あ?悪役令嬢舐めとんのか?
第三話
「……はぁぁ。」
机に項垂れて、彼女は大きく溜息をついた。慣れない、艶やかな髪が擽ったいのか、もぞもぞと彼女は身動ぎをする。
現在、置かれている状況をまとめた紙を片手に、彼女はため息をつくことしか出来ないのだ。彼女、エリシャの今の年齢は17歳。古くから続く貴族の娘。兄が一人いて、ソレも攻略対象の一人だ。そして、家を継ぐ必要のない悪役令嬢は王子の婚約者となる。たしか、15歳の頃に婚約者となったのだから、既に彼とはそういう関係になっているのだろう。……問題はここからだ。のちに、主人公であるヒロインが、王子や彼女が通う学園へと転校してくる。そして、ヒロインは王子に恋をして、王子もそのアピールに惹かれる。彼女自身も、王子を好いていた。……だが、だからこそ、彼の想いを応援したかった。
彼とヒロインが並ぶ姿を見て、彼女は彼の想いを知る。そして、彼女は父に、婚約を破棄したい、と伝えた。彼女の願い通り、二人の婚約は破棄されて、ヒロインと王子は結ばれた。
けれど……彼女以外の人間は納得しなかったのだ。彼女は、尊敬され、誰もが認める努力家で、成果を出す、とても優秀な人材だった。
だからこそ、彼女が自ら婚約を破棄したのだと誰も、思わなかった。無理やり、破棄されたのだと思った取り巻き達は、ヒロインを虐めた。
それはもう残酷で、悲惨な程。事実を知った彼女は激怒し、取り巻き達を罰した。だが、その行動こそが批判を浴びることとなる。
彼女が自作自演でやったことなのではないか、と疑われたのだ。ヒロインは違う、と彼女を守ろうとしたが疑った張本人は…王子だった。そして、為す術もなく、彼女は未来の王妃を傷つけたとして、罰を受ける。……それが、彼女の最期だ。
あまりにも残酷なその未来は、エリシャさえもゾッとした。……今度は、天使の不注意でもない、決められた死。それを、迎えない為にも、彼女は奮闘するしかないのだ。
「…………よし。」
覚悟を決めた彼女は、早速、行動しなければ、と立ち上がる。幸いにも、彼女の体には前世の動きが体に染み付いていた。
その動きは現役アタッカーのもので、力強く、素早く、凛々しい。そう、彼女が運命から抜け出すには、これしかないだろう。彼女が極めたその道で、貫き通すしか、出来ないのだ。
だが、問題は沢山ある。動きは覚えていようと、この体の耐久力は鍛える他ない、ということだ。彼女の元の体は、戦地で自らに鞭打って奮闘した結果。それ故に、彼女の動きはSランクの称号を貰える程に成長したのだから。
思いの他、悪役令嬢の体はそれなりに動けた。ひょろひょろのお嬢様、と思ったが案外、素材は悪くないようだ。
まぁ、元の体には劣るとしても、これから鍛えていけばいいのだ。丁度、彼女の兄は騎士団長。剣術を教えて貰いつつ、体を鍛えるのなら一石二鳥、というものだろう。
それから……学校も変えなければならない。婚約を破棄しても、主要の人物達と関われば今後の運命がどう傾くかは分からない。ただでさえ、流れるままに行き着く運命には死が待っているのだから、彼女は出来るだけその人々は避けたほうがいいと考えたのだ。
そう決まれば、行うことははやい。彼女はとある作戦を立てて、部屋を出た。迷いもなく、その足は父であるファロン侯爵の元へ進んでく。
「父上、今よろしいでしょうか?」
自らの口から出た言葉に、エリシャはぎょっとした。いいよ、入っておいで、という父の言葉も彼女には聞こえず、わなわなとその身を震わせる。ちちうえ、よろしいでしょうか、などエリシャが使うわけがない。
彼女の体に染み付いていた言葉なのだろうけど、エリシャにとっては歯の裏がむず痒くなるような言葉なのだ。
