黄金の将《たった3人の軍団》

ごぼうチップス

第一章 10

ハーメスは、広がる炎と混乱する味方の兵士たちを見て、この世の終わりのような顔をしていた。
「こんな、こんな事が・・まるで地獄じゃないか」
「て、敵襲!」
「将軍!」
テント群から、生き残りの兵士たちが、ハーメスのいる指揮所まで駆け付けてくる。
「将軍、敵の奇襲です!フォルデギウス軍が、炎を・・」
「こ、これでは、私のキャリアが・・私の輝かしい未来が」
「将軍!指示を!敵がそこまで迫っています!」
ハーメスが呆けた様子で、兵士たちは困惑する。このような状況で、尚且つ大将がこんな状態では無理もない。
「!?」
ハーメスが目の前で駆け付けた兵士たちを見て我に帰る。
「な、何をしている!?お前たち、私を守らないか!!」
「えっ?」
ハーメスが興奮しながら、味方の兵士の肩を掴み大きく揺らす。
「私が死んだら、誰がこの軍を指揮する!?副官のミラーズか!?あいつは無能だ!たしかにあいつが指揮代理だが、一度指揮を執れば、我が軍は全滅するだけだぞ!」
「し、将軍!どうか、落ち着いてください!」
周りの兵士たちが止めに入る。
「わ、我々が将軍を守ります!」
「ですから、どうか、我々を導いてください!」
「「将軍!」」
「・・お前たち」
兵士たちの説得にようやく落ち着いたのか、ハーメスは目の前の兵士の肩から手を離し、その内押し黙ってしまう。
「・・状況を知りたい。知っている者はいるか?」
「はい!」
1人の兵士が前に出て、状況を説明し始めるのだった。



「イグニッション」
レムリの声と共に魔装具クラウ・ソラス・ヘリアンサスは起動。
ルーゼ・ファルセム偽りの光
次にレムリが詠唱すると、彼の姿に変化が起きる。
正確には彼の周りが変化すると言うべきか。
光がねじ曲がり、一瞬レムリの姿が見えなくなったが、直ぐに姿を現す。だが、その姿は彼のレムリの姿をしていなかったのだ。
「うまくいったか」
そこにはレムリではなく、1人のアドート兵が立っていたのだ。
「もって数分。急いで、敵の大将を見付けないとな」
そう、アドート兵と思われたこの人物は、レムリが化けた姿だったのだ。
まあ、正確にはアドート兵そのものになっているわけじゃなく、魔力でそう見えるようにしているだけだが。触られたりすると、見た目との違和感でバレる可能性があるのは欠点ではある。
「お、作戦通りだな」
アドート軍野営地は、ヴァルキュリア部隊の地の魔法により、土壁が包囲しており、炎を纏って今では近付く者を拒んでいた。
しかし裏側、つまり外側はその範疇ではない。
そして、レムリがいる位置は例外だった。
「ちゃんとあいつら、人が1人通れるぐらいの隙間を開けておいてくれたな。偉いぞ」
野営地後方にも土壁が競り上がっていたが、レムリの言う通り、一部だけ何とか1人通れる隙間があったのだ。しかも運良く炎は後方の土壁までは延焼していなかった。
「まあ、もたもたしていたら、ここも直に燃え出すだろうが」
レムリは土壁の隙間を横這いになりながら、何とか通り抜ける。
彼が周りを確認すると、アドート兵の姿は見当たらなかった。
「よし、敵兵はいないか」
敵に見付からなかったのは僥倖だった。もし、通ってきたところを見られたら面倒になっていた。
「指揮所が近くにあるはずだ。探さなくては」
指揮所はだいたいが敵側よりも奥に、つまり自国側に設置するのが普通である。
レムリは走り出し、ひとまず敵の指揮官がいると思われる指揮所へと向かう。



ノヴァ一行は、役目を終えた隊員たちが合流し終え、ヴァルキュリア部隊の本来の人数に戻っていた。
「レムリ様は、いえ、テグナント様は大丈夫でしょうか?」
「あいつなら大丈夫でしょ。私たちと違い、魔装具保有者なのよ。それに、簡単に死ぬような奴じゃない」
「信頼されているのですね」
「ば、バカ、そうじゃないわよ!ただ、あいつはゴキブリ並みの生命力と、ネズミ並みのズル賢さが取り柄でしょ」
「ひ、酷い言われようですね・・・」
「ま、まあ、そんな奴でも実力は誰もが認めるところだから・・つ、つまりはそう言う事よ!」
あ、はぐらかした?
ええ、はぐらかしたましたわ。
「おしゃべりはもういいでしょ!ほら、敵が来たわよ」
ノヴァが視線で敵一団の方向を差し、隊員たちも、己の愛武器エモノを構える。
「ハアアアアッ!」
ノヴァが先陣をきり、敵を斬り伏せていく。
「わたくしたちも、いきますわよ!」
「「aye aye!」」
彼女に続けと言わんばかりに、ケリーたちも魔法や愛武器エモノでアドート兵たちを蹴散らしていく。






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