L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

ラピス・サイド――『魔弾』



 次の日の昼下がり。
 約束通り、三人はそろって酒場前にやってきた。
 店頭のオブジェとしておかれている空のビール樽。
 すでに、待っていたラピスは、その樽の上に座っていた。
 地につかない脚が、ぷらぷらと遊んでいる。
「もう来てたのか、ラピスの嬢ちゃん」 
「ええ。時間は守る方よ」
 そう言って、ぴょんと樽から飛び降りる。 
 夜、三人と分かれてから、睡眠を必要としないラピスは、あまりに暇だったため、この世界の時間について調べていた。
 その結果、時間は日時計。日にちは、月の満ち欠け、一年は月の満ち欠けが、何週したかで算出しているようだった。
 つまり今は、日時計をもとにすれば、だいたい午後1時となる。
「ギルド巡りするんですよね?」
 マクドウェルが尋ねると、そうよ、と頷く。
「どこにいくんでやんすか?」
「全部よ」
「はあっ!?」
 三人の声がそろう。
 全て、と聞いて三人は、目を見開いた。
「嬢ちゃん、ここは、大陸の五大都市のひとつだぜ? いったい何個ギルドがあるとおもってんだ?」
「さぁ?」
 世間知らずもいいとこな反応の少女に、ラージスは頭を抱え、マクドウェルは冷たい汗をたらし、サミルはすまし顔も素敵だと思っていた。
「まったくよぉ、いつもの俺らだったら迷わずなぐってるぜ」
「まぁそれが出来ないお方なのは身に染みてますけどね」  
 昨日痛い目をみた三人の足腰は、今日も本調子にはほど遠かった。歩くだけならいざ知らず、全力疾走などもってのほか、という状態だ。
「姉さんは全部回って何をするんでやんすか?」
「もちろん、資格を取るのよ?」
「それなら、全部回らなくてもいいぜ。ファイターギルドだけでもこの街には5つくらいあるが、試験内容はどこも同じだ。どれか一つで資格とれりゃOKだぜ」
「そうなの? それじゃ、全種、って意味でよろしく」
 全種でも結構な数なのだろう、マクドウェルが大きなため息を吐く。
「本気か? まぁ、案内するくらいならいいけどよ」
「案内したら、多少は借金減らしてもらえます?」
「そうね。ひとり5ゴールド、減額してあげるわ」
 5ゴールドは5万カッパーだ。高額である。


「感謝いたします。丁重にご案内しますよ。お嬢様」




 そんなわけで、4人は連れ立ってギルド巡りをすることとなった。
 ただし、セージギルドは魔物の知識が無さ過ぎなのでパス。プリースト御用達の各神殿は、神などこの世に必要ないと思っているのでパス。冒険者ギルドは、冒険者に仕事を斡旋する機関なので、一番最後と決めた。
 また魔術師ギルドもラピスの意向で後回しとなった。


 4人が最初にやってきたのは、スカウトギルドだ。
 スカウトが求められる仕事は、危険感知、罠発見、罠解除、開錠技術、潜伏技術、毒知識、鑑定技術、探索能力などなど、多岐にわたる。
 そしてそれぞれに試験が割り当てられている。
 ラピスは試験の受付で、ラージスたちと別れて、試験に臨んだ。


 スカウトのテストは、建造物の一フロア全てを使った広い試験スペースで行われる。
 そこは実際の盗賊団のアジトを想定した迷路のようになっていて、試験官をパーティメンバーに見立てて守りながら歩き回り、ひとつひとつ隠された課題を突破していく、という形式だ。ちなみに、罠にひっかかっても、ペイントボールが発射されて色塗れになるだけで、別に死んだりはしないらしい。