返事をしたのに、入ってこないのを不思議に思ったのか、その扉が開き、父が顔を出した。ゲーム内では出てこなかったその人物だが、自然と彼女に違和感は感じなかった。頭のどこかで、彼女の記憶として分からずとも覚えていたのだろう。
「エリシャ?どうしたんだい?」
「い、いえ、ちょっとお話が……」
恥ずかしさやら、なんやらで顔を真っ赤にするエリシャ。耐えろ、耐えるんや、と自分に言い聞かせ必死に笑顔を作る彼女を父は不思議そうに部屋へと招き入れた。
微かな煙管の臭いに、顔を顰めつつ、彼女は案内されたソファーへと座る。慣れた手つきで、父は紅茶を入れると、彼女の前に置いて、彼は正面へと座る。
さすが、と言うべきなのだろうかゲームの補正か、それとも元々か、その顔は綺麗に整っていて、特徴的な赤い瞳は父譲りなのだと分かる。
出された紅茶を一口飲んで、彼女はふぅ、と息を吐く。言葉を待つかのように、じっと見詰める父の目を真っ直ぐに見返して、彼女は口を開いた。
「……うち、結婚嫌や!それから、学校も通いたいとこがあるんよ!」
「…………。」
やってしまった。いや、これが素なのだから仕方ない、と言えば仕方ないのだが……。
ぽかん、と口を開いて唖然とする姿に、彼女は慌てふためく。だが、驚くのも無理はないというものだ。
娘が急に血迷ったのか、結婚嫌がるわ、違う学校通いたいとか言い出すわ、オマケに変な口調。驚かないわけもないだろう。
そして、次の瞬間、バターン、とその体が倒れる。グルグルと目は回り、ぶつぶつと何かを呟き、泡を吹いている。
「お、オトン!?ちょ、しっかりしーやぁぁぁあ!!!」
夕方の、赤い空が輝く中、その一家にはどたばたと駆け回る音が響いていた。
机に項垂れて、彼女は大きく溜息をついた。慣れない、艶やかな髪が擽ったいのか、もぞもぞと彼女は身動ぎをする。
現在、置かれている状況をまとめた紙を片手に、彼女はため息をつくことしか出来ないのだ。彼女、エリシャの今の年齢は17歳。古くから続く貴族の娘。兄が一人いて、ソレも攻略対象の一人だ。そして、家を継ぐ必要のない悪役令嬢は王子の婚約者となる。たしか、15歳の頃に婚約者となったのだから、既に彼とはそういう関係になっているのだろう。……問題はここからだ。のちに、主人公であるヒロインが、王子や彼女が通う学園へと転校してくる。そして、ヒロインは王子に恋をして、王子もそのアピールに惹かれる。彼女自身も、王子を好いていた。……だが、だからこそ、彼の想いを応援したかった。
彼とヒロインが並ぶ姿を見て、彼女は彼の想いを知る。そして、彼女は父に、婚約を破棄したい、と伝えた。彼女の願い通り、二人の婚約は破棄されて、ヒロインと王子は結ばれた。
けれど……彼女以外の人間は納得しなかったのだ。彼女は、尊敬され、誰もが認める努力家で、成果を出す、とても優秀な人材だった。
だからこそ、彼女が自ら婚約を破棄したのだと誰も、思わなかった。無理やり、破棄されたのだと思った取り巻き達は、ヒロインを虐めた。
それはもう残酷で、悲惨な程。事実を知った彼女は激怒し、取り巻き達を罰した。だが、その行動こそが批判を浴びることとなる。
彼女が自作自演でやったことなのではないか、と疑われたのだ。ヒロインは違う、と彼女を守ろうとしたが疑った張本人は…王子だった。そして、為す術もなく、彼女は未来の王妃を傷つけたとして、罰を受ける。……それが、彼女の最期だ。
あまりにも残酷なその未来は、エリシャさえもゾッとした。……今度は、天使の不注意でもない、決められた死。それを、迎えない為にも、彼女は奮闘するしかないのだ。
