L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

ラピス・サイド――『瑠璃色の冒険者』

 
 ひとしきり驚いた後で、受付嬢は我に返った。
 そして、慣れた様子で、流暢に説明を始める。
「えっと、冒険者には個人名登録と、パーティ名登録がございます。個人名登録では、必要に応じて他の個人名登録の冒険者とパーティを組んで依頼に当たることになります。パーティ名登録では、常に同じパーティで依頼に当たることになります。どちらも、技能と実績によってライセンスが与えられますが、個人登録では個人のみ、パーティ登録ではパーティ総合での判定になります。もちろん、個人登録と、パーティ登録両方を行っておくことも可能ですが……いかがなさいますか?」


「両方よ。私個人の登録と、この4人でのパーティ登録、両方お願いするわ」
 ラピスは即答した。それに、すぐ後ろで見ていた3人が、えっ? と声を上げる。


「あねさん!? 俺らとパーティって、本気で言ってんのか!?」
「ラピ姉、言っては何ですが、我々は役に立つか……」
「気持ちは嬉しいでやんすけど、足を引っ張ることになりやすよ」


 そんな様子に受付嬢も、どうしたらいいのかと、困り顔だが、
「後ろは無視して頂戴。さ、何か書類が必要なのでしょう?」
「あ、はい、ではこちらの個人登録用書類に、お名前を。こちらにはパーティ名をご記入くださいますか」
 目の前に書類を出されると、ラピスは迷わず、ペンを後ろに差し出した。
「ラージス、書いて」
「え? オレかよ?」


 文字を書く技能はギルドのテストに無かったし、発見した書類の解析が必要だったスカウトのテストは、勘と経験と状況把握による予測で乗り切ったため、実際には文字は読んでいない。
 今現在、ラピスが読み書きできる文字というのは限られているのだ。
 この世界で使われている文字ではなかった。
 しかしそのことは伏せつつ、
「ほら、このカウンター高すぎなのよ、書きづらいわ」
 実際に、身長が低いので、書きづらいのは本当だった。
「本当に、オレらと組む気か?」
 とりあえず、ペンを受け取ったラージスだが、中々書こうとはしない。
「つべこべ言わずに書きなさいよ。良い? ここで登録して仕事をもらわないと、あなたたち一生ごじゅ……45ゴールドなんて返せないでしょ!? それとも、他に稼ぐあてでもあるのかしら?」
 もちろん盗みや、幼女誘拐以外での話である。
「まぁいいんじゃないですか、登録だけなら無料ですからね」 
 ラピスの言葉がしっかり5ゴールド引かれていることに、マクドウェルは苦笑しつつ、ラージスのペンをむしり取った。ごじゅ、と言いかけた様子も、思い出して苦笑は微笑に変わる。
「そういうことなら、ボクが書きますよ。ラージスは字が汚いですからね」
 うっせぇ、と声を荒げるラージスはさておき、マクドウェルが書類に目を通し始める。
 その間も、ラージスとサミルは、自信なさげな素振りだった。
 そうして、ラピスに確認を取りながら個人用書類を書き終え、パーティ用書類の記入に入る。
「パーティ名はどうしますか、ラピ姉」
「名前? 『借金150ゴールド』でいいんじゃない」
「それはちょっと。もっとほかの名前はないですか」
「そうだぜ、もっと心躍るかっこいい名前にしねぇと」
 ラージスから醸し出される、そこはかとない中二病患者臭。
「『瑠璃色』でどうでやんす? 姉さん、眼の色綺麗でやすから」
「るりいろ、ねえ」
 もっとこう、スーパーラグジュアリーゴールドマグナム的な名前をだな、とダサカッコ良さげな身振り手振りで語り始めるラージスは放置され、
「るりいろ……いいですね。それにしましょう」
 パーティ名が決定し、登録が終了した。
 生暖かい目で見ていた受付嬢が説明する。
「それではラピス=フィロソフィ様は、本日より、ランクS-Ⅷエス・サーティーン・グレードFの冒険者となります。こちらが、ライセンスになります」
 ランクS-Ⅷエス・サーティーングレード・Fと書かれた証明書が渡される。Ⅷの部分は、Sの横に手書きで足されていた。
 本来は、取得しているギルドランクが複数の場合、たとえばスカウトAアーチャーCなら、優秀な物から順にACや、BCCなど、続けて表記される。習得ランク一つならFでもEでも表記されるが、メイン以下のランクはC以上でなければ連ねて表記されない。
 しかし、全Sのラピスは特殊すぎたため、Sを13個も表記できずに、Ⅷと表記されているのだった。
 正式に刻印されたライセンスは後日発行するとのこと。
「そして、こちらがパーティ用のライセンスです。ランクD・グレードFの冒険者パーティーとなります」
 ラージス、マクドウェル、サミル、ラピスそれぞれに、パーティ用ライセンスが渡される。
「まじかよ」
「ラピ姉のおかげで、最初からランクDなんですね」 
「Dっていったら、確か基本依頼報酬が一人、5ゴールドでやんすよ!?」
 常に死の危険がある仕事である分、報酬は普通の仕事に比べれば破格だ。ただし基本報酬があるということは、それなりの仕事が回ってくるという意味でもある。
 ランクFグレードFだと基本報酬ゼロのため、猫探しや、どぶ掃除など、ボランティア染みた仕事からのスタートになるが、その分危険の少ない仕事になるので、人によっては一長一短と思うだろう。
 そうやって、グレードは経験を積み、ランクはギルドの試験を受けて上げていく、というのが、冒険者の出世道となっている。
 ちなみに、ラピス個人を起用した場合の基本報酬は、経験ゼロにもかかわらず、ギルドランクによる基本報酬だけで78ゴールド(78万カッパー)も必要になる。もちろん、基本報酬なので、仕事によって上乗せがなされることも多々あるだろう。


