L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

アリシャ・サイド――『Mercurii』

 白馬は必死に立ち上がろうとしていた。
 が、火の矢を受けてケガを負ったせいか、うまく立てない様子だった。


 そこに、ずしん、ずしん、と音が聞こえてくる。


 周囲には、ゴブリンたちの血の匂いが満ちている。


 オーガたちが、集まってきていた。


 白馬が慌てているのは、オーガたちのことに気づいていたからだった。
「どうしよう……私、回復の魔法なんて使えない……」


 もはや廃墟に等しい建物の影から、大きな身体が姿を見せる。
「うまそうなにんげん……みつけた」 
 ゴブリンよりも数倍の大きさ、アリシャの2倍以上の大きさだ。
 旅人の知識としても、危険度としては非常に高く。出会ったなら死ぬというレベルだった。
 それが、何匹も居る。
 村人を根こそぎ食らったのは、こいつらだろう。
 オーガの眼が、白馬の存在を見つけた。
「こいつがごはん、にんげん、でざーと」 


「くっ」 
 一難去ってまた一難というやつで、また死ぬかもしれない状況だった。
 そして、アリシャには欲が出ていた。
「このお馬さんだけは……」
 馬を守る。
 誰かを守りたい。
 その意思が、アリシャに芽生えていた。


 立ち上がり、白馬とオーガの間にたちはだかる。


 しかし、剣は放り投げたままだ。
 手の届くところに無い。


 オーガが迫ってくる。
 よだれを垂らし、手に持つ巨大な剣で、アリシャを叩きにしようと寄ってくる。 


 アリシャは、落ちているラピスの細剣を見つめる。
 一度後悔した力を、すぐまた欲する自分に嫌気がさしながらも、アリシャは願った。


「……借り物の力でもいい、借り物の勇気でもいい、私にこの子を救わせて!」
 剣は無いが、盾ならある。
 守り通して見せる。
 その決意に――、




「その役、私が引き受けましょう」


 ――群青の輝きを持って答える声がある。


 周囲に、冷気と水気が迸り。


七分封界アルカンシェルがひとり、メルクリエ――ここに顕現致します」


 冷涼な美声とともに、アリシャの前に青一色のドレスを纏った少女が姿を現した。
 長く美しい水色の髪、そしてその後ろ姿は、どこかラピスに似ていた。


「我が主の意思により、あなたにご助力致しますわ、アリシャ殿」
 背後にいるアリシャに、背中越しに振り向いてウインクを投げかけるその姿が、ヴァンパイアから助けてくれた時のラピスを彷彿とさせる。


 アリシャは、何が起こったのか、全くわからなかった。
 名前を付けたことで、命が吹き込まれた。そんな、魔石のことなど、アリシャには知る由もない。



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