L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

追憶





「つまり、アリシャ様はマスターで、ラピス様はグランドマスターなのですね。理解しました」
 アリシャ、ラピス、メアの3人は封印の小部屋から出て、特級装備が置かれている部屋に移っている。そこにはテーブルや椅子もあるため、話をするにもうってつけだ。
 しかし、ラピスは、低い背丈で胸を張って立ち、腰に手を当てて、偉ぶっている。
「分かればいいのよ。分かれば」 
「ますたー……かぁ」 
 アリシャはマスターと呼ばれるのが慣れない様子だ。
「それにしても……見事に真っ白ね。あと、その耳は……?」
 ラピスは、メアの耳に注目する。
 頭の上からひょこっと長い耳が、出ている。
 ウサギの耳のようだが、ウサギではない。
 周囲の音を逃さぬよう、レーダーのように良く動く、ウマ耳だ。
 多くの人型が有している耳の位置には何もなく、今は、長い白髪で隠されている。  
「もとは、周囲の魔力感知を行えるようにつけたはずなのだけど……」
 もっと硬い素材で出来ていたのに、どうして変わってしまったのか。
 だが、
「あ、大丈夫ですよ、グランドマスター。この耳で魔力もある程度は感知できるみたいです」
 とはいっても、この倉庫は強力なマジックアイテムだらけで何が何だかわかりませんけど。
 メアはそう言って苦笑する。
「可愛いですね、耳」
 アリシャは、くすくすと笑って。
 ラピスは真剣な表情で、メアに言う。 
「……もし、他の機能に変わりがないのなら、あなたは少しばかり魔法が使えるはずよ。ただ、あなたの魔力炉はあなたを動かす力を生むためでしかないから、魔法を使うには、その力を一時的に一点に集めるか、魔力炉から流れてくる魔力を蓄積する時間が必要かもしれない」
 魔法。
 それを聞いて、メアは自分の掌を握って確かめる。
 メアには第七感が存在する。
 ぎゅっと、筋力と同じように、魔力を籠めれば、手にそれは集まってくる。
 籠めて。
 籠めて。
 籠めて。
 籠めて。
 知らずに、メアはものすごい魔力を全身から集中させていた。


「それだけあれば、ただの人間なら砕け散るかもしれないわね」
 そう言って、魔力の籠められた手をラピスが握ると、メアの魔力は消えてなくなった。


「うっ!」


 そしてすぐに、メアはめまいを覚えた。
「あなたの魔力は、人間でいう血液のようなものよ。それをどこかに集めすぎれば、他が薄くなるのは当然でしょう。気を付けないと、使った後は隙だらけになるわよ」


「わかりました、ご忠告、肝に銘じます、グランドマスター」
 メアはまだ、少し朦朧としていた。
「ところで」
 と、ラピスは話題を変える。
「アリシャはこれから、どうするつもりなの?」
 ラピスは、メアを蘇生させる前に、アリシャとメルクリエから、亜人たちが砦を襲った理由や、その理由が人間にあることを聞いている。
 砦での一件は、食い止めるということで、決まったようだが、それはただの一時しのぎであり、根本は何も解決していない。
 それに。


「次は、人間たちに理解を求めないといけない……とは思うのですが」 
「まぁそうでしょうね。でなければ、また同じことになると思うわ」
「こういうのはやっぱり、王様とかに言うべきなんでしょうか?」
 王様。
 その役職について、どことなく不信感が湧く。
「妥当と言えば妥当だけれど」
 そう簡単にいくだろうか。
 王に直接訴えるなど、できるだろうか。
 ラピスも森に引きこもっているせいで、そういう事情には明るくない。
 だが、予想で言うならば。
「王というのは、力のある立場でしょう? 戦争が絡むようなこの手の話と言うのは、対等でなければ、うまくいかないんじゃないかしら。だから、あなたも王と同等の地位で話をしに行かなければ、聞いてはもらえないかもしれないわ」
 いくら見た目が、姫っぽいと言っても、本物ではない。
 一国の王からしたら、平民である。
 逆に、無意味に王冠などを付けて会ったら、不敬罪になってもおかしくはない。
「同等……ですか」 
「もしくは、同等か、それ以上の武力ね」
 でもそうなると、もはや話し合いではなくなるけど。


 メアは二人の話を黙って聞いている。
 よくわからない話だし、白馬だった時には、ほぼ部外者だったため、共有できる情報が無いのだ。
 ただ、一言だけ言えることがあるとすれば。
「メルクリエ様にもうかがってみてはどうでしょう? マスター。グランドマスター」  
 その言葉に、なるほど、確かにとラピスは頷いた。
 今までただの一心同体で、個人として意識してこなかったため、すっかり失念していた。
 ラピスは、メルクリエを呼び出す。
 現れた青い正八面体は、すぐに人型に顕現した。
 青いドレスの少女が、水気と冷気を纏いながら、優雅に現れる。


「はろーですわ。お三方」


 開口一番の明朗快活な挨拶。
 その清々しさや明るさは、ラピスとは性格が違っている。 
 そして、メルクリエは、まず、メアをまじまじと見た。
「あれ? あなたオスだと思ってましたけど……女性の身体になられたのですわね」


