L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

大穴地下都市 ズグーバ ※イラスト有※

 定例会――簡潔にはそう言われているが、それは通称だ。
 本当の名は違う。
 『六魔将会議』 
 それが本来の名だ。
 六魔将という名の通り、各種族の代表6名。
 それに加えた、単騎筆頭の2名による8名が、この会議のメンバーになる。
 その内訳は、


 蛮族長――ゲドラ
  亜人種や、蜥蜴人種を統べる者。


 妖精姫――ティータ=マナ・プロキス
  妖精種と精霊種を統べる者。


 甲節王――スィドル=オルカン
  昆虫種、蟲人を統べる者。


 黒花狂ブラック・アルラ――エルネ=エクスキュート
  植物種を統べる者。


 大翼天――メテトリンヴェル 
  翼人、有翼種を統べる者。
 古海竜リヴァイアサン――レヴィア
  水棲種、魚類、水棲不定形種などを統べる者。






 時空針クロノス――リューズ
  時間と空間を司る精霊。


 薔薇公――クヴェイン=デイル=オーグ
  吸血鬼の王。




 これが、クヴェインから提供された、定例会メンバーの情報だ。
 種族の長という立場を持ち、『強さこそすべて』の魔物社会で絶対の強者たちである。


 思ったよりも人数が多いため、ラピスはその中から、一名を選定し、訪問することにした。
 いきなり会議に出席するよりも、コネクションは多い方が、スムーズというものだ。
 クヴェインの仲介でも良いが、クヴェインはどちらかというと、六魔将に匹敵する実力のために、協力しているという立場らしい。
 出来れば会議までに、中核の存在とのコネクションを得たい、ということで、ラピスは甲節王スィドル=オルカンを選んだ。
 理由は、
 ルルヴィトールが側近を務めているという点。
 実力もルルヴィトール以上ということで、上手くいけば、ルルヴィトールと無駄な衝突を回避できるという点。


 この二つだ。


 つまり目指すところは、東都と王都の先のネイヴァーカッシ平野のさらに先。そこに広がる広大な森林地帯だ。
 広さは魔の森よりもかなり広く、植物も熱帯の物が多めだ。その中心に、蟲人の都である『大穴地下都市・ズグーバ』がある。


 クヴェインの案内のもと、ラピスはそこに赴くことに決めた。






















 大穴地下都市・ズグーバ。
 そこは、多くの蟲人であふれる都市だ。
 土とレンガをメインの建築材とし、地上には、多くの防衛施設や軍事施設、王城の一部が、地下には、商店や住宅街や、王城の大部分が広がっている。
 しかも、地上の軍事施設は簡単には見つからないように、森林の地形にうまく隠されている。
 ゆえに、人間はこの都市の存在を知らない。


 もちろん。ズグーバ以外の村や街も森林内には点在しているが、全ての拠点はやはり都だ。


 ズグーバの地上には軍役の兵士たちが多く、訓練や巡回を行っている。
 よく目立つのは、黄色と黒の色調の、ワスプやホーネットをルーツとした、ハチ系の蟲人だ。全員女性型というアマゾネス的な雰囲気の者たちだが、戦闘力は抜きんでている。


 また、目立たないが、似通ったタイプにアリ型の種族がいる。
 アリ型は地上に特化し、ハチ型は空中に特化していて、両種は仲がいい。
 両種とも、兵士タイプと労働タイプがおり、特に労働タイプは運送業や諜報業を担っていたりする。


 その中で、ハチ型の王女、もしくは運送会社の社長ともいうべき存在が居る。
 名は、ファーノイエン。
 労働タイプの仕事を請け負っているが、種としては兵士タイプのハチ系蟲人である。
 定例会メンバーではないが、職業柄、多方面からの情報を多く収集しており、魔物社会の中では割と名の通っている人物だった。
 人間でいうところの、10代半ばほどの見た目をしており、灰色系の髪色に、黒い触覚、頭には、スズメバチの仮面がバイザー状になったヘルムを備える。
 コートのようになっている軟質な装甲は、お尻の部分が、元来のハチの腹部を思わせるデザインで、膝上までの黄色と黒の具足とともに、ハチっぽさを増強している。
 4枚折り重なった背面の半透明なマントは、空を飛ぶための翅だ。


