L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

『甲節王 スィドル=オルカン』



  ズグーバ地下街から王城へは、地下水脈によって出来た堀にかかる橋を渡るようになっている。
 橋の先には、高さ2メートルはあろうかという大きな城門と城壁があり、アリ種の蟲人が兵隊として配置されている。
 そこからは、さらにアリの巣のように入り組んだ王城内を地下へと潜り、
 そうして最奥の、玉座の間にたどり着く。 




 甲節王スィドル=オルカン。
 その人は、ズグーバの王城。その王座に居る。
 すなわち、ズグーバ及び、全昆虫種を統べる王だ。


 謁見の間には、アリの兵ではなく、カマキリとムカデの蟲人が守護を担当していた。
 いわゆる近衛兵。ルルヴィトールと同じ職務の連中だ。


 最奥までもそうだったが、ルルヴィトールが事情を話し、兵士たちの警戒を解く。
 ルルヴィトールが信頼されているのか、それとも、一緒にいる者の殆どが有名人だからか、近衛兵といえども、素直に道を開け、一人が連絡係として、玉座内に走った。
 ちなみに、現在はメルクリエは魔石に戻ってもらっている。
 余計な警戒心を失くすために。


 やがて、玉座の扉が開かれる。


 敷き詰められた床材、整列して並ぶ太い柱、床に敷かれた色違いのタイルは、まるで赤い絨毯のように、玉座へと伸びている。
 ただっぴろい広間に、近衛兵が数名配置されていて、玉座の前に王が佇んでいた。


 スィドル=オルカンは、サソリの蟲人だ。
 より、人型に変位が進む種なのか、装甲板のような昆虫の部分と、筋肉に相当する部分が見受けられ、人型の腕の他に、後方に折りたたまれている大きな翼のような、バインダーのような部分は、おそらく巨大なハサミだ。
 そして、太く大きな尻尾もある。
 身長は2メートルと30センチほどもあろうか。


 その眼前に、ルルヴィトール、クヴェイン、ファーノイエン、ティータ、ラピスが通された。
 ティータは羽を展開し、輝きを纏い、完全な妖精姫モードだ。




「ふむ。吾輩に、謁見したい者が居る、と聞いたが――」 
 スィドルが、立ち並ぶ面々をひとりひとり視界に納める。
「――なるほど、知らぬ顔が居るな」 
 同じ六魔将のティータとは違い、スィドルの放つ威圧感と呼ぶべきものはすさまじいものがある。無論、ティータも本気を出せば同等のことは出来るのかもしれないが。
 しかし、その突き刺すような眼光は、ティータにも真似はできないだろう。
 濁ったような、空気を刻むような声で、ゆっくりとスィドルは喋る。
「ルルヴィトールの案内、と連絡を受けたが、そやつか」
 説明せよ、とルルヴィトールに目配せがされる。
「左様です。スィドル陛下」
 ルルヴィトールが畏まって応じる。
「この者が、定例会に参加するため、スィドル陛下に挨拶に参りたいと」
 そうしてラピスが紹介される。
「ほう。定例会に……?」
 スィドルの眼が、同じメンバーのティータとクヴェインに向けられる。
 その二人が頷き、ティータが口を開く。
「ラピス様……いえ、マナ様は、古来に失われた大樹の精霊。いわば、精霊の王です。定例会に新たに参席するには、十分な条件をお持ちです」
「ほうほう」
 しげしげと、ラピスをスィドルは眺めた。
 ラピスは畏まることもせず、いつもの調子で話す。
「私の名前は、ラピス=フィロソフィ。今は、『魔の森』。正しくは『聖樹の禁域』の管理をしているわ」
 本当の名前は、マナというそうだけど、と続ける。
「大樹の根元が、そなたの拠点か。なるほど。見目通りではない、確かな『力』を感じるな」
 それで、ティータのいう事や、ただ者ではないという事は信じた様子だ。
 そのうえで。「だが」とスィドルは述べる。
「我々は力こそがすべての、この世界に置いて、それぞれの長として君臨している。たとえそなたが、大樹の精霊であろうと、水準に満たぬ強さでは、話にならぬ」 
 そのあたりはいかに。
 と同席する面々に意見を求めた。
 クヴェインが話す。
「彼女は、私を一瞬で倒せるほどの実力です。強さという面でならば、我々を越える逸材かと」
「ほうほうほう」
 と、スィドル。
 そして、少し黙考し、
「まぁ、おそらくここで吾輩が試さずとも、定例会のひとりがそなたを試さずにはおれぬだろう。そのあたりは、ヤツに任せるか」
 スィドルの言葉に、思い当たる節があるのか、ティータとクヴェインは、ああ、あいつか。という表情を見せる。
「よかろう、定例会への参加、吾輩は認めても良い。そも、我が忠実な配下たる、ルルヴィトールの進言だ。そやつが無碍にせぬというのならば、吾輩も、少なくとも、この場ではそなたを信じよう。ましてや、妖精姫に、薔薇公、戦乙女の推薦とあればな」
 その代わり、手荒な歓迎になるやもしれん、そのあたりは覚悟をしておけ。
 とスィドルは加えてラピスに忠告する。
 そのうえで、ラピスは問う。
「参加する理由は聞かなくてもいいの?」
 と。
 スィドル=オルカンは、かまわぬ、と断ずる。
「それを今聞いたところで何になる。それは、議題として論ずべき事。定例会に参加するか否かの後の話だ。ゆえに、今ここで聞く意味など無かろう」