 それに、
「えっ?」
 アリシャは、初耳だと驚き、
「えっ!?」
 メアは、そんな馬鹿なと驚き、
「あら、そうだったの?」
 ラピスはどうでもいいと、驚かず。


 メアは自分の身体を確かめるように全身を触っている。
 なにせ、メアは自分のことをまだ鏡で見ていないのだ。
 だがラピスは、平然としている。
「まぁ、気にしなくてもいいわよ。あなたの身体、オートマタだから、性別なんてあってないようなもんよ」
 そんなことを言われても。
 っていうか無性なので、有るもんは無いのです。つるっつる。
「外見は完全にメスですわね」
「そんな……ボクオスなのに!」
「でも、少しは男らしいですよ? 少年風というか?」
 アリシャのフォローなど馬耳東風である。
「耳も似合っていますわね。あらかわいい」
 うさ耳ですか?
 とメルクリエは完全にからかいモードだ。
 うさ耳(本当は、うま耳)の他に、ワンピース、ニーソ、真っ白な長い髪。赤い目という出で立ち。
 駆動関節を隠すために、露出度は低いが、身長150cm程のメアは、遠くから見れば完全に女性にしか見えなかった。近くに来れば、もしかしたら少年だろうか? と思うくらいの見た目だ。
「グランドマスター! なんとかならないんですか!?」
「なんとかって?」
 でっぱらせられないのですか! などとは口に出せないけれども。 
「オートマタだって言ったじゃない。あなた魔法で動く機械のようなもんよ……そんなのに性別なんてあるわけないわ」


「……うぐ……そんなぁ」
 お馬さんは、魔法使いのままオートマタになってしまった。
 心に大ダメージを受けて消沈してしまったメアはさておき。


「ところで、メルクリエ」
「分ってますわ。ちょっとオイタが過ぎましたわね」
 メルクリエは悪戯に笑っていた表情を、引き締める。


 アリシャとラピスから話を聞き、
 砦の件ですが、と切り出した。
「私が鑑みますに、亜人の群れに他種族が数割混じっていたことから、亜人たちに他種族が協力する形だったのでは、と思いますわ」
 メルクリエは砦の西側を担当していたが、東側の状況も戦闘中の兵士たちの噂や話で多少は耳に入っていたらしい。
「東側に、とても強い蟲人の剣士が居る、という話が上がっていましたが、もしかしてアリシャ殿が相手をしていた御仁では?」


 メルクリエの言葉に、アリシャは頷く。


「たぶんそうです。すごい強かったですもん。何度死ぬと思ったことか」
 思い出しても涙目になるアリシャだ。
 そして、その蟲人はラピスも目撃している。
 狙撃のターゲットとして。
「ああ、あいつね。私の魔法の矢を、剣で弾き飛ばすとは思わなかったわ」
 その話で、アリシャは思い出した。


「そういえば、あの――ルルヴィトールとかいう人、ラピス様のことを探していたみたいですよ」
「私を? どうして?」
「理由までは……。でも、凄い真剣でしたから、何か恨みでもあるんでしょうか?」
「恨み、ねぇ」
 そもそも、ラピスはアリシャに合うまで森からほとんど出ていない。
 襲ってきた魔物は、残らず死んだか石になっているはずだ。
 特に最近のことで言えば、出会った者といえば、アリシャ、メア、ノースルーリエの男ども三人くらいだろう。冒険者ギルドの受付嬢などは論外だと思われる。
 もしかして、一夜で壊滅させた悪魔信教団体のことか、と思うが、出所が遠すぎる気がする。


「恨まれる覚えは、有るんだか無いんだか分からないわね」
「あの御仁が具体的に何を言っていたか、アリシャ殿は覚えてます?」
「具体的……?」
 アリシャは記憶をたどる。
 死闘の最中に交わした言葉など多くは無い。
 その中でラピスのことと思われるものは一言だけだ。
「銀髪、瑠璃色の眼の少女を知らないか? でしょうか」
「……つまり、名前は知らないのですね」
 ではノースルーリエの三人は完全に無関係だ。


 細々とした記憶と可能性を辿り、ラピスが導き出した人物が、一人いる。
「あの吸血鬼かしら……生きていたのね」 
 出会った者の少なさが幸いして、情報の出どころの予想は立てやすかった。
 さらに、ラピスは魔の森に関しては、庭と呼べるくらいに詳しい。
「北側の洋館かしら……」
 住処の予想もそれとなく可能だ。


 それで方針が少し決まった。
「良いわ、あの吸血鬼に、私が話を聞いてくるわ。もしかしたら、魔物勢力の情報がもう少し手に入るかもしれない」


「アリシャ殿はどうされるのですか?」
「私は、今度こそ買い出しかな?」  
 とりあえずラピスの情報を待とう、ということのようだ。


「じゃあ、私も……」
「ボクも行きます、マスター」
「あなた、病み上がりもいいとこでしょうに。アリシャ殿と行くのは、私ですわ」 
「何を言うのです! マスターお守りするのが、ボクの使命。病み上がりなど関係ありません」
 なぜかメルクリエとメアが言い合いを始めてしまう。


 はぁ。とラピスは溜息を吐く。
 特にメルクリエ。
「あなた戻る気は無いようね」
 元々ラピスの武具だというのに、魔石に戻る気はないらしい。


「でも今回はダメよメルクリエ。あなたは私と吸血鬼に会いに行くのよ」
 ええー!? と嫌そうなメルクリエの声が上がり。
 メアは勝ち誇った顔をするのだった。











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