな感じがしているのだ。The・ONEを退けても何も感じなかったのはそのためだ。だが、彼には関係なかった。ただ、The・ONEを殺す。それだけだ。
そんな事を考えていると、ふと強い魔力を感じた。危機を察知したスバルはすぐさまバイクから飛び降り、バイクのハンドルを持ってぶん投げた。すると前方に巨大な影が見え、水の剣でバイクを斬り裂いた。
バイクを斬り裂いたのは3mはある人型の騎士。全身を黒いアーマーの上にクリアブルーの追加装甲が装着されている甲冑で身を包んでいる。その胴体に僅かな切れ目があり、そこから彼がよく知る顔が覗いていた。
パライヤトルマリンの様な美しい水色の髪を持ち、白いマフラーを巻いている少女。彼女はシノン。フルネームをシノン=へカーティア。スバルのバディであり、改造対物ライフルを操る狙撃手スナイパー
「……ハロウィンには早すぎだな。相棒」
返事は無い。騎士に囚われているためか、意識が無い。代わりに騎士が窶れた声で呟く。
「……アーサァァァ…」
なんと。この騎士はかつてアーサー王に使えた騎士らしい。しかもこの騎士はそのアーサー王とスバルを間違えている。それならば、ますますシノンには似合わない。
「円卓の騎士かなんか知らねぇが…遊んでやるよ。来な。本物に会わせてやる」
スバルはシャドーボクシングで挑発し、呟いた。


先に動いたのは騎士だ。ある程度距離が空いていたからか、左手から水弾を撃ち出す。割と速い。だがスバルは太腿のガンホルダーから2丁の改造ハンドガンを抜き放ち、銃口を騎士に向ける。

銃の銘を《トルークビルト&ヴェリテ》。真実と虚像の名を持つ魔改造対物ハンドガンだ。弾丸に.50BMGを使用し、トルークビルトに黒い剣『月夜』が、ヴェリテに白い剣『百夜』が取り付けるというかなり無茶苦茶な改造を施してある銃。しかも下手な突撃銃より連射性能が高い。スバルはこの銃を使うために結構な本数の骨を折った。それだけ反動が大きいのだ。その代わりに絶大な破壊力と貫通力、圧倒的な取り回しの良さを会得している。さらに覚醒した影響で弾速が凄まじい事になっている。

トルークビルト&ヴェリテの片手銃の銃口とは思えない程巨大な銃口から.50BMGが放たれ、水弾を相殺どころか貫通し、騎士の肩を貫く。騎士は少しよろめくが、直ぐに体制を整えてスバルに向けて走る。
「……投影、開始トレース・オン
スバルは動かず、右手に黒い大弓を投影する。左手には、白い槍。かつてアーサー王が最後の戦いに使ったとされる"聖槍"。それを光の矢に変え、番える。
「ロンゴ……ミニアド」
光の矢と化したロンゴミニアドの鏃を螺旋の光が包む。そして、騎士の走る地を抉り、騎士に襲い掛かる。
騎士はいつの間にか召喚した羽状の盾でガードし、ロンゴミニアドを防ぎ切った。だが、盾は跡形もなく砕け散る。
「マジか…ロンゴミニアドを防ぎやがった。だが……」
スバルは大弓を消し、右腕を突き出し、左手を添えた。
「ウオオオオオオオオァァァァァァァ!!」
騎士は真っ直ぐにスバルへと走る。スバルは魔神パワーを全開放。元々7段階だった魔神パワーが進化し、新たな段階へと進化した為、8段階となっている。

スバルが持つ、神にも悪魔にもなれる力。それが魔神パワーだ。
第1段階・自己再生  戦闘で負ったあらゆるダメージを自己修復する。
第2段階・吸収  あらゆるエネルギー・物質を吸収し、自らのものとする。物理的に捕食しての吸収も可能。
第3段階・強化  スバルの能力を飛躍的に向上させる。重ね掛けも可能。
第4段階・高次予測  未来予知にも匹敵する状況シミュレーションを可能とする。平行世界の観測も可能。
第5段階・変態  物理法則の常識を超え、武装を増設したり、スバルの肉体の形状・性能を変化させる。
第6段階・因果律兵器  勝率があろうとなかろうと、因果律に干渉し、その結果を強引に実現させ、無理矢理勝利する。
第7段階:魔神化   全ての魔神パワーの出力を飛躍的に引き上げる。
第8段階:未来創造&過去依存  未来を紡ぐ事、スバルが今まで獲得してきた全ての能力を扱う事が出来る。
以上の8段階に分けられている。尚、この能力は第1から第2と順に段階を踏まなければならない。

スバルの突き出した右腕が黒く変色する。まるで、黒鉄の様に…
「ロケット…パァァァンチ!」
あらゆる武器がこれを操る者の身体の外延を成すとするなら、激烈な化学反応によって毎秒800mを超える速度を獲得した弾丸とは、速度と慣性質量の合成エネルギーと化して他者へ打ち込まれる意志に他ならない。 その意味で、断固たる意志の表象たる鉄拳を発射する必殺技。
ロケットパンチは騎士の顔面を吹き飛ばす。だが、それでも尚、騎士はスバルに襲い掛かる。
スバルはふと斬られたバイクを見る。吹っ飛ばしたバイクと騎士の鎧が融合しているのが見えた。スバルは魔剣スバルを抜き、騎士の胴体に斬り掛かる。
まるで狂った様に斬り込むこの剣技の名は《狂イシ悪魔ノ剣舞デッドリーダンス》。次の剣の軌道が全く読めず、撹乱出来、威力も高い剣技だ。
スバルの剣舞で騎士の鎧を次々と吹き飛ばしていき、最後に胴体をかっ捌いた。中からシノンが滑り落ちるのをスバルが受け止める。
一方バイクの方はスバルが吹き飛ばす鎧と次々と融合していき、原型を留めないほど変わり果てたバイクとなり、シノンを受け止めたスバルの元へ自動で走って行った。
鎧と融合したバイクに受け止められたスバルはシノンの顔を覗き込む。
「……見過ぎよ、ジャック…」
「丈を伸ばし過ぎだ。……大丈夫か?」
「何とか、ね…。……にしても変わったわね?ジャック」
「色々あってな。…行くぞ」
スバルはシノンを乗せ、再びバイクを走らせた。

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