うちよそ村

とある学園の教師

アレイシアと4 (3)

意識が覚醒する。
目を開けると、クローヴェルの寝顔があった。
「睡眠は必要ないと言ってたのにな…………」
ごっこ遊びでもしているのだろうか。
「しかし」
近い。
触れ合いそうな距離だ。
身長差はあるが、横になってるので関係無い。
死んでいるようにも思えた。
息をしていなかったから。
本当に人間なのか、疑う。
「助けて………やるからな………」
寝言だろうか。
そう言った。
「夢を、見ているのか」
家族のことを、救いたいという願いが彼にある。
「助けられれば、いいな」
「………あぁ………」
「ん?」
「あぁぁぁ……………!」
「どうした?」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然、苦しそうな顔で叫ぶ彼に私は驚いた。
「貴公………どうした!クローヴェル!」
私は馬乗りになって彼の肩を揺する。
「やめてくれ………!殺さないでくれ………あぁ………嫌だ………もう失いたくない……!!!ぐっ、ぁぁぁぁ………」
「起きない………くっ」
もう1発ビンタをかました。
バチィィィィンと、快活な音を立てた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
彼はガバッと起きて、目を覚ました。
額同士がぶつかる。
「いっっっったぁ!!!」
私は悶絶した。割れそうだった。
彼はなんともなさそうだった。
だが、表情は虚ろで呆けていた。
「どうしたんだ」
痛みに悶えながらも心配した。
「あぁ、いや。少し悪夢を見ていたようだ」
疲れきった顔で、首を横に振る。
「家族を守れなかったことを、相当悔やんでいるようだな」
「当たり前だ。気にしてないって言っても納得がいかないんだよ」
「お前の苦痛は、私にはわからないが………それは凄まじいものなのだろうな」
「気にしなくていい。力の代償だからな」
「それでも、急に叫んだのはびっくりしたな」
私は苦笑してみせる。
彼のトラウマは、かなりのものだった。
「悪かったよ。死ぬ夢は俺にとって幸福なんだ」
「歪み過ぎだろう。幸福の価値が低いな」
「そうだねぇ………俺からしてみりゃ、死は救済だからな」
「神と似てる。皮肉なものだ」
「あー………確かに。嫌だな、それ」
「すまない。気づかせてしまって」
「どうでも良いんだけどな。似てるからって親近感が湧く訳でもないし、手加減しようとも思わない。同族嫌悪で、余計に憎く思うくらいだ」
「私に出来ることはあるだろうか?」
「…………無いな」
「無いのか」
「少なくとも、これは俺が乗り越えるべき壁だ。出来るだけ俺一人でやりたい」
「そうか………」
自分の無力さに打ち伏し枯れる。
「俺はお前に力を貸す。お前は俺に助けられる。それでも良いじゃない」
「うむぅ……」
納得いかない。
私は悪魔だ。全てを殺した。
なのに、こんな風に絆されても良いのだろうか。
「お前は悪魔としての生き方に縛られなくても良い。俺と人間ごっこをしよう」
「………は?」
私は悪魔だ。それ以上でもそれ以下でもない。
「人間ごっこは楽しいぞ。お前もやろう」
「嫌だ」
「拒否権はない」
「なんだと?」
「何も、戦いから逃げろと言っている訳でもない。人間のように泥臭く居ようってことだ」
「……………」
「何を殺した、何を苦しめた、なんてのも全部無し」
うわぁ、何言ってるんだこいつ。
頭悪い奴か。
「気楽に生きるしかねぇんだよ。この世界では」
明るいトーンから、ドスの効いた低い声になる。
悪寒がした。
彼の吐き出す感情に、戦慄した。
「……………そうか」
「神の匂いがするが、そんなのも気にしなくていい。■■■の野郎も捨てたもんじゃねぇしな」
靄がかかって聞き取れなかった。
「私は、自由なのか?」
「ああ、そうだ」
「私は、救われていいのか?」
「俺に出会ったからな」
「そうか………そうか………」
噛み締める。
苦しかったなぁ。
昨日のことを思い出す。
だが、忘れよう。
新しい1歩の為に
「私は、自由を求めて戦う」
「俺は、終わらせる為に戦う」
私と彼は、お互いの拳をぶつけた。

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