うちよそ村

とある学園の教師

カラとハロルドとアルトと

「くそ!!!てめぇらマジで何してんだ!!!援軍をさっさと寄越せ!」
物陰に隠れながら、弾幕の雨を避ける。
「無理だよハル、これ以上本部から引っ張ってくると………」
隣りに滑り込んできた少女が、それを否定する。
「んなこた知ってるさ、カラ!だがこれを耐えられないと…………!!!」
「本部どころじゃなくなる、ね?」 
遠くで叫び声が聞こえる。
「あ?」
耳を澄ます。
「なんだアイツ!弾が効かないぞ!!!」
「ひぃっ!化け物だ」
敵が叫んでいるようにも思える。
しかし、好機だ。
イレギュラーとはいえ、注意が逸れた。
「今だ!本部まで撤退するぞ!」
「Go!Go!」
カラが先導する。
ハロルドは後方に注意しながら退いた。



本部の近くまで来た。
様子がおかしい。
「なんだこれ………」
内臓が撒き散らされている。
それまでは何時もの事だ。
だが、異様な男が一人。
あからさまな軽装で、返り血のみを浴びて立っている男が居た。
「あんた、だれだ」
繰り出すように、カラの前に出る。
非情な威圧がハロルドを襲った。
彼女を思い出す。
強大な力を持つ獣耳の女。
「俺は、クローヴェル」
男が低く掠れた声で吐き出すように言った。
「お前は、敵か?」
その一言で、冷や汗が止まらない。
恐怖を超えた感情が、彼等を襲う。
「ひぃ………」
失禁する仲間。
「あまり、虐めないでやってくれよ。クローヴェルくん?」
何処からか声がする。
「アルト………」
ハロルドが辛うじて呟く。
「君はどうやら、ここの世界の人間ではないようだ。まだ来たばかりで状況が呑み込めていない、そうだね?」
「そうだな、頭がクラクラ、する。休ませろ」
「だけど、その前にやる事がある。手伝ってくれるかい?」
異質な会話に、ハロルドやカラは困惑する。
殺意同士がぶつかり合って、中和している。
「良い、だろう」
「よし、みんな。落ち着いて」
アルトが大きく息を吸い込む。
「貴方達の目標は私達が占有した!大人しく撤退せよ!」
「ちょっ!何やってんの」
「おいおい、自爆行為だぞ!」
兵士達が混乱する。
「なあ」
クローヴェルが抑えた声量で話し掛ける。
「どうしたんだい?」
アルトが首を傾げる。
「ここは、お前達以外の命の匂いがしない。ここに居るのは全員死んでる」
「はぁ!?」
ハロルドが驚く。
「オレ達が撤退してる間に、あの軍勢を皆殺しにしたってのか!?虫の良すぎる話だ!どうせ逃げたんだろう!?」
「彼の言う通りだろうねぇ。血の匂いしかしないからわからないけど、熱が無い」
「熱が無い?」
「あは、みんな体に泥塗ってるからわかるんだけどね」
「それでも、都合のいい解釈だろう!」
「そう考えてもデメリットは無いよ。彼を手に入れた今、私達に怖いものは無い」
「俺は、どうすれば良い」
「うーん、そうだね。改造する必要は無いか………じゃあ、私達の味方になってよ」 
「構わない」
「よーし、じゃあ交渉は成立したね。宜しく、クローヴェル」
「ああ、宜しくな獣耳の女」
「アルトで良いよ。彼女達はカラちゃんとハロルドくん。そして、その他諸々だよ」
「…………頼んだよ、クローヴェル」
「頼むぜ」
2人が拳を突き出す。
彼が目を見開く。
「………シュヴァーゼ………?いや、そんな筈は………」
「シュヴァ……なんだって?」
「いや、何でもない。見間違えたようだ」
「そうか。じゃあ、帰ろう。皆」






「なあクローヴェルぅ、お前ここに来る前は何処に居たんだ?」
「ねえねえ、私とこんなむさくるしいところ抜け出していい事しよ?」
悪酔いした者達が、クローヴェルにつるむ。
「悪いが、そのつもりは無い。そして、過去を晒し上げるつもりもない」
「ちぇっ、釣れないなー」
「それで良いんだよ、俺は」
「なぁ、クローヴェル」
ハロルドが肩を組んで絡む。
「なんだ、ハル」
「アンタがそう呼ぶと違和感しか無いな………」
「お前は好きな奴とかいるのか?」
「ああ、妹と、幼馴染だな」
「その………シュヴァ、なんちゃらは妹か?お友達か?」
「…………妹だよ。死んだけどな」
「そっか…………悪ぃ」
そう言って組んでいた肩を解く。
「良いんだよ、慣れてる」
クローヴェルは微笑んで許した。
「なぁ、あんたは」
「ん?」
その顔を見て、ハロルドは一瞬言葉に詰まる。
「ああ、その。何でこの世界に来たのか、聞いても良いか」
「…………探してるんだよ、家族達を甦らせる為の材料を」
「へー」
ハロルドはその手に持っていた冷えたビアを一口飲んだ。
酔った勢いで聞いたが、若干気不味くなる。
「無謀だとはわかってるんだけどな。それでも、探しちゃうんだよな」
再び彼は笑った。
「それくらいには好きなんだろうなぁ、あいつらの事」
彼も酔っているようだ。出会った時よりも柔和な表情をしている。
「あんたは、優しいんだな」
「優しいんじゃない。甘やかしたいだけさ」
そう言って、クローヴェルは立ち上がる。
「俺は少し休む」
「そうか。おやすみ」
「ああ、おやすみ」






「なあ、クローヴェルくん」
「…………アルトか」
寝台に横たわっていると、女が入ってきた。
「そうだよ。ハロルドくんから寝たという話を聞いてね」
「話があるんだろう?何だ」
「まあ、そう構えないでくれよ」
「寝込みを襲われないか心配でな」
「悪いけどそっちの話には疎くてね、あまり期待はしないでよ」
「してない。そもそもそっちの意味ってのはどういう事だ?」
「おや、中々に鈍感だね。君は下世話な話はしないのかい?」
「する奴は居なくもないが、あまり執拗いのは嫌いだね」
「そっか………話を戻すとね」
クローヴェルの枕元に座る。
「君は何者だい?この世界の人間では無いのは臭いでわかった。だけど、それ以外のことはさっぱりなんだ」
「俺は……人間だ。この世界にいる奴らと変わらない」
「でも、強化人間である彼らよりも強いだろう」
「人間という枠からは出てないだけで、実際は違うのかもな」
「そっか………君はどんな力を持っているのかな?」
「死なないだけだ。物作りが好きな凡人さ」
「そこまで卑下する必要もないと思うんだけどなぁ。君は強い筈だ。この世界では」
「…………俺には倒したい敵が居る。まあ、倒せていないのが現状なんだがな。そいつ等を殺す為に、何度も、何度も何度も何度も何度も死んだのに、手も届かない。俺に価値があるか、わからなくなるのも無理は無いだろう」
「そうだねぇ。君にはこの世界がどう映って見える?」
「残酷だ。強化人間という存在も、殆どのそれが」
「うぐ………ふぅん」
アルトの表情が揺らぐ。
「まあ、俺には関係無い。今は魂を集めなければ」
「魂?何故だい?」
「…………何でもない」
露骨に目を逸らす。
「じゃあ良いよ。話は以上だ。ゆっくりとおやすみ」
「ああ」
クローヴェルは首を傾げて、瞼を下ろした。

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