L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

ラピス・サイド――『男たちの決意』

 
  倉庫街に、金属音が響く。
 大男の振り下ろすツーハンデッドソードの腹を、小柄な少女は、角材を滑らせるようにして払いのける。同時に、その遠心力を無駄なく拳に伝え、少量の魔力を込めた打撃を、男の腹に叩きこんだ。
「ぐはっ」 
「遅く重く、リーチのある武器は、懐に入られたら終わりよ」
「このぉ、パンチするとは思わんだろうが!」
「あら、言ってなかったかしら。相手の意図しない攻撃というのはとても有効よ。今身に染みたでしょ?」 
「……くっそぉ。あねさんめ」
「接近されたら、予備として渡してある短剣を使うのも選択肢に入れるといいわよ」


 早朝。ラピスは街で買ってきたと言って、幅広の両手剣をラージスに渡した。
 体格や、筋力から考慮したもので、幅広の刀身を横倒しにすれば、防御にも使える品だ。
 そしてその両手剣は、なかなか武骨な見た目をしていた。
 実際のところは、ラピス邸の倉庫に眠っていたガラクタである……といっても、世間一般からすれば名匠クラスの業物だ。その中でも一番地味なものを持ってきたのだった。


 サミルとマクドウェルは、訓練メニューを言い渡して、練習に励んでもらっている。
 気を利かしたマクドウェルが、紙にメモ書きして倉庫の柱に貼ってくれた。




 ラージスは引き続き、ラピスと訓練をしている。
「あなたの課題は、まずは私に一撃入れることね。でもそのまえに回避や防御が疎かだといけないわ。私の攻撃をかわし、私に一撃入れるのよ」 
「こんな得物で、一撃食らったら死ぬんじゃないか?」
「問題ないわ。私の身に着けている魔法衣は、特殊な素材だから、ここの商業区のどんな甲冑よりも、はるかに頑丈よ」
 それでも、ラージスは不安そうだ。
「そんなに心配なら、当てて確かめたらいいわ」 
「あのなぁ」
 心配するところがちがうんだよ、と突っ込みたい衝動をラージスは抑えた。


 
 そんな感じで、サミルは投擲技術を、マクドウェルは開錠技術を、ラージスは戦闘技術を磨き、倉庫での日々が着々と過ぎていった。


 しかし、6日目の朝。
 メルクリエから、ラピスに緊急信号が送られてきた。
 アリシャに何かあったのだ。


「ごめんなさい、少し急用ができたわ。なるべくすぐに終わらせて戻ってくるけど、依頼には間に合うかわからない。だから、依頼は一度放棄しておいて。一応あとで渡そうと思っていた物を置いていくわ」


 そう、言うだけ言って、ラピスは文字通りすっ飛んで行ってしまった。




 あまりの慌てっぷりに、3人は唖然とするばかりだ。
 あっという間に姿を消した魔法使い姿を見送って、ラージスは残りの二人に視線を向ける。
「……だそうだが、どうする?」
 ラージスは、肩に大剣を担いだままマクドウェルとサミルに尋ねる。
「どうすると言われましてもねぇ」
 そんなマクドウェルは、片手にスカウトツールを持っているし、サミルは投擲物として考案中の砂袋を握っている。
「依頼をやるにせよ、辞めるにせよ、あっしは練習を続けますぜ。あっしは、姉さんに、よくやった、って言ってもらいたいでやんす」
「まぁ、今更やめるって言われても、もう日課みてぇになってるしな」
 そう言って、ラージスは豪快に笑う。


「しかし、練習相手がいなくなっちまったなぁ」
 そう嘆くラージスに、マクドウェルが提案する。
「では、私が相手になりますよ」 
「は? おまえが? ケガするぞ」
 マクドウェルはやや苦笑じみた微笑を浮かべる。
「だからといって、自分だけ安全にいるわけにもいかないでしょう。むしろそんなのはお断りです。戦闘でお荷物になりたくはないんですよ。錠前破りだけじゃ、何もできませんからね」
 だから、とマクドウェルはラージスが腰に差している短剣に目を付けた。
「旦那がもってるその短剣、私に貸してもらえませんか?」
「ううん、まぁそういうことなら……」
 と、ラージスはしぶしぶ短剣を鞘とベルトごとマクドウェルに差し出した。
 それを受け取るマクドウェルを見て、ラージスは気づく。
「……ってことは俺がお前に戦い方を教えるのか!?」
「まぁそうなりますね」
 まじかよ、と嘆くラージス。そして不敵に笑うマクドウェルは、「それと」と言葉を付け加える。
「ちょっと試したいのですよ」 
「試したい、って何がだ?」
「ちょっとね……練習用の錠前をバラして取った部品と、サミルの投擲用の品を合わせて、こんなものを作ってみたんで」
 そう言って、マクドウェルは、服の袖をめくると、腕に小型の何かが装着されていた。
「なんなんだそれは?」
「隠し武器……みたいな感じでしょうか?」
 板金のスリットに、杭のようなものが何本か刺さっている。
 マクドウェルが、何かレバーのようなものを操作すると、杭が射出され、倉庫の壁に突き刺さった。
「これに毒を塗れば、けっこう役に立つと思うんです。3本しか装填できませんけどね」
「マジで作ったのか? おまえが?」
「ええもちろん。ほかにも幾つか、隠し武器の案があるんですよ……間に合うかは分かりませんけど」 
 そこにサミルがさらに提案する。
「あっしとマクド二人で旦那の相手をしたら、ちょうどいいんじゃないでやんすか?」
 模擬戦、そのようなものになるだろう、と予想される。
「そうだな。まぁなんでもやってみようぜ。日はまだあるんだしよ」
「あとこれ、姉さんが置いてくって言ってた……」
 サミルが指し示す一画。その倉庫の隅に存在感を放つ大袋が置かれている。
 その中身は、三人分の防具一式だった。


「まったく、お礼も言う隙もくれねえで、なにやってんだか、あの嬢ちゃんは」
「……依頼、やるだけやってみませんか?」
「そうでやすね……依頼、調査がメインでやしょ? なるべく戦いを避ければ、いけやせんかね?」


「それに、よく考えりゃ、いくらあねさんが凄いって言ったって、見た目は小さい嬢ちゃんじゃねえか。それを、大の男どもが、あてにするってのは、かっこわりいもんな」
 こくん、とマクドウェルと、サミルがうなづく。
 残された3人に、依頼を諦めるという選択肢は、もうなくなった。 







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