L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

VS 時間と空間の精霊――クロノス・リューズ

 


 都市の真っただ中で戦うわけには行かないと言うわけで、リューズの出したゲートを使って、
外の砂漠地帯に移動を果たした。
 そこには見物のために定例会メンバーが全員そろっている。
 砂漠の暑さをしのぐため、ティータ=マナ・プロキスが気を利かして、水精霊による冷房を完備し、それに乗ったエルネ=エクスキュートが、巨大な葉っぱで日陰を作り出した。
 それで、観覧者席は快適になったようだ。


 上空には、ラピスとリューズが浮遊にて、対峙している。
「私は、メンバーとしてふさわしい実力を見せれば、良いというわけね?」
「左様。この戦いのルールはそれだけだ」
「理解したわ」 
 そしてラピスは、七分封界アルカンシェルを召喚する。
 周囲に、色とりどりの正八面体を模る宝石たちが、展開する。
 ただし、貸し出し中の紫色の宝石――『サートゥルニー』は不在だ。
 ゆえに6色となる。


 仮にも精霊であるリューズは、それだけで、その宝石たちの密度を察知し、表情が引き締められる。嘗めてはかかれない相手だと。


 さらに、闇と光の魔石が明滅し
「『時空分断ST・ディバイド』、『指定エリア・範囲複製デュプリケイション』、『設置リプレイスメント・転送・オブ・ライフ』」
 続けざまに3つの魔法を使用した。


 ある意味、威嚇である。
 この魔法のみで、実力が基準に達したのならば、戦う必要など無いのだから。


「砂漠一帯の時空間を複製して、我らをそこに移したのか……?」
「ええ、その通り。これで、地形が破壊されても、元の惑星ほしには影響が出ない……でしょう?」
 その魔法の効果を瞬時に理解したのは、リューズとティータだけだ。
 ティータは、その説明を地上で見ているメンバーにも行った。




 やるのかやらないのか、その判断はリューズに任せる。
 そのため、ラピスは無言で対応を待ち続けた。


 やがてリューズは、背中に特異な翼を現す。
 それは時を刻む翼だ。
 固定された三方向に延びる針に対し、秒、分、時を刻み動き続ける配置された円環。
 いわば、アナログ時計の円形の外枠のほうが動いているような形状をしている。
 そこに、さらに複雑な機構が合わさり、翼のようになっているのだ。
 機械の翼、そのような見た目の。 


 その翼が、男性調の、細身で長身の体躯の背に配置されている。
 リューズの色彩は、銀色を基調として、金、銅のカラーリングを配色した、金属的な物で、腕の両脇、足のスネとふくらはぎには、補助翼のようなものも付いている。




「さて始めるとするか、森の魔女よ」 
「お眼鏡にかなうかしら」


 そうして、戦闘が開始された。


 即座に、ラピスは術式名すら籠めずに『魔弾エネルギー・ボルト』を連射する。
 意識のみでの発動は威力や精密さが損なわれるが、即射性には優れる。
 それでも、砲撃並みの威力を誇る弾丸が、リューズに殺到する。
 そこに追撃として、名を込めた術式を同時に二種追加する。
「『魔投エニグマティック・スライサー』 『魔光ファンタズム・レーザー』」 
 弾丸を追いかけるように、四方八方から立体的に攻める、戦輪のような魔力の刃、八枚。
 前方から、一直線に放たれる魔力の光線。


 だが、リューズに接近したとたん、そのすべては動きが鈍くなる。
 瞬間的に加速したように見えるリューズは、易々とその包囲網から抜け出し、誘導性能を持つ『魔投エニグマティック・スライサー』がリューズを追いかけるが、命中したのは1枚のみ。
 その1枚すら、歪んだ空間に阻害されて、かすり傷一つ負わせることは出来なかった。
 さらに、リューズは空間の一部を反転させて、ラピスの魔弾の幾つかを、跳ね返す。


 跳ね返された魔弾の命中精度は悪く、ラピスが避けるまでもなかったが、問題は反射ではない。




自動オート・防衛機能ディフェンスシステム……!」 
 初撃の様子を観察した段階でラピスは気づいていた。
 リューズには、多種の自動防御スキルがかかっていることを。
 感じた物は少なくとも3つ。


 自動時間遅延オート・スロウ――一定距離内の時間経過を半分に遅延させる機能。
 自動時間加速オート・ヘイスト――自身にかかる時間経過を2倍に加速させる機能。
 自動オート・空間歪曲デフュージョン・ウォール――周囲の空間を捻じ曲げ、自身に接近する脅威を逸らす機能。


 この3種だ。


「ご名答。なまなかな攻撃では、我に傷一つ付けられん――まずは、そこをどうするか、見せてもらおう!」


 そしてリューズの防御はあくまで自動だ。本体は、攻撃を悠に行える。
 リューズは、指定空間をひしゃげさせ、内部を押しつぶすような魔法を連打する。
 ラピス持つ同様の術式名で言うならば、『歪曲の空ディストーション


「『加速する世界クイックタイム』!」




 対するラピスは、自己の時間速度を上昇させ、相対的にリューズの速度ヘイストに追いついた。
 加えて、光と闇の魔石で空間魔法を生み出し、拉げる空間を元に戻すことで、リューズの、『歪曲の空ディストーション』を相殺する。


