L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

気がかり


 魔の森のラピス邸にて。
「王都はどうだった?」
 夕食が終わり、暫くしてラピスがアリシャに尋ねた。
 無事王都で食材を調達できたことで、その日の夕食は少し豪華だった。
 しかしそれももう、全て食べ終えて、今は皿をアリシャが洗っている。
 キッチンに佇む金髪のエプロン姿の表情は暗い。
「うーん、軍部の人と話す機会がありましたが、魔物のことは、『考える必要ない』、と言っていました」
「そう」 
 返事をするラピスの声も、決して明るくはない。
「サーちゃんは、話し合いで止めるのは難しいかもって、言ってましたよ、グランドマスター」 
 と、答えたのはメアだ。
 食卓に使っているテーブルには、メアも座っている。
 サートゥルニーとメルクリエは、今は仕舞われている。
 固有の名前があるとはいえ、元々はラピスの武具である宝石たち。
 その主ですら、サーちゃんという呼び名は初耳だ。
「サーちゃん?」
「ああ、サートゥルニーさんのことです」
 水の流れる音が止み、アリシャは洗い物を終えた。
「へぇ。七分封界アルカンシェルたちと仲がいいのね、アリシャは」
 ラピスは今も、長年ただの石ころだった魔石たちが、自我や人の形を得たことを不思議に思っている様子だ。
「なんとなくそんな気はしていましたが、もしかして、『水』以外の神霊もいらっしゃるのですか!?」
 七分封界アルカンシェルの話にくいついたのは、ティータである。
 ティータは、傍を離れません、と言っていた通り、ラピス邸までついてきていた。
 最初は、ラピス邸の技術力に、感激して飛び回っていたが、今は落ち着いている。
 ちなみに、クヴェインは薔薇の館に帰還している。
 他に神霊がいるのか、と思わず、ガタッ、と立ち上がってしまったティータに、ラピスは、まぁね、と答える。
「私が戦っていた時は、六つだったけれど、本来は七つなのよ。おそらく全て、顕現できると思うわ。メルクリエとサートゥルニーを見る限りだけれど」
「神霊クラスが七人も……!」
 ティータは七分封界アルカンシェルたちに会いたそうだが、ラピスはいまその場に召喚するつもりはなく、ティータは勝手に想像を膨らませていく。
 メルクリエは、綺麗系の美人さんだったけど、サートゥルニーさんはきっと可愛い系ね。確か、戦っているときに出していた石の色から察するに、赤い色は火よね。火の神霊っていったらやっぱり熱血漢の姉御肌的な……。
 ティータはそんなことを延々とぶつぶつ言っている。
 自分の頬に両手を当てたり、羽をパタパタさせたり、身振り手振りで忙しい。
 洗い物を終えて、席に着いたアリシャが、ティータの様子を微笑ましいと思いつつ。
「ラピス様の方はどうでしたか?」
「吸血鬼に会うんでしたっけ?」
 とアリシャとメア。
「私の方は……そうね、こちらもあまり芳しい感じでは無かったかしらね」
「吸血鬼は何か言ってましたか、グランドマスター?」
「吸血鬼もだけれど……六魔将と少しだけ話してきたわ」 
「六魔将……たしかティータさんの他に魔物たちを統率しているっていう?」
 アリシャたちには、六魔将について、ティータを紹介した時に、少し説明している。
「そのとおりよ、アリシャ。亜人たちを統率しているゲドラという者は、人間に対しての恨みがとても強かったわ。アリシャの言う通り、言葉での解決は難しいかもしれないわね」
「やっぱり、ガツンとやるしかない、ってことですか、グランドマスター」 
「……仕方ないことだわ。それに、それが、魔物たちの本来のやり方よ。力を誇示し、威嚇し、『こちらには力がある。だから手を出したらただでは済まない』。そうやって、動物も国も、余計な争いは遠ざけているのだから」
「やっぱり、選ぶしかないんですね」 
 アリシャは、どちらかを助けたら、どちらかは死ぬ。そんな選択を、意識的に、無意識的に、やってきた。
 農村でも、砦でも、闘技場でも。
 納得は出来ないけれど。仕方のないことなのかもしれないと、アリシャも思い始めていた。
「そうね。本当は争わないのが、一番なのだけど。今回はそうもいかない」 
 ゲドラは東を攻めると言っている。
 王都侵攻も進めるつもりのようだ。
 そして、人間たちも退く気はない。
 国の民の命がかかっているのだから、退くわけもないだろう。
 戦争で出た死人がアンデッドになって魔物の村を襲う、という話。
 それも、人間たちは気にするつもりがないようだ。
 ラピスは憂鬱だった。
 少し前、ティータやクヴェインと話をしたとき、『力で屈服させればいい』と言われた。
 それにラピスは反論したと記憶している。
 ラピスは、自分の指にはまっている金色の指輪を見つめる。
「結局、楽な方になってしまうのかしら」 
 アリシャとメアはどういう意味だろうと首を傾げ、ティータはラピスの服の袖を抓んだ。
 ティータは、ゆっくり静かに、言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですよ。私も、その楽な方に付き合いますので」
「あなたも、伊達に長生きしてないわね」
 それに、ティータは微笑み、メアとアリシャはぽかんとして。
 無暗に疎外感を味わうメアは、少し眉をひそめた。
 ラピスとティータを指さして、
「なんなんです、あれ」
「さぁ?」 
 アリシャは、首をかしげる。
 

 そうして、ティータは何かを思い出したかのように、両の掌を合わせた。ぽん、と。
「言い忘れていました。ゲドラ様と王都侵攻勢力については、何か動きがあればファーノイエンさんが知らせてくれるように手を打っておきました。ゲドラ様には、スィドル様が同行しているはずですから、多少時間は稼いでくださると思います」
「ありがとう、助かるわ」
 ティータの計らいにラピスは礼を言う。
 王都侵攻勢力の再構築、ゲドラの東都強襲。
 どちらも、すぐという事はないだろう。
 そしてラピスには一つ気にかけていることがある。
「ティータ。あなた、何か通信に使える魔法はある?」
「『風の知らせウィスパー』の魔法でしたら」
 通信手段はあるらしい。
 それならば安心だと、ラピスは席を立つ。
「私は少し、ノースルーリエに行ってくるわ。何かあったら知らせて頂戴」 
「え……私も行きますよ!」
「ダメよ。これは、私だけの用事なの」 
 だけ、と言われては、ティータも引き下がるほかはない。
 そもそも、ティータの姿は人間の都では目立ってしまう。
「ティータさんは、マスターと一緒に、お留守番ですね」 
「一緒にクッキーでも作りますか?」
「クッキー?」 
 
 ラピスは部屋を退室し、閉めた扉の向こうから、アリシャ、メア、ティータの話声が聞こえてくる。
 ティータが、クッキーというものについて、アリシャを質問攻めにしている声。
 それをなだめるメアの声。
 
 しかしラピスの意識は別の所にあった。



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