 話は以上、と判断し、スィドルは待機している配下の者に、部屋を準備するように合図を送る。


「定例会は明日行われる。今宵は、王城で休むとよかろう」


 コネクションが効いたのか、定例会参加への第一歩は、すんなり進んだようだ。
 そうして、ラピス達は王城で一夜を明かすことになった。








 定例会の開催地は、六魔将が納める拠点である――、
 亜号大都、地下都市ズグーバ、妖精郷、樹海神殿、天空要塞タュリヤ、海底水晶殿ム・ティス。
 この六つのうち、交通に難ありの妖精郷、天空要塞、海底水晶殿を除いた3か所をローテーションして決定される。


 そして今回は、亜人種族の納める、亜号大都が招集先だ。
 スィドル=オルカンは飛行ができないため、巨大なトンボ型の昆虫(人型ではない)に騎乗し、他の面々も空を飛んで、現地を目指す。
 ただし、ファーノイエンはルルヴィトールとともにズグーバに残った。
 魔物の中に、六魔将に襲い掛かるような阿呆は滅多に居ない。
 特に、今回に限っては、ティータとクヴェイン(蝙蝠)も一緒のため、護衛などは不要だった。


 亜号大都は、ズグーバのある森林地帯から続く、草原と湿地帯のあるエリアに位置している。
 ズグーバよりももっと、戦争が行われるネイヴァーカッシ平野に近く、森のように遮るものが少ないため、とばっちりを一番受けている都市だ。


 その街中の、六魔将会議のために建設された大会議場に、ラピスを含むスィドルたちが降り立つ。


 内部の大広間、その円卓に、定例会メンバーが順に集まってくる。


 蛮族長 ゲドラ
 妖精姫 ティータ=マナ・プロキス
 甲節王 スィドル=オルカン
 黒花狂ブラック・アルラ エルネ=エクスキュート
 大翼天 メテトリンヴェル 
 古海竜リヴァイアサン レヴィア
 時空針クロノス リューズ
 薔薇公 クヴェイン=デイル=オーグ




 以上、八名が席に着き、会議が開始されようとしていた。
 だが、当然のように、ラピスの存在がまず注目される。


 議題に入る前に、メンバーの一人が指をさす。
「ところデ、だあれ、ソノひと」 
 開口一番は、ブラックアルラウネという、アルラウネの変位種であり、色黒で、子供の女性のような見た目をしている、エルネ=エクスキュートだ。
 そして、それを受けて六魔将であるティータとスィドルが、ラピスの説明を買って出る。
 新しく参加を希望しているメンバーだと。
 マナの精霊であると。 


 その説明がなされた瞬間、スィドル=オルカンの懸念が、見事に的中した。
 御託は結構だ。
 その言葉とともに、
「ならば、直接その身に問わねばならないだろうね。この場に参席するだけの、『強さうつわ』かどうかを」 
 席を立ち、そう発言したのは、時間と空間の精霊、時空針クロノスリューズだった。




 誰が相手をする、とまではいかないまでも、ラピスもその展開は予想していた。
 むしろスィドルから覚悟しておけと言われている。


 だから動じることもなく、すました顔でラピスは答える。
「良いわ。久々に、『魔法使い』として、相手をさせていただこうかしら」







「L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く