L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

『王都 セント・ファンドラッド』

 

 ラピスとメルクリエが、薔薇の館を目指している頃。
 砦まで送ってもらったアリシャたちは、街道を進んでいた。

 草原をひたすら進む道の奥に、巨大な都市が見えてくる。 

「もうすぐ王都ですよ。マスター!」
 アリシャに、溌溂とした声をかけるのは、白馬からオートマタに転生した、メアだ。
 倉庫の時とは打って変わって、全身にそれなりの装備を身に着けている。
 メアは、ラピスの倉庫から、軽装の防具を選んだ。
 そしてメアが一歩、歩くたびに、王都前の石材で舗装された道路に、カツ、という音が響く。
 その正体は具足だ。
 防具は適当な選定だが、具足だけはメアはこだわって選んだ。
 膝から足先までを覆う、金属の具足は、身体の軽装部分とはアンバランスだと言えるほど、いかつく、ポレインと呼ばれる膝当ての部分が特に大きく目立つ。そしてピンヒールのような踵を備え、ひと際頑丈な金属で作られた爪先が、石畳を叩くたびに、一歩一歩音が鳴るのだ。
 まるで馬の蹄鉄のように。
 さらにメアは、武器としては槍を選んだ。
 短く鞘に収まった槍は、使用時には柄が伸縮して延長される仕組みになっている。
 また、鞘ごとそのまま使えばランスとして、鞘から抜いて使えばコルセスカとして使用できるよう工夫されている。
 その槍は今、柄を縮めた状態でメアの腰に提げられている。

 そしてアリシャは、見つかると怒られるだろうと思い、王冠は頭に付けず、かばんの中に仕舞っている。
 チョコレート色のアーマードレスを纏うサートゥルニーと合わせて、道を歩く3人組は、前衛過多な冒険者パーティにも見えるだろう。

 王都が見えてきて、はしゃいで前を歩くメアの背を、アリシャは微笑を浮かべて見ていた。
「ご機嫌だね、メア」
 そう声をかけると、はい、とメアの元気な返事が返ってくる。
 普通、商人の馬車、騎士、王族の物など特殊な理由のない馬は王都に入れないため、王都の外にある、馬小屋に預ける事になっている。
 メアは、
「ボクは、前のご主事様のお使い専用だったから、王都に入ったことないんですよね」
 と、完全に浮かれている。
 むしろ、人型になったのが新鮮なのか、歩き方も早く歩いたり遅く歩いたり、走ってみたりと忙しい。
 対して、サートゥルニーはほとんど話さず、物静かだ。
「サーちゃんは、外歩くの初めてだよね、どう?」
 アリシャが気にして話しかけても――
「どう……と言われましても。普通です」
 打ってもあんまり響かない。表情も動かない。
 しかし遅れて。
「ああ、いえ。でも、直に地面に触れられるというのは、良いものですね」
 サートゥルニーは、気を使ったのだ。もうちょっと答えるべきかなと思い直したのだ。
 出てきた感想は、土の魔石らしいものだった。
 やはり同じ魔石でも、メルクリエとは違う個性がある。
 アリシャはそれを実感していた。 
 ちなみに。サーティさん。サーティーちゃん。サートゥルニーさん。色々呼び方を試したところ、アリシャが呼びやすいという事で、サーちゃんで決定した。
「ところで、サーちゃんは、土の魔法が得意なんだよね?」
 アリシャが興味本位で尋ねると、はい、と返事が返ってきて、急にたくさん話し出す。
「我々には、それぞれ、2種以上のエレメントの使役顕現が与えられています。勿論、主であるラピス様が最上位の権限をお持ちですが。その中で、私は、土と重を受け持っております」 
「顕現?」
「はい。例えば、同じ土の魔法を使用する者が居たとして、その効果を使用できるかどうかを、より強い権限を持つものが決められるのです。ゆえに、私に対しては、土と重の魔法は効果が及びません。私に同じエレメントで勝てるのは、主様だけです」
 そのようなことは起こりえませんが。
 とサートゥルニーは言う。
 なぜなら、ラピスが土の魔法を使うときには、サートゥルニーは魔石になっているからだ。

 話はよくわからなかったが、アリシャは笑みを深める。
「サーちゃんは、説明する時にはたくさんお話しするね」
「あっ」
 こほん、と咳払いをして、それ以後サートゥルニーは黙ってしまった。
 黙らなくてもいいのに、と言うアリシャに、先行していたメアが立ち止まって
「ボクともお話ししてくださいよ、マスタぁ」 
 わかったよ。何話せばいい?

 そんなやり取りをしつつ、3人はやがて、王都の門をくぐった。
 王都は、平野に位置しているため、ひときわ高い防壁で街はおおわれている。
 あらゆる建造物が、できうる限り石材など、火に強い素材を使い、王都の上空にはドーム状の結界が張られている。
 上空からの攻撃や侵入に対しても警戒しているのだ。
 建造物の頑丈さは、中心の王城に近づけばさらに上がり、王城に至っては、建築材に魔法防御を上げる効果が付与されていて、仮想敵国からの魔法攻撃にも対策をされている。
 それは近衛騎士にも言える。
 近衛騎士の装備は、魔法防御を考えた中々に高価な代物を贈呈されている。
 だから、長い耳で感知できるメアと、サートゥルニーは同じ感想を持った。
 街中から感じる、抗魔の香りに。
「厳重ですね」
「魔法にトラウマでもあるんでしょうか」 
 もちろんアリシャは気づかない。
 その代わり、ごった返す人々を見て、昔旅してたどり着いた時のことを思い出していた。
「昔は多すぎる人の流れが怖くて、なかなか入り口から動けなかったなぁ」
 なんて。

 しかし、今は、怖くなんてない。
 街に入って少し歩けば、冒険者の姿も多くなる。
 アリシャたちもそんな風に思われているようだった。
 商店の並ぶ区域に差し掛かると、冒険者様、冒険者様、と呼び込みがうるさくなってくる。 
「とりあえず、定番だけど酒場をめざそっか。お腹もすいたし、情報も集められるかも。たしか王都の酒場は、昼間は料理店をしてるところが多かったはずだし」 
「良いですね! ところでボク、ごはん食べられるのかな」
 メアはオートマタなので、食事が可能なのかどうか、やってみなければ分からない状態だった。
「私も、料理には興味が。特にアリシャ様の」
 サートゥルニーは、ラピスがアリシャの料理を食べた時の記憶を受け継いでいるのだろう。
 それを聞いて、アリシャは少し歩く方角を変えた。
「それじゃ、酒場っていうか、完全なお料理屋さんになるけど、私が昔働いていたお店に行ってみようか。そこなら、厨房を貸してくれると思うから」
「えっ、マスターが料理を!?」
「行きましょう。是非」
 その提案に、メアは嬉しそうに驚き、サートゥルニーは超真剣な表情だった。


 しかし。

「……これは」

 到着して、アリシャは茫然自失となった。
 アリシャが居たときと、お店の看板が変わっていた。
『英雄を育む冒険者寮亭』
 略して英育亭。
 完全に、冒険者のための寮になっていた。
「……経営破綻、かな?」  
 アリシャはちょっと悲しかった。
 メアもサートゥルニーも残念そうだった。

 その料理店は、どう見ても潰れていた。



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