L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

ラピスのお願い



 ラピスの目的は、『六魔将会議』のコネクションを得ること。
 つまり、六魔将であり、精霊と共存してきたティータは、うってつけの相手だった。
 なにせ、無条件にラピスの味方になりうる存在だ。
 当人のティータは、訝し気な反応をしていた。
「スィドル様にですか?」 
 さらにもう一人。
 こちらは、やや憤りの混じる反応で
「ズグーバの王に用向きだと?」
 それはもちろん、スィドルの側近を務めているルルヴィトールだった。
 ただ、今は剣が折れてしまったため、非番になっているのだが。
「そうよ。私も、『定例会』とやらに出てみようと思っているのだけど」
「定例会だと?」
「何か思惑でも?」
 ルルヴィトールは驚き、ティータはラピスをまっすぐに見つめて問う。
「思惑と言うほどではないわ。ただ、あなた達に少し力を貸してほしいのよ」


「力を?」 
 ルルヴィトールもここにきて少し興味がわいた様子で。
「そのような必要があるのかね?」 
 ラピスの実力を知るクヴェインは、肩をすくめて。
「なんのためになの?」
 ファーノイエンは純粋な疑問を口にする。
 メルクリエはただ無言で、主の話を聞いている。
「人間の王と、話す機会が欲しいの。特に王都と東都とのね」
「それはつまり、ゲドラ様の進める王都侵攻を止めるためにですか?」
 ティータは頭の回転が速いのか、すぐさま結論を導き出した。
 ラピスは、そうよ。と答える。
「どういうことだ?」
 とルルヴィトール。
「人間たちは、私たちが、彼らの戦争によってどんなとばっちりを受けているかを、知らないの。だからそれを、知らせよう、という話ではないの?」
 と、ファーノイエン。
「そう。まずは知ってもらわなければいけない。そうでしょう? そうしなければ、この話はいつまでも解決しないわ」
 ティータは深く頷いた。以前から思っていたかのように。
「つまり、定例会の一員になることで、王と対等に話せる立場が欲しい、そういうことか?」
 と、ルルヴィトール。
「しかし、我々の側に立った状態で、やつらが話を聞くかね?」
 と、クヴェイン。
「もともと、魔物わたしたちのことを雑草か害獣のようにしか思っていないやつらなのに?」
 と、ファーノイエン。
「だからこそね。まずは直近の戦争を止めてもらう条件として、王都侵攻を切り札に使うのよ」
 王とて、民の命が危ぶまれるのは嫌だろう。そこを王都侵攻をやめる、という条件として突こうというのだ。
 しかし問題がある。
 それで説得できそうなのは、王都側だけだということだ。
 東都側には、条件として成り立ちづらい。
 あくまで、王都侵攻であるならば、東側は無関係になる。
 かといって王都と同盟を結んで東都を牽制するというのも難しいだろう、とラピスは思う。
 冒険者という物を知ったラピスならば、魔物勢力と同盟を結んでしまえば、冒険者たちが生きづらくなる。反発するだろう。
 そんなことは、王ならば良くわかっているはずだ。
 ゆえに同盟は渋るだろうと、ラピスは思っている。


 クヴェインが言う。
「解らんな。あなたならば、そんな間怠っこしい事をせずとも、力で屈服させれば良いではないか?」
 たかが人間の王など、恐怖や力でねじ伏せればいい。そう考えるのは、やはり力のある吸血鬼ゆえだろう。
 しかしその発言には、こっそりメルクリエが頷いている。
 そうだそうだ、と
 ラピスは、微笑を浮かべる。
 それでは、ダメなのだと。
「簡単な方法を常に選択していたら、何も成長が無いじゃない。魔物も人間も、いがみ合い続けるだけだわ。そんな平行線で、満足?」
 私たちには『力』がある。
 それならば、
「『力』があるってことは、他の者が難しいと思うことを、実現できるという意味では無いのかしら?」
 その言葉に、ティータは感服した。
「マナ様……!」
 思わず、真名で呼ぶほどに。
 それにはクヴェインも、言葉を失くしてしまう。
「いやはや、あなたは、力というものを、カードか何かとしか思っていないのですな」
 静かに聞いているメルクリエは、掌を返したかのように、そうだそうだ、流石主様だ。と頷いている。
「さて、そのような絵空事が、あのゲドラに通じるかどうか」
「ゲドラ様は、人間のこと、大嫌いですからね」
 蟲人二人は、懸念を捨てきれない様子だ。


「一筋縄ではいかないのは、違いないですね」
 とティータ。


「ええ。だからそちらも、利用させてもらうわ。一度、東都にも攻めてもらいたいのよ。そう見せるだけでも構わないわ。それなら、請け負ってくれるわよね?」


 そうすれば、王都も東都も、同じ条件で話ができるのだ。


「でもでも。王様と話をするためには、こちらも、王様でなくてはいけない気がするの」


 その話には一理あると、ラピスも思う。
 魔物勢力として話をしに行った所で、門前払いになる懸念はある。
 話の席にすら就けない、というのでは本末転倒だ。


「では、一国の長としていけばいいわ。一時的に、魔物勢力全体を国とするのよ。お姫様にするのに適任の人間がいるのだけど、それで構わないかしら」
 もちろんアリシャのことだ。
 人間と話をするなら人間もいたほうが良い。
 そして本人にはまったくもって許可を得てない。


