黄金の将《たった3人の軍団》

ごぼうチップス

第一章 7

「ヒィィィィィ!」
ターン村の村民、キーとビンが追い詰めた子供のスチームリザードには、親がいた。
その親リザードは、口を大きく開き、二人を威嚇してくる。
「キー!に、逃げよう!」
「あ、足が動かない!」
ビンは何とか起き上がるが、キーは未だに動けずにいた。
「ガアアアアア!」
「!?」
「く、食われる!?」
二人が諦めかけたその時、人影が二人の前に躍り出てくる。
「逃げてください!」
その人物は二人を庇うかたちで、スチームリザードと二人の間に立ち、帯剣していた片手剣を抜く。
「早く!」
「キー!僕に掴まって!逃げるよ!」
「あ、ああ・・」
二人はその人物を数秒見詰めた後、慌ててその場から離れようとする。
「ゴアアアアア!!」
「あなたの相手は私です!」
「ガァアアアアア!」
スチームリザードは、獲物を狩る事を邪魔した目の前の人間に、怒りを向ける。
「そうです。あなたの相手は、このクロエ・ウェリンソンが相手をします!」
目の前のスチームリザードは、子供を傷つけられた怒り、空腹からの怒り、狩り場を荒らされた人間への怒りに支配されていた。
「二人は・・・」
クロエは後ろをチラ見をし、キーとビンの姿を確認する。
二人は木々の影へと消えていくのが見えた。
何とか逃げ切ったか。
だが、クロエが足止めに失敗、または倒せない場合、目の前のスチームリザードは直ぐにも二人を追い掛けに行くだろう。
「私一人で、足止め?できるの、私に?・・でも、やるしかない!」
幸い、スチームリザードはクロエに釘付けになっており、彼女を無視して二人を今すぐ追って行く事はないだろう。
「できる、私ならできる!」
クロエが先に仕掛ける。
彼女はまず、そのでかい図体を支える足を狙えば態勢を崩せると考え、一気に間合いを詰め、低い前傾姿勢から高速の半回転斬りでスチームリザードの足を斬りつける。
「くっ、硬い。でも、もう一度!」
高速の斬りつけにより後ろを取った事で、リザードは未だに反応できていない。
だが、再度足を斬ろうとした瞬間、スチームリザードは反応できていないと油断したのが仇になる。
奴の長い尻尾が鞭のようにクロエを襲ってきたのだ。
「くっ、回避!」
瞬時に身体をひねり、尻尾の鞭攻撃をギリギリで回避する。
「はぁ、はぁ」
これはまずい。
奴は後ろにも目があるのではと思うほど、こちらの動きを見ていた。
本当に、ただの魔獣なのか?
ただの魔獣ならば、それほど知能が高くないはず。
「いや、違う。長く獲物を狩り続けた事で、高い知能と同等の本能的な能力を手に入れたんだ」
奴は考えて動いてたわけじゃない。本能的に生存率の高い行動をとっているだけなんだ。
クロエはそう結論付けた。
「手強い・・・でも、私もこんな所で死ねない。ノヴァ様が私の帰りを待っているんだから!」
ここでクロエは一つ作戦に出る。
「簡単なこと。同じところを何度も何度も斬れば、いくら硬い皮膚でも、いずれ・・」
クロエは同じ箇所、スチームリザードの足を執拗に斬り付ける事に決めた。
硬い皮膚と言っても、金属ほどではない。いや、いくら金属でも同じ箇所に何度も力が加われば、金属疲労を起こす。
クロエはスチームリザードが反応できないスピードで足元に滑り込み、先ほど斬った箇所を寸分狂わず斬る。
そのまますり抜け、直ぐに態勢を立て直し、前傾姿勢から同じ箇所を目指し斬りつけ、すり抜けてまた反対側から同じ箇所を狙う。これを何度も何度も繰り返す。
それはまるで、一本の線に見えるほどの加速力だった。
「はあああああ!」
スチームリザードは何が起こっているのか理解できておらず、ただクロエの圧倒的なスピードに翻弄されていた。
そして、何度も斬り付ける事で変化が起こっていた。
スチームリザードの足から切り傷、そして血が噴き出していたのだ。
「まだまだ、倒れるまで!」
そうして、切り傷は大きくなっていき、とうとうスチームリザードは膝を付き、直ぐにその大きな身体を支えきれず地に伏す事になった。
「グガアアアアアァ・・」
「・・・はぁ、はぁ、はぁ」
や、やったの?
クロエは激しい体力消費から剣を手放し、膝を地面に付いてしまう。
苦しい。
もし、今襲われたら・・・。
「グルルゥゥ」
とうとうスチームリザードは動かなくなる。出血多量で、目は虚ろになっていた。
「た、倒した。や、やった。・・はぁ、はぁ」
もう、動けない。
「ノヴァ・・様。私、やりました・・」
「だ、・・だい・・じょ」
「ビ・・ン。た・・す」
誰?
もう、何も聞こえない。
クロエはそのまま、深い闇へと落ちていった。






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