 そんなファーノイエンは、今多忙だった。


 地下部分の商業施設が集まる区域。
 そのうちの石造りの建物の内部(倉庫)に、ファーノイエンはファイルとペンを手にして、作業員に指示を送っているところだ。
「待って待って、慌てるのと急ぐのは違うの。そのまま運んだら、別の街に送っちゃうでしょ? ちゃんと配送先と配送指定日もチェックして仕分けなさいね」
 部下と思わしき、運送係の蟲人に注意と指示を飛ばす。
「あーもう。この荷物重量越えてるのに、空便のシールはってあるじゃないの。どこのどいつですかね」
 これは陸便に回すから、アリたちの部署へ送っておきなさい。
 などなど。


 そこに、
「相変わらず忙しそうだな、ファーノイエン」
 純白の甲冑とマント姿の甲虫種、ルルヴィトールが来訪する。
「ルルじゃないの」
 ファーノイエンは、ルルヴィトールに気づいて、作業を止めた。
 そして、忙しそう、ではないですの!
 と、多少ある胸を張って、まくし立てる。
「見ればわかりますよね。特に最近は武具類の運送が多いの。重量物はただでさえ堪えるのに、お急ぎシールばっかり貼って! こっちは一つ一つ人力で運搬してるのにね」 
「すまぬ。藪蛇なことを言ったな」 
 ルルヴィトールは、掌で制するような所作で、謝った。
「どうせ大方、王都侵攻の準備なの」
「ずいぶんやられたからな……。再び兵を鍛えるためにも、武具は必要なのだ」
「聞いた話では、ひとりふたり、強いヤツが混じってたって、ね」
 さすがに情報が早い、とルルヴィトールは感心する。
 たしか、何と言ったか――。
 ルルヴィトールは、ウォージンガ砦で戦った少女の名を思い出す。
 アリシャ=ハインリス。
 その名を思い出したところで、
「で、ここは倉庫なの。事務所じゃないのにわざわざ来るなんて、何かあったの?」
 ファーノイエンの言葉に、ルルヴィトールは嘆息する。
「嗚呼。これのことでちょっとな」
 そう言って、背中から剣を抜いた。
 その剣は、途中から先が無くなっている。
「これ……妖精姫のティータ様から譲ってもらった妖精剣じゃないの……!?」
 蟲人の燐光の力に耐え、さらに伝達力を向上させる、武器としては工芸品のような逸品だ。
 頑丈さも折り紙つきだったはずなのに、それが折れていることに、ファーノイエンは驚く。
「私がうかつだったのだ。魔法の矢をつい弾き飛ばしてしまったからな」
「つい……?」
 魔法の矢を弾いた程度で折れるものではない。とファーノイエンは思うのだが。
「できれば、これ以上の剣を探してはもらえぬか」
「これ以上……って」
 折れた剣をまじまじと見つめるファーノイエンには、剣のことは良く分からない。分からないが――。
「それなら、丁度明日、ティータ様が私に会いに来るの」
「妖精姫が?」 
「ええ。私、ティータ様と昔から仲がいいのね」
「つまり直接尋ねてみろと?」
 こくん、とファーノイエンは頷く。
 なるほどな、とルルヴィトールも呟く。


「その代わり、ちゃんと前金程度のお代は用意しておくのね」
「解っている。とっておきの樹液菓子があるぞ。ちょっと焼くとうまい」 
 魔物の世界で、お金は流通していない。
 もっぱら物々交換と、交換主同士の裁量で取引が行われている。特に嗜好品、特産品の価値は高く、食糧であるならなお高く、加工品はさらに高い。もし保存がきくならもっと高くなるだろう。
 ちなみに、ファーノイエンが取り仕切る運送費用に関しては、主に花蜜や樹液関連の物限定で支払いを行ってもらっている。なんせ、ハチなので。
 ルルヴィトールのお菓子には、ファーノイエンも興味があるらしく。
「ねえルル。仲介費用として、私にもソレをですね……」
「無論だ。明日を楽しみにしておけ」 
 やったぁー。
 となっているファーノイエンはさておき。
 ルルヴィトールは剣を鞘に納めると
「それでは邪魔をしたな。また明日来る」
「来るのはこっちじゃなくて、事務所に来てくださいね」
 それに、了解を示すように、背中越しに手をひらひらさせながら、ルルヴィトールは立ち去って行った。




