黄金の将《たった3人の軍団》

ごぼうチップス

第一章 6

アルティミィ大陸はだいたい4つの気候帯にわかれる。
北部の寒帯、中央部の熱帯、南部の亜熱帯、西部と東部の温帯である。
レムリたちがいる北部は、ほぼ一年中寒い風が吹き、雪が降らない日は少なく、特に吹雪くと外に出られないほどの日も珍しくなかった。
「にしても、ひ、冷えますね」
「クロエ、貴女はたしか東部出身だったかしら?」
「はい、東部にあるフォムジェン出身です。一年中暖かい気候で、海の都市だから、小さい頃は、暇があれば泳いでいました」
「う、羨ましいわね」
ノヴァがクロエの自慢?に羨ましがっていると、レムリは突如左腕をビシッと伸ばし、全員の進みを止めさせる。
この場にいる全員がその場でしゃがみ、辺りの様子をうかがう事に。
「声が聞こえる」
「もしかして、アドート軍?それとも・・・」
レムリたちは未だに大森林を抜け出せていない。そのため、ここでの戦闘はできるだけ避けたかった。
「アドート兵だった場合はどうするの?」
「一人二人なら、背後からの奇襲で何とかなるだろう。だが、二桁三桁といるなら、戦闘は避けるべきだ。敵の本隊に今気付かれるわけにはいかないからな」
10人100人といれば、討ち漏らした場合、敵の逃走を許す可能性が出てくる。そうなれば、敵の本隊にこちらの情報が伝わってしまう。
「クロエ、お願いできる?」
「了解しました。ノヴァ様」
「ちょっと待て、何をする気だ?」
「クロエはね。こう見えて、諜報活動と隠密行動が得意なのよ。敵に発見されず情報を入手するなんて、クロエにしたら朝飯前なの」
ノヴァがえっへんと愛する部下を自慢すると、クロエの顔が同時に、茹でダコのように真っ赤に変わる。
「やめてください、ノヴァ様。恥ずかしいですぅ」
そうか。それであの時、俺は彼女の存在に気付かなかったのか。
クロエは顔を赤くしたまま、偵察に行ってきますと一言添えて、声の正体と周辺の情報を探りに出て行った。
「本当に彼女一人で大丈夫か?他に一人二人ついって行った方が」
「あの子なら大丈夫よ。それに、彼女のスピードについていける人間なんて、この場にはいないわ」
信じるしかないか。
「この場所から移動するぞ」
「えっ?」
「声が聞こえたと言う事は、こちらの声も相手側に届く可能性がある。相手が敵か魔獣か、はたまた近くの村の住民かはわからないが、こちらの存在に気付かれるわけにはいかない」
バイソン大森林の近くには、少数の村が存在していた。どの都市国家にも属さず、村の長を頂点に独自の生活様式を形成している集落が大陸には、点在していた。
「ここを離れる理由は理解できる。でも、クロエは、クロエはどうするのよ?ここを離れたら・・」
「落ち着け。お前自身が先ほど言っていただろう。諜報と隠密に長けた彼女なら、こちらの位置を知る事は容易なはずだ」
ノヴァはそれを聞くと、一瞬吐き出しそうになった言葉を呑み込み、レムリに対し頷いて見せる。
「それでいい。直ぐに動くぞ。俺が先鋒を務める」
レムリは先頭を行き、ノヴァたちが彼の後ろを追うかたちになった。



「なあ、あそこから、がさがさ音がしないか?」
「はあ?聞こえないぞ。それより、スチームリザードの子供が逃げてきたのは、こっちだったよな?」
大森林近くの村、ターン村の村人キーとビンが、スチームリザードの子供を追い掛け森へと入ったのが1時間前、スチームリザードの親に遭遇しないかびくびくしながら追い掛けながらここまで来たのだ。
スチームリザードは成体になれば、手がつけられないほど凶暴化するが、幼体や子供の時期はまだ皮膚が柔らかく、気性もそれほど荒くない。またその肉は、成体は固くなり不味くなるが、子供までの肉は柔らかく癖のない食肉になり、美味である。
「子供の肉は売れば、かなりのモノになる。それに、採れる肉量も多いからな。俺たちも、ご馳走にあやかれるかもしれん」
「にしたって、子供がいたって事は、親リザードもいるってことだろ?子供を追ってきたって親に知られたら、まずいんじゃ・・」
「ビン。そう言えば、スチームリザードの狩りは初めてだったか?大丈夫、俺は親に連れられて、何度か経験がある。俺に任せれば、大丈夫だって!」
「しかし、キー・・・ひっ、やっぱ、何か聞こえて・・」
「今日は風が強いし、木々が揺れる音だろ。いくらなんでもビビりすぎだ。ビン」
ギリリリギィリ・・・。
「ひっ、やっぱ何かいるって!」
「なら、スチームリザードの子供が近くにいるって証拠だ。ようやく、獲物をやれるぞ。後一息だ、ビン」
意気揚々とするキーに対し、怯えて動けないビン。
ギリリリギィリリリリ。
「や、やっぱり、ほら、聞こえるだろ!」
「ああ、俺にも聞こえた。スチームリザードの歯軋りする音だ。やはり、この近くにいたんだ!」
「に、逃げよう、キー!子供だとしても、手負いだ。狂暴になっているかもしれない!」
「後もう少しで倒せるのに、何言ってんだ!」
ガアアアアア!
「こい!俺の槍で、一突きだ・・えっ」
「キー!」
ビンは直感でキーの襟を引っ張り、後ろへと引き摺る。
そうして、彼らの前に現れたモノは、子供のスチームリザードではなかった。
「お、親のスチームリザード!?」
「ヒィィぃぃぃ!?」
二人は尻餅をついて、その場から動けなくなってしまった。







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