 とはいえ、入り口の扉から、難易度は高かった。
 ラピスはそこを見た瞬間に呆れ、意地悪だと思ったほどだ。
 扉を開けても罠、開ける前にも罠、扉にはもちろん鍵がかかっている。
 しかし、その扉事態が罠だった。
 一番安全な正解は扉を開けないことだ。
 本当の扉は別にある。
 ラピスは、気配を殺しながら壁伝いに周って、違和感を探る。
 一見窓も何もない壁だが、
「正解はここでしょうね」
 一色にしか見えない壁の一部がほんの少しだけ色味が違うのだ。
 そこを軽く叩くと音の具合が違っている。
 罠がないか丹念に調べてから、押してみると人が屈んで通れるほどの、小さな隠し扉が見つかる。
 隠し扉には罠はなかった。
 探索の技能を見るならば、この隠し扉が正解である。
 だが、ラピスはその扉を見つけてから、開けたことがばれないよう丁寧に元に戻し隠蔽判定をクリティカルしてから、入口のめんどくさい扉の罠をあっという間に全部解除して、開錠したうえで入り、入ったことがすぐにバレないよう細工まで施した。
 試験官はちょっと冷や汗をたらしていた。
 試験の目的は、隠された高級薬品を無事持って出ることで、可能なら金品やアジトの構造、構成メンバーの情報も持ち帰るというものだ。
 ラピスは罠を一つも見逃さず、配置された警備兵に見つかることもなく、途中で施設に帰ってくるというボス役の情報も逃さずつかみ、わざとミスをする試験官をそつなくフォローし、しっかり危険感知を働かせながら、ボスが帰還するまでにすべての要素をクリアして脱出を果たした。最速で。
 結果、すべての技術Aランク、総合ランクSのスカウトと言う判定だった。
 別に魔法を使ってもルール違反ではないのだが、あえて魔法は一切使用していなかった。
 ギルド内がざわつく中、受付で待っていた三人の元へと戻る。
 そして金色の輝きを放つSランクの証明プレートを見せて結果を示した。
 プレートの裏には、各種技能の判定結果が刻まれているが、全部Aという記述だ。
 それを見た三人は、度肝を抜かれた。
「S!? こんなランクあるのか?」
「全部A!?」 
「……普通のスカウトってCくらいでやんすよね!?」


「さ、次はどこ?」


 そんな感じで、アーチャーギルドでは一矢も外さず。ファイターギルドでは、試験官をあらゆる武器で秒殺(死んでません)し、レンジャーギルドでは全ての薬草とポーションの効能を一致させ、トラップの創作と設置を意気揚々と行って恐ろしい結果を出し、アサシンギルドでは、諜報試験を難なく終えた上で、暗殺試験で音も気配もなく試験官を殴り倒し、投擲物の試験では何をぶん投げても全弾命中だった。


 


 他にも様々なギルドをめぐり、そして最後の、魔術師ギルドにやってきた。
「ラピスのあねさんは、魔法も使えるのか?」
「ラピ姉さん、本当は貴族のお嬢様なんかじゃないのでありませんか?」
「あっしはもう、姉さんがなにをやらかしても、信じるでやんすよ」
 三人からは、いつのまにか、姉さん呼ばわりされるようになっていた。
「まぁみていて」
 ラピスは3人に、自信ありげな微笑だけを返し、魔術師ギルドの扉を開ける。 
 いかにもな、怪しい建物の中は薄暗く、ほんのり明かりがある程度だった。
 ラピスは暗視能力があるため不自由しないが、人間である三人組には薄暗いようだった。
「いらっしゃいませ、ご用件は?」 
 魔法使いというよりは、事務員、と言った感じの受付嬢が応対する。
 試験を受けに来た旨を伝えると、奥へと通される。
 案内役の3人は、やはり試験場に入ることはできないので、受付で待機してもらいうことになった。
 最初に通された場所は、テーブルの上に、マジックアイテムらしきものが置かれている部屋だった。
 そこでは、置かれているマジックアイテムの効果を説明する試験、一度ばらして作り直す試験、ポーションの調合に関する知識と実技が行われた。
 数千というアイテムや薬品を作り続けてきた経験もあって、それは一瞬でカタが付いた。
 また次は、魔力に反応する特殊な天秤のバランスを取り続ける、という試験で、バランスが取れるまでの時間や、バランスを維持する時間を測定された。
 いわゆる、魔力制御に関する試験だった。
 魔法の波長でBGMを奏でられるラピスには造作もないことだったため、これも苦労する要素などなかった。
 ほかにも幾つか試験があったが、どれも難なくクリアし……。
 そして、最後にやってきたのは、中空に魔法陣を内包した球体が輝く部屋だった。
 何の器具かは、ラピスには見ればわかる。
 魔力の測定器、そしてエレメントの判定を行う器具だった。
 担当試験官のおじさまが説明する。 
「魔法陣で構成された球体に、一番強い魔法を行使してください。扱える属性が多数の場合には、各エレメントの魔法を順にご使用ください。攻撃系統がない場合には、強化や弱化、治癒の魔法でも大丈夫です」
「なるほど。解ったわ」 
 とはいえ、自宅の倉庫に置いてある魔術帽子は、空間連結を使用しないとすぐに取り出せない。仮にも魔術師の属するギルドで、そんなことをするのは避けたかった。
 同じく、『七分封界アルカンシェル』を呼び出すのも、妙な興味を持たれたくはなかった。
 ここは、せっかく名前を付けたばかりなので、試射を兼ねて、純粋に今ある魔力と属性のみで勝負を挑む。


