L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

ティータのお願い

 
 ラピス達は結局、商業区画にあるファーノイエンの事務所に来ていた。
 普段は書類の処理や、デスクワークをするときに使っている。
 その社長室に、
 ラピス、メルクリエ、クヴェイン、ルルヴィトール、ファーノイエン、ティータの6名が集まっている。
 ソファは2人用で、テーブルを挟んで2つしかないため、ラピス、メルクリエ、ファーノイエン、ティータの女性陣がソファに、クヴェインとルルヴィトールはその傍に佇んでいる。


「まずは、あなたの話から、聞かせてもらえるかしら?」
 ラピスは、対岸に座るティータに問う。
 ティータは、翅脈を縮め、羽化を始めたばかりの成虫のように、羽を小さくした状態で、座っている。両の手を折り重なったスカートの上に置き、座る姿勢の良さは、ティータの気品の高さを物語っているようだ。
 ティータは真っすぐにラピスを見つめ、透明感のある声で、答える。
「この世界には、かつて、世界樹が聳えていました。千年ほど前になるでしょうか」
 その大木に、ラピスは覚えがある。
「もしかして、『魔の森』の?」
「その通りです。本来の名は『聖樹の禁域』と呼ばれていました。そして世界樹はこの世界の魔法という力を、作り出していた樹なのです」
 いわば発電所だ。
 そう考えると、装魔量とは、充電できる最大量。
 魔力とは、一度に絞り出せる電力に匹敵する。
 つまり、減った装魔量はどこかでチャージする必要がある。
 それが本来ならば、大気に満ちている『魔力の根源』から得ているのだ。
「ですが、いくら世界樹とはいえ、寿命という物があったのでしょう。もしくは、何かの原因で、世界樹は枯れてしまった」
 そう。
 ラピスが森で倒れていた時。
 森をさ迷ってたどり着いた場所は、世界樹の根元だった。
 その時にはすでに、大木は倒れていたはずだ。
 ラピスは、遥か千年昔のことを、思い出しながら、ティータの話に耳を傾けていた。
「世界樹が枯れてから千年。本来であれば、大気に満ちる魔力の根源は、尽きていてもおかしくは無いのです。なのに、世界の、魔力の根源は枯渇するどころか潤っています。何故でしょうか?」
 ティータの問いには、確信めいたものがある。
 ラピスを見つめるその先に答えがあるかのように。
「それが、私に関係があると?」
「ええ。あの枯れた世界樹……別名マナの大樹に、魔力を供給し続けている者が居るはずです。例えば、新たな管理者が、大樹に宿っている……とか。もしかしすると、管理者自身が、世界樹の役割を担っているという可能性もあります」
 私は後者だと思っています、とティータは言う。
「だから、私が、世界樹マナの精霊だと言ったのね」
「はい。それに加えて、精霊は精霊を生み出せますが、自分より強力な者を生み出すことは出来ません。ですが、メルクリエ様を見れば、ラピス様がどれほどの精霊かは一目瞭然です」
 しかし、いきなり大樹の管理者と言われても、ラピスには実感が無かった。
 丁度いい所に倒れていた巨木に住み着いただけなのだから。
「通常、魔法を使えば、自身の持つ装魔量が減少し、限界を超えると魔法が使えなくなります。ラピス様にそのようなことがありますか?」 
「あるわよ。当然にね。その最大量には自信があるけれど、強い術式等を使えば、減ったという感覚はあるものよ」
 そうラピスは答えて。
 続けて付け加える。
「ただ、減ったとしても、放った術式の残骸を取り込めば、差し引きはゼロになるわね」
 それこそが、大樹の力。他の者には決して出来ぬことだ。
 何も原料もなく、エネルギーなど得られない。
 世界樹は、使った魔法の残骸を再吸収し再構築し、再び、使用できる魔力の根源として大気に放つのだ。その自給自足が、大樹の機能である。
「やはり、あなたは、マナ様。あなた自身が、大樹の精霊なのですね」
 ティータの納得したようなその言葉に、黙っていたクヴェインが口をはさむ。
「しかし、世界樹の管理者は、あの大樹から動けなかったはずでは? 私はそう聞いているが?」 
「私もそうなの。たぶんそれが、この世界の常識だと思いますね」
 各地の情報を網羅しているファーノイエンも、クヴェインに同意する。
「おそらく、枯れて倒れたときに、何か変化があったのではないでしょうか?」
 ティータはマナの代理を長年務めているが、実際に会ったことは無い。
 ラピスが管理者だとしたら、これが初対面ということになる。
 そもそも、不可侵の領域であったため、常識のある種族は魔の森に入ったりはしなかった。
 特に魔の森は、魔力の根源が濃すぎて、敏感な妖精族には辛い場なのだ。


 どちらにせよ、管理者だの、世界樹だのという話は、ラピスには降って沸いた話にしか聞こえなかった。
 思い当たる節はあるものの、それを知ったとしてもラピスの動機には繋がらない。 
「なるほど、興味深い昔話だけれど、それを話して私にどうしろというのかしら」


「はい、本来の主、マナ様に、精霊たちの管理権限をお返しいたします」


 ティータは妖精と精霊を統べてはいるが、元々精霊の管理は代理なのだ。それを返上すると言う。


 だが、ラピスは応じない。


「嫌よ。めんどくさい」


 ティータは予想外過ぎて面食らう。


「めんど……!?」
 そんな理由で断られるとは思わなかったからだ。
「今まであなたが管理していたのでしょう? じゃあそのまま続けなさい。私に管理者権限というものがあるなら、そう命令してもいいわよね」
 え、ええ!?
 さらに驚くティータだったが、しばし考える。
 そして、世界樹マナの精霊の命令とあらば受けるしかないと思いなおした。
 それに今までと何も変わらないのだから。
「では、私が今まで通り代理として、務める、という形で良いでしょうか」
「そうして頂戴。私には、7人も精霊が居るのだから、それで十分だわ」
 それはもちろん、七分封界アルカンシェルのことだ。


「で、こちらもあなたに頼みたいことがあるのよ。本当は、スィドル=オルカンにお願いするつもりだったのだけど、丁度いいわ」


 ラピスの本題はここからなのだ。

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