L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

模擬戦


「よし、いくぞ!」
 青年冒険者が両手剣を構える。
 そして、サートゥルニーに接敵を開始する。
 それに対し、サートゥルニーは、魔法を使用する。
「『自律オート・紅玉盾ルビン・ガード』」 
 石で作られた円盤状のフレームの中央に、真っ赤な宝石が添えられた盾が、2枚、サートゥルニーの周囲に浮かび上がり、公転を開始する。
 シールドの直径は30cm程だろうか。
 それを見て、メアは、「ああ」と何かを悟ったように目を伏せた。
「え、何? 魔法? 攻撃?」 
 メアの隣で見ているアリシャは、瞬時には魔法の効果を理解できない様子だが、メアには魔法解析機能が装備されているので、一目見ればわかる。
「一応手加減なんだね、たぶん、あれが」
 魔法にも怖じず、走りこみと同時に、青年冒険者は木剣を振るう。
 だが、
 乾いた音が鳴り、勝手にサートゥルニーとの間に割って入った宝石の盾に防がれてしまう。
 そうして、木剣の先端が弾かれた。
「うへぇ!?」
 驚き絶望しかかった青年に、サートゥルニーは瞬間的に踏み込み、左腕を振るった。
 それは、ボディーブローのように、右わき腹を狙う、木製の盾によるシールドバッシュだ。
「はやっ!?」
 その踏み込みの鋭さに、さらに驚きつつ、青年は両手剣を盾にして、シールドバッシュを防ぎながら、バックステップで後退する。
 青年の動きは、素人ではない。
 慌てた表情とは裏腹に、冷静に対応し活路を開こうとする、そんな動きだ。
 しかし、それで、木剣はミシッっと音を立てて折れ曲がってしまった。
 そしてすでに、サートゥルニーの追撃の木斧が振るわれている。
「やっべぇ!」
 サートゥルニーは、身長120センチ台とは思えぬ膂力だ。
 一撃防いだ冒険者の青年は、そのことを今しがた実感した。
 ギャラリーの少年たちも、一緒にやべぇと叫ぶくらいのやばい一瞬。 
「うわ、ちょっと!」
 アリシャも、許可を出したことを少し後悔しだした一瞬だ。 

 木製の斧が、無防備な少年に直撃する。
 そんな瞬間に、飛び込む人影があった。
 メアだ。
 がん、と金属に木が弾かれる音が鳴り、跳び膝蹴りのような恰好で飛び出したメアの具足が、その斧を防ぎ、弾いた。
「交代! 選手交たぁい!」 
 練習場の砂地に、いかつい金属の具足が着地し、鋭く尖ったピンヒールが、地面に突き刺さる。
 手には、木製の槍を持っていた。
「ウサギのおねえさん!?」 
 冒険者の青年は、驚き、その背中から声をかける。
「ボクはウサギではありません、馬です! あとお姉さんじゃありません、お兄さんです!」
 ええっ? 
 乱入者に、一度沸いたギャラリーが、ひと時静まり返る。
 髪は真っ白なロングヘアーだし、防具の下のワンピースはスカート状だ。
 見た目は、お姉さんというか、女の子にしか見えないメアだ。むしろ性別などあってないようなオートマタだ。装備や衣服に隠されているが、その関節は動物の物ではない。あと、うさ耳と馬耳の区別など、少年少女にはわかるはずもない。
 ともかく、見た目が精巧なオートマタは、少年たちには獣人もしくは、うさ耳を付けた人間の少女にしか見えなかった。
 嘘かな?
 ギャグかな? 
 少年少女たちがひそひそし始めたあたりで、
「続けますか?」
 サートゥルニーはそう、メアに問いかける。

「そうですね。ついでです。ボクの実力査定に付き合ってください」

 サートゥルニーは、やってよいのかと、アリシャに視線を送る。
 気づいたアリシャは、メアとだったら大丈夫だろう、と頷いた。

紅玉盾ルビン・ガード』の効果はまだ持続している。
 2枚の盾は、変わらずサートゥルニーを中心に公転している。
 メアは槍を構える。
 が、ラピスから武術の経験を受け継いでいるサートゥルニーと違って、メアはぶっちゃけ素人だ。
 槍を選んだのも、馬と言えば槍。という短絡的なものだ。槍を扱う技術はない。
 魔法と合わせて3枚も盾を持つ姿に、攻撃を加えられる自信は、メアには全く無かった。
  

