L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

少年たちの提案

 アリシャたちは、冒険者寮で一拍させてもらうことになった。
 そのお礼に、夕食を作ると、アリシャは提案した。
 
 ただ、調理当番の少女2名も手伝ってくれるという事で、付け合わせやコンソメスープはお願いして、
 メインディッシュを、アリシャが担当する。
 メインと言えば肉料理だ。
 毎日契約している商店から配達してもらっているという食材の中から、ひき肉をチョイスした。
 だが、普通に焼くわけではない。
 アリシャは外の訓練場に簡単な調理台を2つ組んだ。
 一つは、強火。もう一つは弱火の炭火。
 
 火が準備できたら調理を開始する。
 まず、フライパンでタマネギを油は引かずに飴色に炒める。
 タマネギを冷ましてから、塩コショウを加えてひき肉と混ぜて良くこねる。
 卵を混ぜるときもあるが、今回は混ぜない。
 別で起こしておいた強火の直火で、表面を一気に焼き固める。
 次に炭火で熱しておいた網に乗せ、遠火 (弱火)に調整して、上部に蓋をして、じっくりと焼く。
 蓋をしておくと、滴るお肉の汁と炭火の煙で、良い感じに香りが付き燻製される。
 
 横で鉄器に入れて、チーズも溶かしておく。

 コンソメ、細かく刻んだタマネギ、卸した大根、お酒、少量のハーブ、少量のはちみつ、バター、スパイスなどなどを合わせて水を適量混ぜ、弱火で煮詰めてとろっとなる濃さのソースを作る。

 あとは、とろけたチーズ、ひき肉のステーキ、作ってもらった付け合わせをそえて、ソースをかけ、メインディッシュは完成。
 
 
 コンソメスープ。
 ひき肉のステーキ。
 野菜サラダ。
 パン。
 と言った感じのメニューとなった夕食。
 アリシャの料理は大変少年たちに受けが良かった。 
 サートゥルニーもメアも黙々と食事をしている。
 どういう構造かはともかく、メアも食事は可能なようだ。

 食卓の話題は、アリシャの料理がおいしいことと、サートゥルニーとメアの訓練の様子が多く語られているようだった。
 アリシャは料理研究に熱心な少年少女から、レシピやコツなどを聞かれ。
 メアは、男なの女なの? ウサギなのウマなの? という堂々巡りの話にうんざりし。
 サートゥルニーは、同じ魔法使い系の冒険者に、質問を受けていたり、小柄なのに強い理由や、冒険譚的な話を聞かれたりして困っていた。
 アリシャは少女たちに。
 メアはじゃれ合いたい子供たちに。
 サートゥルニーは本気で冒険者をしたり目指したりする者たちに、人気だった。

