L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

『転生』



 ラピス邸の地下回廊。


 魔法の曲が奏でられ、倉庫の扉が開かれる。


 二人は、ガラクタ置き場を抜け、Bランクの装備置き場を抜け、Aランクの装備置き場を抜け、特級の装備置き場を抜け、最後の扉の前までやってくる。
 そこは、以前アリシャも来ていない所だ。


「――私ね。昔、生命を作ろうとしたことがあったの」
「生命……?」
「そう。魔法の研究の一環……だったかしら。つまり、構成される肉体の素材を用意して、あるべき状態に構成して、そこに新しい精神を作り出そうとした。……無から生命を作ろうとしたというわけね」
 アリシャには難しい話だが、どこかで聞いたことはあった。
 誰も成しえないとされる、禁忌のようなものだろう。
「ホムンクルス、ですか?」
「そうね。錬金術では、そう呼ぶかもしれないわ」
「成功したんですか?」
 ラピスならば、禁忌も成せるのではと、アリシャは確信して尋ねたのだが
「いいえ。成功するまでは試さなかったわ」
 途中で、辞めるべきだと、判断したから、とラピスは言う。
「やめちゃったんですか?」
 そうね。とラピスは頷く。


 そうして、新たな魔法の曲が奏でられ、厳重に閉ざされていた最奥の扉が開く。


「結局、精神までは作らなかったのよ。だからここには、器だけがあるのよ」


 ぎぎぎ、と軋むような音を立てて、大きく重厚な扉が開ききると、それはすぐに見えた。
 机や、謎の器具が置かれた小部屋の中、その中央に輝く魔法陣。


 そこに、封印されるように、体が一つ、祈るような姿で安置されていた。


 少年のようにも、少女のようにもみえる、美しい肢体だ。
 身長は150cmほどだろうか。しかし人形のように関節は駆動によるものとなっている。


 それを除けば、肉体は完璧だった。
 それだけでアリシャには、凄いと思える。




 そして、この最奥の小部屋は、空間ごと時間を凍結してある場所だ。
 経年劣化が起こらないよう、大事なものを大事なまま保管するための場所だった。


 壁には見慣れない衣服がかけられていたり、机には革製の四角い入れ物も置かれている。




 ラピスは、再び、メアの精神を収めた八面体を呼び出した。
 それはふわりと宙に浮き、ラピスの周囲にとどまる。


 ためらうように、迷うように、漂う八面体を、ラピスが促すと、創られた肉体に、それはゆっくりと入り込んだ。


 途端に、肢体が、跳ね、苦しそうにもがきだす。
 言葉も苦悶もなく、ただ、苦痛を訴える仕草だけがある。


「身体に精神が根付くまで、少し時間がかかるわ。苦しいでしょうけど、私たちにできることは無い。あとは、メアが生きたいと――この身体を受け入れると、思ってくれるかどうかね」


 もだえる様子を、アリシャは祈るように見つめている。


「私が、精神まで作るのは辞めようと思った理由は、さっき話したルールによる物なの――」


 その間に、ラピスは語る。


「――生命と言うのは、精神があってこそ、肉体があるようなものよ。透明な容器に入った水のようなものね」
 水は精神、容器は身体だと。
 容器が無ければ水は零れてしまうし、容器が傷ついても、同じく零れていってしまう。
 しかし、中の水が腐れば、その影響は容器にも及ぶ。
 容器と水は接しているのだ。心が病めば、肉体も病む。その逆も然りである。


 それがラピスが言う、心と体の在り方だ。


「もっと平面でいうなら、精神の上に肉体が乗ってるということでもあるわ。蘇生させるには、その両方を元に戻さなければいけないのだけど」 


 そのことはアリシャもなんとなくわかることだ。
 心だけ生き返っても、肉体が死んでいたら、すぐに朽ちるだろうし、肉体が生きていても、心が死んでいたら、それもすぐに『自殺』という形で朽ちるだろう。


「生命を作るというのは、逆なのよ。創った肉体の上に、創った精神を乗せることになる――そんなの、世界のルールが許さないわ。だから、無理なのよ。時間を故意に逆転させてでも、精神を先に置かなければ、実現しようもないことだわ――だから、」


 生身の肉体を作り出すというルール違反も考え直し、駆動する間接を使い、魔法の心臓を炉として動く、ゴーレム――あるいはオートマタに作り直したのだった。


 ラピスの話が終わるころ、
 苦しむ肢体――メアが、壁際に置かれていた机にぶつかり、音を立てる。
 そして、やがて動きを止めた。


 ううっ、とメアがうめき声をあげる。


 声が上がったこと、それを見て、心と体が繋がったとラピスは判断する。
 思考が感覚に、感覚が肉体に伝わっているという証拠だから。 


「――もう大丈夫みたいね」


 そうして、机がぶつかったときに、上から落ちた金属の円盤をふと見たアリシャは、驚くのだった。その円盤は、アリシャが首からかけている真鍮製のネックレスと同じものだったからだ。


 真ん中に穴の開いたその小さな円盤には、『五円』と、描かれていた――。
 

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