一方その頃。


 ラピス、メルクリエ、着替えを終えたクヴェインは、街道を走っていた。
 というより飛んでいた。
 ラピスは飛行出来ないメルクリエに合わせて低空で飛行し、
 クヴェインは、蝙蝠となって飛び、
 メルクリエは、足元に氷を張って、その上をスピードスケートのごとく物凄い速さで滑走していた。


 しかし、
「もう、ダメだ。『血の力』が足りん。少しその辺で女子を狩ってきても?」
 ラピスを『穴地下都市ズグーバ』で案内する係の吸血鬼がへばっていた。
「思ったよりも、へっぽこなのですわ」 
『血の力』が尽きたのは、自己治癒に回したからだ。
 おまえの主の所為だ、とメルクリエに言いたいのを、吸血鬼――クヴェインは耐えた。




 また空間接続コネクティング解放ゲートは、目視できる場所か、既知の座標でなければ、つないだ時にズレてしまって参事になる恐れがある。そのため、ラピスたちは王都近郊までをショートカットして、そこからは自力で移動していた。


 疲れを知らぬラピスたちは、常時全力でも問題ないが、クヴェインはそうはいかない。特に今は。
 へばった吸血鬼は、変身が解けてしまい、地面に墜落してしまった。
 老紳士の姿に戻ったクヴェインは、地面に膝をつき、少女たちは立ち止まる。
「あなたの食糧事情には口を挟まないけど……会議まで3日しかないのだから、なるべく時間は大事にしないとね」
 良いものがあるから少し待ちなさい。
 ラピスは、そう言いながら、何もない空間から、小瓶を取り出す。
 そして赤黒い液体の入ったそれを、クヴェインに渡した。
「これは……?」
「昔作った、人造生命のための血液よ。今はもう必要ないのだけど、たくさん余っていてね」
「…………」
 おそらく飲めということなのだろう、とクヴェインは思うものの。


 しかし疑わしい。
 飲んだら死ぬのではないか。
 なにせ、治癒魔法をかけると言って、殺されかけた過去があるのだ。
 本人に悪気が無く、至ってまじめであろうとも、それが害にならないという保証はない。
「ふぅん。へっぽこな上に、ビビリなのですわね」
 だが。
 そこにかけられたメルクリエの言葉に、どこかへ行っていたプライドが刺激されたらしい。
 クヴェインは、ムッっとして、ムキになった。
「何をたわけたことを。私がこの程度で、臆するものか」 
 きゅぽん、とコルクの栓を親指でかっ飛ばし、クヴェインは中身を一気飲みした。
 飲み干した途端。
「なっ、これは……」
 それは吸血鬼にとってのエリクサーのようなものだった。
 一瞬で『血の力』が完全回復し、活力がみなぎる。
「……素晴らしい。がッ」
 うっぷ、とクヴェインは吐きそうになる。
 効能は高いが、味は絶望的に不味かった。
 しかも高カロリー。
 血の味で言えばどろり濃厚。


 そして。


 再び移動を開始したのもつかの間だった。 
「ちょ、ちょっと、まちたまえ……!」
 再び移動を始めてすぐにクヴェインの表情は青ざめていた。
 あまりに不味い飲料を口にした上、全力疾走(空中)したせいで、気分が悪くなったのだ。
 巨大な黒蝙蝠から黒狼に変身し、地面に降りると、クヴェインは道端で、吐いた。
 真っ赤な液体が口からリバースする様は、吐血しているようにしかみえずに、真に痛々しい。
「だらしないですわ」 
「……おかしいわね。栄養たっぷりの血液だと思ったのだけど」


 良薬口に苦しという言葉がある。
 されど、度を過ぎた良薬は、苦さも度を過ぎていた。


 そして、苦いという文字は、苦しいという文字なのだ。










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