L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

遭遇





「私の祈りに応えて!」
 横殴りの雨のように、降り注ぐ無数の矢。
 数多のつぶてのように、飛来する多数の魔法。
 そのすべてが、アリシャの展開した大規模な障壁によって阻まれる。


 ラピスが最初に渡した、お守りの効果だ。


 東側では、突如として現れた王女様風の、冒険者風の、ただの料理人に、兵士たちが沸いていた。


 殺されそうな兵士のもとに駆け付けては、攻撃を小盾で受け止め。魔物を殺す。
 包囲されようとも、傷の一つも負わずにレイピアで1匹残らず刺し殺す。
 そんなことを繰り返す。 
 繰り返す。
 繰り返す。


 
 体は無事だ。
 だが心はつらい。


 それでも、王都にいる無関係な人たちを想い。
 アリシャは、血に濡れながら、戦場を駆け抜ける。


 自分が正しいと信じ込まなければ、命を奪うことなどできない。
 それが正義の正体だ。


 だけど分かっている。
 正しいはずがない。
 正義などあるはずがない。


 元は人間の所為なのに。


 だから、アリシャは、自分の心を殺しかけていた。
 ただ、無心になりつつあった。
 ラピスの『力』に身をゆだねる、そうなりかけていた。


 惚けていたのだ。


 それを叱咤するかのように、 


 白刃が閃く。


 重厚な、強靭な、鋭敏な。


 弧を描く閃き。


 斬撃だった。
 アリシャを襲う、正確無比な攻撃だ。


 予知の加護が一歩早く反応し、攻撃を逸らす力が、急所を外さなければ、その一撃でアリシャは絶命していただろう。
 ラピスの防具が無ければ、大怪我を負っていただろう。


 一撃目で右肩に打撲を負い、そこに、間髪を置かずに、第二撃目が来る。


 第一撃目は、強力だが小手調べだった。
 その反応を見てからの、第二撃は、躱した直後の隙狙ってきている。


 予知で解っていても、体が動かない一瞬だ。
 一撃目で、逸らされた分をつぶさに修正して迫る軌道は、もはや躱しようがない。


 それでも、百年単位で研鑽してきたラピスの武術は本物だ。
 経験が反射的に反応する。
 上体をまわし、小盾を斜に構えて、二撃目をいなす。


 間一髪で防御に成功した。
 が、アリシャの左腕が、大きく弾かれる。




 もう、次の一手を防ぐ手段はない。
 すべてのリソースを使い切ってしまっている。


 そこに、青い光を纏った斬撃が、三日月のような軌跡を描いて、アリシャの無防備な身体に差し迫る。




 アリシャは我に返った。
 現実を見た。
 1秒先に死が見える。


 咄嗟だった。


「私の祈りに応えて!」


 極光の壁。守護の防壁。
 それが、青い光と激突して、周囲の空気がはじけ飛ぶ。
 音速を越える衝撃に、爆音が轟いた。
 地面がえぐれ、土煙が舞い、アリシャと、対峙するシルエットを覆い隠す。


 はぁ、はぁ。


 アリシャは、肩で息をしていた。
 ラピスの防具が驚異的な性能なのか、右の肩口が多少痛む程度で済んでいた。
 大きな傷を負わなかったのは、本当に奇跡的だった。


 ふ、と嬉々とした吐息が聞こえる。
「驚いたな。よもや、防ぎきるとは思わなかったぞ」 


 何事だったのかと、アリシャは目の前を見た。
 土煙が晴れ、その姿があらわになる。


 そこには、剣を手にした、純白の甲冑姿があった。
 マントをたなびかせるその姿は、蟲人と呼ばれる種族。


 ルルヴィトールだった。







「L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く