「火に焼かれ、残心、金魄ごんぱくを宿す――」
 
 メアが攻めあぐねていると、おもむろにサートゥルニーは詠唱を開始した。
 いくら魔法感知や、解析に優れていようと、解るのは、土属性の魔法ということだけ。何が来るかは、出てみなければ分からない。
「もう、あんまり無茶なのはやめてよ!?」
 メアは、一度屈んだかと思えば、優れた脚力を存分に発揮して、上空へと跳んだ。
 そのまま膝を突き出すようにして、大き目の具足を盾に、サートゥルニーに高空真上から接近する。
「放て石弾、夥多かたなる散華さんげとなりて――『石のストーン散弾・ベネリ』!」
 高角度で放たれる、果実ほどの岩石ひとつ。それが、少し進んだ先で破裂し、前方一帯に石の破片をばら撒く。散弾という名の通り、それは制圧に優れた土属性の初級術式。
 メアが跳んだおかげで、そのすべては少年たちに被害を及ぼさない。
 そして、大半の散弾を具足の装甲で受けながら、子弾に頬や防具を傷つけられながら、メアのニープレスが、サートゥルニーを襲う。
 けれど、メアは途中から浮遊感に襲われ、さらに割って入る『紅玉盾ルビン・ガード』に攻撃は防がれてしまう。
 サマーソルトキックを兼ねたバク宙からの着地。
 槍を構えての突撃、斬り払い、石突、振り下ろし。
 メアが適当に槍を振るっても、籠めた力のうち、重さを使った部分が全て狂わされてしまう。
 位置エネルギーを使った打ち下ろし、武器の重さと遠心力による薙ぎ払い。
 接近戦闘については、踏ん張りすらも、軽くなる。
 そんな威力の大部分を削られた攻撃では、『紅玉盾ルビン・ガード』も木製の盾も、身に着けている甲冑すらも、貫けない。
「『重力グラビテーション障壁・ジャマー』かぁ!」
 メアの魔法解析では、重力操作による防御魔法の一つという情報だった。 
 そのうえ、サートゥルニーから受ける撃ちおろしの攻撃は、規格外なほどに重たい。
 なんなら、メアの身体に、押しつぶそうとする力が働いているかのようだ。
 それも、重力操作によるものだった。重さはパワーなのだ。
「ぐぬぬぬ!」 
 メアが腕に魔力を籠めて、籠めて、籠めて、斧を槍の柄で受け止めるが、最終的に、木製の斧と槍が同時に砕け散った。
「うあっ!?」
 まるで屈服させられたかのように、地面に膝をつくメア。
 対するサートゥルニーは、堂々とそれを見下ろし、
「これまでのようですね」
 それで、すべての防御魔法を解除した。

 そのとたん、メアにかかっていたプレッシャーが無くなる。
「サーちゃん、つよっ」
 メアから出た感想はそれだけだ。
 特に、接近戦闘では勝てる気がしなかった。
 実力査定という面では、メアにとって散々な結果だ。 

 決着がついたことで、歓声が上がり、少年たちの感想が雨あられと降ってくる。

 けれど、歓声に応える前に、メアはサートゥルニーに言いたいことがあった。
 気合を入れて立ち上がり、サートゥルニーに詰め寄る。
「っていうか、サーちゃん! あんな範囲のある魔法使ったら、マスターと少年たちに当たるじゃん!」
 しかし、サートゥルニーは表情一つ変えない。
「大丈夫です。メアが上に跳ばなければ、別の術式にしていましたよ。それに本来は、宝石の弾丸を使う術式ですし」
「咄嗟に術式を変えたってことですか?」
「そうです」
 そうか、ちゃんと考えていたんだな、手加減してたんだな、とメアは納得しかけたが
「ウサギには、やっぱり散弾かなと思いまして」
 くわっ!
「ウサギじゃないし!」
 サートゥルニーの気に食わぬ一言に、目を見開き、メアは思わず叫ぶ。
 あ、やっぱりウサギなんだ?
 と少年たちも誤解し、しばらく、ウサギじゃないです、とメアは連呼し続ける羽目になった。



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