「さて、それじゃ、早速このパーティで行けそうな仕事を見繕ってくれない?」
 ラピスがパーティ用のライセンスカードをもてあそびながら、受付嬢に申し出る。
「もうかよ!?」
「ほら、5ゴールドなら、あと9回仕事したら片付くわよ、馬車馬のように働きなさい」
「鬼でやんすな……」
 いや、鬼可愛おにかわでやんすね。とサミルは思い直した。


 そして、選んでもらった依頼はこうだ。


 ノースルーリエ領の国境から東の森に、妙な砦が建設されているため、その調査をせよ。
 危険種族であれば、討伐も出来ればなお良い、とのこと。


「いきなり、難易度高すぎじゃないか!?」
「ラピ姉が頼りですね」 
「ぶっちゃけ、あっしら要らないでやんすよね」


「いいえ、借金があるのはあなたたちだもの、私は頑張らないわよ。後方支援くらいならしてあげるけれどね」
 三人は、ラピスのテスト風景を実際に見ていないため、ラピスの魔法の実力などは何も知らない。
 ただ、結果として出されている評価のみしか知らないのだ。後方支援というものがどんなものなのか、3人は想像できないでいた。
「大丈夫よ、依頼の期限まで数日あるでしょ。その間に、あなたたちを鍛えてあげるわ。そのために準備するものがあるから、明日の早朝……いえ、お昼に酒場に集合しましょう。いいわね」 
 ラピスはそういうと、すたすたと立ち去ってしまう。
 残された3人は、暫く、茫然自失としていた。
「オレら、えらい人に喧嘩吹っ掛けたもんだな」
 ラージスたちは、ラピスを路地裏で襲ったことを、今更に後悔し、同時に誇りに思うようになってきていたのだった。
 いや、サミルだけは、後悔など無いようだったが。






 ラージスたち3人が建物から立ち去った後、ラピスは冒険者ギルドに戻ってきた。


 受付嬢に申告する。
「今私個人で受けれる一番お金になる仕事を頂戴。明日の朝までに終わらせるわ」
 その日の夜、ノースルーリエ領北方の悪魔教信者のアジトが、何者かの襲撃によって、壊滅した。
 召喚された高位悪魔は、後に精神を破壊された状態で見つかったという。 
 自分が殺した者たちの痛みや苦しみを、殺した者の数だけ味わい続ける。
 そんな悪夢を見せる魔法によって、心を殺されていたのだ――。



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