うちよそ村

とある学園の教師

アレイシアと9

いつの間にかアレイシアは居なくなっていた。
少し寂しいと思うが、いつもの事で、すぐにそんなものはなくなってしまって。
そんな彼は夢を見る。
微温しょうもない夢ではない。
全てを見通す彼が見た、報われない友人を想う夢。
悲しそうに焦げた塊を見ている。
「これが、貴公の見た未来か」
少女が問う。実年齢、という話ではない。というより、それは余り重要ではない。
むしろ、それは思考の足枷になっている。
「……ああ」
「止めようとは思わなかったのか」
「ああ」
「何故」
「この世界は、俺の管轄ではない。ただ来訪しただけだ。見るだけの俺に、天秤に重りを置く権利はない」
「いつか言っていたな。貴公は、始まりの星に生まれたと」
「ああ」
淡々と答える。
彼はどうも思わなかった。
そこにある矛盾も。
「この宇宙も、俺の知らない世界だ。俺はたまたま混ざりこんだ想定外イレギュラー。不幸であるべき老翁に手を差し伸べれば、幸福であるべき少女が不幸になるかもしれない」
ただ、少女の安否に重きを置いていた。
「私の幸福が他の犠牲を伴うのは知っている。だが、そこで終わらせたいんだ。だから敢えて聞く。私はどうなる?」
………彼は甘えた。
夢の中だから、どうにでもなると。
「……知らない。俺の目では、見通せない」
「嘘をつくな」
「嘘じゃない」
「貴公のその万能とやらは付随する不完全性と向き合えているのか」
怒りが籠っている。仕方がないことだ。覚悟もしていた。だが、悲しい。
「ない。それを乗り越えたら、俺は人ではなくなる」
「ハッ!貴公の言っていることは苦海に解き放たれたばかりの赤子と同じだ。争いの世に放り込まれた時から、種族だの何だので煩悶する程、やわな存在だったか」
「…………それはお前が俺を置いていっただけだろう」
「………逃げるな」
「俺は幼いままだ。何時だって、取り残される側で」
「それがどうした」
「何より。置いていく側の気持ちを知らない、ただのガキなんだよ」
「生が残留の証なら、死んで行った者達は何を憂うのだろうな。自分の死か?」
「…………俺は死んだことはあるが、置いていったことは無い。その上で言うが、自分の命なんてどうでもいいと思った・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…………そうか。それを聞けたなら何よりだ。心置き無く、貴公を見離せる」
「………あぁ、それでいい。お前が望むとおりにやるといい」
せめて、最後にその頭を撫でてやろうと手を差し伸ばす。
もう寸分というところだった。


そこで目が覚めた。
虚空に手を伸ばしている。
夢と体を切り離しているはずなのに、何故かその時だけは体が心と伴っていた。
「……クローヴェル」
「…………その声は……」
酷く久しく感じる。
そうだ。そうだった。消えたのでは見えなかった。
向き合おうとしなかった。
これは、彼への罰だと。
だから、優しい彼女はこういった。
「今日も遊ぼう、運命が許すその時まで」
その笑みを見て、彼はまた意味もないことを憂いてしまった。

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