「…………よし。」
覚悟を決めた彼女は、早速、行動しなければ、と立ち上がる。幸いにも、彼女の体には前世の動きが体に染み付いていた。
その動きは現役アタッカーのもので、力強く、素早く、凛々しい。そう、彼女が運命から抜け出すには、これしかないだろう。彼女が極めたその道で、貫き通すしか、出来ないのだ。
だが、問題は沢山ある。動きは覚えていようと、この体の耐久力は鍛える他ない、ということだ。彼女の元の体は、戦地で自らに鞭打って奮闘した結果。それ故に、彼女の動きはSランクの称号を貰える程に成長したのだから。
思いの他、悪役令嬢の体はそれなりに動けた。ひょろひょろのお嬢様、と思ったが案外、素材は悪くないようだ。
まぁ、元の体には劣るとしても、これから鍛えていけばいいのだ。丁度、彼女の兄は騎士団長。剣術を教えて貰いつつ、体を鍛えるのなら一石二鳥、というものだろう。
それから……学校も変えなければならない。婚約を破棄しても、主要の人物達と関われば今後の運命がどう傾くかは分からない。ただでさえ、流れるままに行き着く運命には死が待っているのだから、彼女は出来るだけその人々は避けたほうがいいと考えたのだ。
そう決まれば、行うことははやい。彼女はとある作戦を立てて、部屋を出た。迷いもなく、その足は父であるファロン侯爵の元へ進んでく。
「父上、今よろしいでしょうか?」
自らの口から出た言葉に、エリシャはぎょっとした。いいよ、入っておいで、という父の言葉も彼女には聞こえず、わなわなとその身を震わせる。ちちうえ、よろしいでしょうか、などエリシャが使うわけがない。
彼女の体に染み付いていた言葉なのだろうけど、エリシャにとっては歯の裏がむず痒くなるような言葉なのだ。
返事をしたのに、入ってこないのを不思議に思ったのか、その扉が開き、父が顔を出した。ゲーム内では出てこなかったその人物だが、自然と彼女に違和感は感じなかった。頭のどこかで、彼女の記憶として分からずとも覚えていたのだろう。
「エリシャ?どうしたんだい?」
「い、いえ、ちょっとお話が……」
恥ずかしさやら、なんやらで顔を真っ赤にするエリシャ。耐えろ、耐えるんや、と自分に言い聞かせ必死に笑顔を作る彼女を父は不思議そうに部屋へと招き入れた。
微かな煙管の臭いに、顔を顰めつつ、彼女は案内されたソファーへと座る。慣れた手つきで、父は紅茶を入れると、彼女の前に置いて、彼は正面へと座る。
さすが、と言うべきなのだろうかゲームの補正か、それとも元々か、その顔は綺麗に整っていて、特徴的な赤い瞳は父譲りなのだと分かる。
出された紅茶を一口飲んで、彼女はふぅ、と息を吐く。言葉を待つかのように、じっと見詰める父の目を真っ直ぐに見返して、彼女は口を開いた。
「……うち、結婚嫌や!それから、学校も通いたいとこがあるんよ!」
「…………。」
やってしまった。いや、これが素なのだから仕方ない、と言えば仕方ないのだが……。
ぽかん、と口を開いて唖然とする姿に、彼女は慌てふためく。だが、驚くのも無理はないというものだ。
娘が急に血迷ったのか、結婚嫌がるわ、違う学校通いたいとか言い出すわ、オマケに変な口調。驚かないわけもないだろう。
そして、次の瞬間、バターン、とその体が倒れる。グルグルと目は回り、ぶつぶつと何かを呟き、泡を吹いている。
「お、オトン!?ちょ、しっかりしーやぁぁぁあ!!!」
夕方の、赤い空が輝く中、その一家にはどたばたと駆け回る音が響いていた。
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