「じゃあ、魔法を行使するわ」


 ラピスは、ターゲット用の球体に掌を向ける。
 試験官が、魔力計の表示パネルの前に立つのを待つ。
 そして、魔力を溜めるという動作も何もなく、即座に放った。




魔弾エネルギー・ボルト!」




 瞬間、室内に轟音が響く。
 衝撃波で周囲の空気が打ち震え、砂煙が舞い、天井からパラパラと砂利が落ちる。
 それは魔力の弾丸というよりも、砲弾だった。
 術式としては無属性の魔力をそのままぶっつけるだけの単純な魔法だ。
 ラピスがもつ最弱の術式であり、吸血鬼に放ったのと同じものだった。


「な、なに……え、エネルギーボルトですと?」
 ラピスがつけた魔法名だったが、名前からして、大魔法とは思えぬ名前だ。
 試験官であるおじさまの前の表示機には、510ポイントと表示されている。
 それが、その魔法による威力。魔法の出力数である。
 ちなみに普通の魔法使いの平均値は100ポイント前後、優秀な者では200~250ポイント前後であり、510ポイントと言う数値は、既に平均の5倍近かった。
 試験官は、機器をかたかたと揺らして、故障かどうかを疑った。
「510!? 魔力の溜めも、詠唱もなく!?」 
 驚く試験官だったが、ラピスも驚いていた。
「……まさか、名前を付けるという効果がこれほどとは思わなかったわ」
 名前を付けることで、心内で様々な魔法の系統が整理され、溜めるという行為を行わなくても、思った通りのものが出力できるようになった。
 魔法の最大の難関である、幻想の固定化――つまりイメージ通りのものをいかに詳細に出力するか、という部分を大きく手助けしていたのだ。
 その結果、確固たる弾丸としての型式を獲得した魔法は、威力の面でも2割ほど向上がなされていた。
 名前を付けることで命が吹き込まれる。
 アリシャがそのようなことを言っていた、とラピスは思い出す。
 ラピスが名前を付けたときに、エネルギーボルトと言う魔法は初めて生まれたのだ。
「あの……」 
 自分の掌を見つめて、アリシャの助言に感謝していると、試験官が恐る恐ると言った感じで、口を開く。
 ラピスは試験官の方に視線だけを向けた。
「今のは、全力、でしょうか?」
 試験官も魔術師ギルドの一員、つまり魔法使いだ。魔法名からして、さほど強力な魔法ではないのではないか、と危惧したのだろう。
「そのポイントでの評価はいくつになるのかしら?」
「技能においての評価はAが最大なのですが……あなたはすでに、A評価の2倍の数値を出されています。他の属性の有無を査定に加えたとしても、もはや評価には影響しないでしょうな」 
「では、別に、これ以上は無くても問題ないわね?」
「えっ!? ええ。ええ、そうですね。確かに。確かに、問題ない!」
 試験官は助かったような、残念なような、恐ろしいような。おじさまな表情をころころと変えながら、ひきつった笑いを浮かべていた。
 あはは~。と。


 そうしてラピスは、魔術師ギルドでも、あらゆる技能A。Sランクの魔術師である証明を手に入れた。


 もはや、各ギルドの証明プレートを扇のように、じゃらり、と広げて持って、仰げるくらいの量になっていた。なんだったら、左右にもって二刀流もできる枚数だ。


「それじゃ、次は冒険者ギルドよ」
 待っていた三人組に告げる。
「やっぱ行くんすね」
「当然よ。何のためにギルドを回ったと思っているの。資格がないと信用されない、ってあなたが言ったんじゃない」
「いや、まぁ、だからって、全部取らなくてもよかったと思いますが」
「絶対冒険者ギルドの受付のやつ、ドン引きでやんすよ、それ」
 ラピスの結果を見るたびに、どのギルドでも引き気味だった三人は、もはや引きなれてしまったのか、既に無我の境地になっていた。


 
「これで、冒険者登録してもらえる?」
 冒険者ギルドの受付カウンターに、金色こんじきの証明書が山と積まれる。
「正気ですか!?」
 受付嬢は、やはり、ドン引きであった。
 少女とチンピラ3人。そんなちぐはぐな取り合わせに、ギルドに集う冒険者たちも注目し、受付嬢の驚愕の正体に、徐々にギルド内がざわつきはじめるのだった。



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