 光の魔石が司るのは、光、聖、命のエレメント。
 闇の魔石が司るのは、闇、邪、死のエレメント。
 光と闇が、空間を生み出し、
 命と死が、時間を生み出す。
 ラピスの魔石はそうやって時空の魔法を作り出しているのだ。


 時空の魔法を使うとき、光と闇の魔石は必ず双子のように、明滅し、舞い踊る。


 そうやって、魔石たちとラピスの阿吽呼吸によって、リューズの放つ、超高位術式の連打にも、ラピスは冷静に、巧みに対応する。


 暫くの間、魔法で撃ち合い、魔法で防御をしあう。
 そんな攻防が、縦横無尽に空を動き回る両者の間で、続いた。


「りゅーずノほうガ、ゆうい?」 
 地上で観戦するブラックアルラウネのエルネ=エクスキュートの意見だ。


「自動的に防御が可能なリューズと、能動的な防御の大樹の精霊、一見するとそうかもしれない」
 そんな意見を返すのは、手足に鱗、耳の部分にヒレのようなものを備える、陸を歩くマーメイド、古海竜リヴァイアサンのレヴィアだ。レヴィアは暑いのが苦手なのか、ティータの水精霊にピッタリ張り付いている。


「あのリューズとまともに戦えるとはな」
「だから説明したではないですか、実力は十分だと」
「やはり、吾輩が試すまでもなかったか?」
 順に、蛮族王、薔薇公、甲節王の意見である。


 そうして、ティータは、ラピスの次の瞬間に流石は精霊王様だと、嬉々とし、大天使のような見た目で、その実、白い不死鳥の化身である、大翼天メテトリンヴェルは、綺麗、と驚きの声を上げる。


 その術式とは。
「『天下プリズミック七閃フォース』!」
 瞬間、色とりどりの魔法が迸った。


 ――標的を地上に叩きつける純粋な魔力による、広大範囲の無の衝撃。
 ――落下した者を拘束する有刺鉄線のごとき植物の檻。
 ――燃え上がる火柱。
 ――降り注ぐ黄金の刀剣
 ――周囲から幾度も強襲する水の衝撃。
 ――幾数もの貫く光の矢。
 ――影より現れて噛みつく宵闇の牙。


 それらすべてを、コンビネーションとして全く同時に発動する魔法。
 付けられた名前は『天下プリズミック七閃フォース


 エレメントひとつひとつは、最弱の出力だが、無を含めた全8属性を持って、指定座標を一挙に攻め立てる、テクニカルな魔法だ。
 今は土の魔石が無いため一撃減じている。


 ラピスが持つエレメントには、下位属性と上位属性が定められている。
 下位の属性が、木火土金水、光闇。
 上位の属性が、風熱重雷冷、邪聖。 


 ゆえに、まだ追撃が派生する。
「『天上ロイヤル七閃メレィ』!」
 ――範囲を巻き込み、指定座標に吸い寄せる小竜巻。
 ――広大範囲の周囲を超高温で滅する炎熱。
 ――天空より降り注ぐ数億ボルトの雷。
 ――吹き荒れる極寒の吹雪
 ――範囲を浄化する聖なる方陣
 ――生命と精神を奪い取る、邪なる無塵。
 そして、ラピスより放たれる、魔力の大弾。


 全14エレメント、下位エレメントと上位エレメントのすべてが、一瞬で炸裂する。
 まるで花火のように。


 それは、いかに速度を遅延させようとも、加速させようとも、すべてを回避することは出来なかった。
 そもそもラピスは、まずリューズに放った魔法を回避させ、空間転移で逃げた先に、ピンポイントでそのすべてを叩き込んでいたのだ。武術における、敵に隙を創らせて、そこを突く、という手法に通じるものだった。
 ゆえに、『天下プリズミック七閃フォース』の初撃を、リューズはまともに浴びている。
 むしろリューズにできたことは、歪曲壁で耐えることだけだ。




 それでもリューズは無事だった。
「……我の障壁を強引に突破してくるとはね。精霊の王に恥じぬ、類まれな魔力の持ち主のようだ」
 地上ですべてを受けてなお、平然と立ち上がり、振りかかった砂を手で払いながら、元の中空に浮遊してくる。
 負った傷すら、次の瞬間には完治していた。






 4つ目の自動防衛機能の効果だ。
 自動オート・時間逆行リワインドヒール――自分の状態を常に同じ時間に戻すことで、常時瞬間回復させる機能。






「まいったわね……今のはなかなか、自信があったのだけど」


「いやいや。私に傷をつけるとは恐れ入ったよ。認めよう、貴様は定例会に参席するに相応しい」
「あら、じゃあ、もうお仕舞にしていいかしら」


「構わないとも……できるものなら、ね」


 ラピスはもう試験は終了でいいだろうという意味だったのだが、リューズは続けるつもりのようだった。


「久しぶりだよ。このような戦いはね」
 リューズはまだまだ余裕たっぷりだ。
「もお。約束が違うわ!」 
 ラピスは釈然としないようだったが。







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