「国だと? 建国でもする気か?」
「それで問題が解決するなら、私は気にしないわ」
「では、その方がお姫様で、マナ様が王ですね」
 精霊王ですから、適任です。
 ティータは嬉しそうだ。


「解決したらすぐに亡命させてもらうけど」
「その話、私は協力します」 
 ラピスが精霊王となる、いうビジョンが見えて、ティータはやる気になった。
「我が主様が王に……っ」
 メルクリエもそのビジョンには飛びついた。
 なにやらティータと目を合わせ、無言の同盟を築きつつある。
「建国の暁には、我が運送会社を御贔屓にしていただけるなら、ぜひとも、仲良くさせていただきたいですの、ラピス様?」
 ファーノイエンは商人魂のようなものに火が付いたらしく。
「私は、行く末を見守らせてもらいますよ」 
「オレはそもそも側近だ。どうこう言える立場ではないな」
 クヴェインも、ルルヴィトールも、傍観を決め込むつもりのようだ。


 人間の王と話がすんだらすぐに国なんか解体するつもりだと言っているのに。




「それでなのだけど、せっかくだからスィドル=オルカンとも一度会っておきたいところなのだけど……」
 ラピスはルルヴィトールを見る。
「オレに案内しろとでも?」
 そうよ。
 と言わんばかりの表情で、ラピスは訴える。
「そんなことできるものか。どこの近衛兵が、易々と主君に会わせるというのだ。しかも今日会ったばかりの連中を」
「そのための、ティータとあなたと、クヴェインよ」
 なんならファーノイエンも魔物の中では有名だ。
 会合を取り付けるコネクションとしては強いのではないだろうか。


 しかしルルヴィトールは頑固だ。
 簡単に主君に案内してくれる感じではない。


 剣さえあれば、この状況で、ルルヴィトールはラピスに決闘を条件にして話を続けただろう。
 それが出来ないことが、ルルヴィトールにはもどかしい。
 そして、魔法の矢を撃った本人だということに、ルルヴィトールは気づいていないのだ。
「では、ただとは言わない。それでどう?」
 つまり交換条件だ。
「条件か……」
「何か必要なものは?」
 ルルヴィトールが今欲しいものは一つだけだ。
「剣だ。私の力を込めても、壊れない剣――この妖精剣を凌ぐ物だ」
 と、鞘から折れた剣を抜く。
「そんなのお安い御用だわ」 
 ラピスは席を立つ。
 そうして、倉庫に接続し、武具を取り寄せる。
 おそらくはガラクタでも耐えれると思うが、ここは武人の目利きに適う物でなければならない。ラピスはAランクの武器から、剣を選んだ。
 何もない空間から、ラピスの手で、真っ黒な鞘が取り出される。
 所々クリスタルがあてがわれ、中の刀身が透けるような、美しい鞘だ。
 柄を持ち、その付属の鞘から中身を引き抜けば、仄かに緑色の両刃が現れる。
 鍔も柄も、美麗な装飾や文様が刻まれ、刀身に文字が彫られている。
「この剣に、名前があるとするなら、耐魔タイオンスト・封剣ヴェディニア。刀身に触れた魔法を一つだけ吸収することができるわ。そしてその魔法を、刀身に伝達して魔法の剣とすることも、そのままエネルギーとして撃ち返すこともできる。勿論、耐魔力は折紙付きよ」
 剣を鞘に納めなおし、
 どう? と、ルルヴィトールの反応を見る。


 正直、ルルヴィトールには見たこともない程の逸品だった。
 そもそも、剣が無ければ何もできない剣士である。
 喉から手が出るほど欲しいとさえ思う。


耐魔タイオンスト・封剣ヴェディニアか」  


 ふん。
 敵から塩を送られるのが気に入らないのか。ルルヴィトールは嘲笑のような自嘲のような笑いを見せ、その剣の収まった鞘を片手で無造作に受け取った。
 この場ですぐさま戦いを挑まないのが、ラピスへの返礼だ。 


「いいだろう。我が主君の元に取り次いでやる。それ以上は何もしないからな」
「では、もしもそれ、要らないのならもらうわ」 
 ラピスは折れた妖精剣を示す。
 新しい剣を得て、不要になったものだから、本来なら進呈しても問題ない。
 だがそれは、ティータに譲ってもらったものだ。
 ルルヴィトールは、ティータの顔を見る。
 当人のティータは、そのことを気にする素振りもなく、譲って構わない、と目配せをする。


 だから、折れた剣は、ラピスの手に渡った。
 自宅には、破損した刀身の先端も回収してある。これで、作り直すことができるのだ。




「それじゃ、次はスィドル=オルカンの所に行くわよ」

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