 そんななか、それとなく、アリシャたちはこの国の事情や、近年の戦争についての話題を出し始めると、サートゥルニーと話していた青年が、ふと話題を振る。
「お姉ちゃんたちそんなに強いんだし、王都の闘技場に行ってみたら?」
「闘技場?」
「うん、勝ったら、国の軍部の偉い人から直接ご褒美がもらえるらしいよ」
 軍部と聞いて、その話題に、アリシャとメアも傾聴する。
「軍部の偉い人って?」
「誰だったかな……とりあえず、国の兵隊とかを指揮してる人だったはず」
 もしかしたら、直接話ができるチャンスかもしれない。
 たとえ、王様でなかったとしても、国の偉い人と話ができるならば、悪い話ではない。
 しかし、横から、別の少年が割り込んだ。
「でもそれ、スポンサー探さないとダメじゃん!」  
「スポンサー?」
「そうそう。王都の闘技場って、入場する時に、スポンサーになってるお店がアナウンスされるんだ。それで、お店の品とかを闘技中にアピール出来たら、店の宣伝になるし、参加者はお店から支援を受けられる、っていう感じなんだ。賞品とかも、商業組合から出されてる品とかもあるんだよ?」
 つまり、ただ戦って勝ち負けを競う場、というだけではなく、商店が絡むことで、よりうま味の増した闘技になっているということだ。
「スポンサーかぁ」 
 と、アリシャがつぶやく。
「ま、普通は武具店とかじゃない?」
「けど、武具店ってもうどこも常連の参加者とかに絡んでるんじゃないの?」
 ここで、問題になるのは、冒険者ならクラスやグレードで強さを証明しやすいため、商店からの信用も受けやすく、話もスムーズだが、アリシャたちにはそれが無いという事だ。
 冒険者の証明には、試験を受けることや、実務経験が必要だ。
 そういう話題も出たが、結局、時間がかかるしすぐには大した証明を得られそうにない、ということで帰結する。
「どこかてっとりばやいスポンサーってないのかな」 
 と、メアがボヤくと、少年の一人が答える。
「スポンサーは別にどこでもいいからさ。手っ取り早いなら、経営に困ってるお店とかだとすぐじゃないかな?」
 ただ、参加者に対しての支援という点で言えば、無関係な感じになりがちだという。
 やはり参加者に人気なのは、ポーション関係の薬屋、武具店、鍛冶屋。珍しい職種だと、質屋とかだそうだ。
 悩んでいると、アリシャに料理のことを熱心に聞いていた少女が何かを思いついたように発言する。
「そうだ。いつも配達してくれてる魚屋さん、今月でお店辞めるって言ってたけど……」
 それの言葉に、特に調理に関心のある面々が、えーっ、と声を上げる。
「どうすんだよ……もう魚食えないのか?」
「魚屋さんじゃダメなのかな?」
 とはもちろんスポンサーの話だ。
「ダメっていうか。魚で魔物ぶん殴るわけにもいかないじゃんか!」
 一瞬、その場に、やっぱりだめだよね、という雰囲気が漂う。
 だが、アリシャは即決した。
「良いんじゃないかな」
「いいの?」
「お魚来ないと、困るもんね」
 アリシャの理由はそれだけだった。
 焼き魚は簡単で美味しい料理人の味方。そんな重要なポジションを失うわけにはいかないだろう、という話。
「そうなの! いつも、余りものだって言って、朝一番にもってきてくれるんだよ。すごい新鮮なやつ!」 
 少女の一人が立ち、訴える。
 朝に、余った新鮮な魚などお店にある筈がない。
 絶対に、朝一で選りすぐりを届けてくれているのだ。
 そんな良いお店はつぶせない。

「じゃあ、朝、その人と話してみよっか」
 アリシャの言葉に、メアもサートゥルニーも、反論など無い。
 二人とも素直に頷くのみだ。



 一夜明けて早朝。
 魚を配達に来た魚屋の店員に話をする。
「えっ? 闘技場のスポンサーに?」
 魚屋なのにいいのか、という問答はあったものの、今にも潰れそうな状況らしく、渡りに船だということで、快諾された。
 アリシャたちは冒険者ではないが、強さについては少年少女たちが、魚屋に訓練の様子などを説明して、信用を得てもらえた。

 さて。
「受けたはいいけど、アピールってどうしたらいいんだろう」 
 武具ならば、それを使用して戦えば勝手にアピールになる。
 ポーションなら、戦闘中に使えばいい。
 だが、魚を武器にするわけにもいかず、イカをかぶるわけにもいかない。
「かといって、食べるわけにも……」
 あてがわれた寮内の個室のうち、一室に集まり、アリシャたちは考えていた。
 メアも、サートゥルニーも、真剣に悩んでいる。
 悩み、沈黙した空間で、先に発言したのはサートゥルニーだ。
「アリシャ様は料理がお得意です。食べるというのは、やはり良い案なのではありませんか?」 
「えっ? どうやって!?」
「料理には疎いので、そこは、私にもよくわかりませんが、食材である以上それ以外のアピールは無いと思いますが」 
「でも魚だよ? その場でバリバリ食べても……」
 戦いながら生魚を齧る。想像するだけでシュールだ。あと、生臭い。
「相手の人怒りそう」 
 相手がまっとうな人かどうかも分からないが、真剣勝負でそんなことをしていたら、ろくな感情は得られないだろう。
 しかし、『食』材である以上、食べることに関するアピールが一番だという意見は、間違いではない。
 暫く他の案を考えても、なんの意見も出ない様子だった。
 結局、食べてアピールという流れになる。
 そしてサートゥルニーはさらに提案する。
「私は食材の扱いは不得手です。なので戦いは、私一人でやります」
「サーちゃんが?」
「はい」
「サーちゃんが戦ってる間に、ボクとマスターでアピールするわけだね」
 メアの言葉に、サートゥルニーは、そうです、と頷く。
「うーん、そう? じゃあ、うーん。闘技場で料理するってこと……?」
 旅先でも料理をするために、アリシャは折り畳み式のミニ調理台も、携帯焚火グリルも持っている。
 それを闘技場内でやるということが、完全に、前代未聞だが。
「大丈夫ですよマスター、勝つのが最優先の目的ですから、そんなに気を張らなくても」 
「まぁ、そうね。もうこうなったら、なるようになれ、よね」
 

 そんなわけで。
 とりあえず、闘技場に参加登録をしなければならない。
 朝食を取り終えた後、アリシャたちは王都の闘技場へ足を運んだ。


 全体が石材で出来た闘技場は、内部の床全面が絨毯になっており、高級感が漂っている。
 それなのに、観戦に来ている者たちは、老若男女、身分の区別もそれほどない様子だ。
 さすがに、スラムの者は少ないが。
 受付は、大きなエントランスの中央にある。
 闘技参加者用と、観戦用のうち、参加者用のカウンターへ向かう。
 受付の女性に、参加したいと言うと、手続きは開始される。
「えっと、では参加登録ですね。パーティ名と協賛店を、こちらにご記入ください」 
 闘技場の受付けで書類を渡される。
 5分ほど悩んでから、出来た書類を手渡した。
「では、パーティ名は、『アリシャ姫とその従者』? 協賛は、『ディーウォ水産』……!?」
 水産……って魚屋? と受付のお嬢さんは思わず声に出し、自分で復唱した内容をもう一度読み、アリシャを見て、書類を見て、アリシャを見た。
 すごく動揺している。
 やはり、魚屋はあまりない協賛なのだ。
 しかし受付嬢はすぐに気を取り直した。
「では、参加内容を選択していただけますか?」 
 A.対人間 (1VS1)
 B.対人間 (パーティVSパーティ)
 C.対人間 (5対5 先方~大将まで、1VS1勝ち抜き戦)
 D.対魔物 (魔物1匹or複数VS参加者1人~3人)
 E.対魔物 (5VS5 先方~大将まで、1対1勝ち抜き戦)
 現在開催しているのはその5種類だ。
 人間を相手にするのは気が引けると、アリシャは対魔物のうち、Dを選んだ。
「挑戦する階級はどうなさいますか?」
 階級は、出てくる相手の強さに関わる。
 弱小の魔物などと戦って勝っても、軍部の人が直接褒賞というのは考えにくい。
 軍部の人と確実に会えるのは、最難関の物だ。
「サーちゃん、一番強いヤツ行ける?」  
「問題ありません」 
 アリシャは、サートゥルニーの実力を信じて、一番難しい階級を選択した。
「では、初戦は、明日。一日に1度づつ開催されます。安全には万全を期しますが、万が一死亡の恐れもありますので、覚悟はしていただくようにお願いいたします。そのほかの詳細はこちらに」 
 説明書のようなものを渡される。
 それによると、Dの魔物戦では、1日に1戦ずつ、3度まで、用意された魔物と戦闘する。
 魔物は単体と限らないらしい。
 ギブアップを宣言するか、全員戦えないと判断されれば敗北。
 魔物をすべて死亡させれば勝利、ということのようだ。

 その夜。
 冒険者寮の一室、アリシャの個室にて。
「本当に、これでいいのかな」 
 闘技場で使う調理器具やセットを準備しながら、アリシャはつぶやく。
 闘技場で料理――。
「あーもう、何やってんだろうって感じ!」
 しかもそれを観戦されるのだから、想像するだけで、何やってんだ感はすごい。
 勿論魚屋さんがスポンサーなのは良いのだ。
 ただ、アピールの仕方が、アリシャは不安でいっぱいだった。
「でも、やるって決めたんだし、いいよね」 
 アピール用の食材は、現地に魚屋さんが届けてくれることになっている。
 準備は万端。
 もうなるようになれだ。
 アリシャはすべてを諦めたような気分で、床に就いた。


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