L a p i s ~ 世界樹の精霊《スピリット・オブ・マナ》 ~

神の味噌汁

北へ、南へ



 翌日のお昼過ぎ。


 ラピス邸の庭園の外周には、各所に碑石のようなものが設けられている。
 その金属板スリットに、玄関のロックと同じカードキーを差し込むと、森の定められた場所へ転送されるようになっている。
 逆に、森の中の碑石にカードを触れさせれば、ラピス庭園に転送される。


 ラピス庭園内には、ラピスが直接案内するか、碑石の転送以外では中に入れない。
 幻覚や、混乱の魔法によって、気づかぬうちに森の中心を避けるようにルートを変えられてしまうようになっている。
 本気の魔力でかけられている魔法であるため、これはヴァンパイアにも効果を発揮し、アリシャも気づかないうちに一度引っかかっている。


 


 碑石の効果によって、二人は、森の外付近へやってきた。
「便利ですね」
「自信作だもの」
 しかしラピスは、金色のカードキーをパタパタと得意げに振って、忠告する。
「私が、不在の時は、庭のトラップが活性化するから注意するのよ」
「どんなトラップですか?」
 アリシャが、恐る恐る尋ねると、
「デモンズイーターが動き出すわ」
「なんです、それ!?」
「私が作った、植物兵よ。名前は昨日つけたわ」
 詳しく聞いたところ、普段は庭の外周付近に潜伏していて、敵影エサを感知すると、土中から大きな口で、噛みついてくる食虫植物……いや、食魔物植物らしい。全身の大きさは5メートル~8メートルくらいだとか。
「たまに結界を抜けてくる輩もいるからね。その時点で実力はあるのだから、それなりの物を置いておかないといけないのよ」


 そんな話をしながら歩いていると、森の外に出る。   
 ノースルーリエは、山脈を隔てた北方に位置している。
 そのため、北東の碑石を使い、森を迂回して走る東側の街道に出てきた。
 後は街道を沿っていけば、到着するはずだった。


 しかし、アリシャが突然立ち止まる。
「ごめんなさい、ラピス様。私、襲われた農村に行ってみたい」
 亜人に襲われ、壊滅した農村。
 逃げる前のアリシャが滞在していたところだ。
 アリシャの瞳には、決意のような、悲しみのような、複雑な感情が宿っている。
 その姿は、真剣そのものだった。
 何か思うところがあるのだろう、とラピスは思った。
 ラピスは、表情を変えずに、ただ、「そう」とだけ相槌を打つ。
 そして、懐から金色のカードを取り出した。
「じゃあこれを渡しておくわ」
 カードキーだ。
「私は少し、大きな街を見ておきたい。だからこのまま、北の街を目指すわ。あなたはあなたで、村へ向かいなさい」
 二人で買い物に行く。
 そのことは、アリシャも楽しみにしていたし、約束事のようにも感じていた。
 我儘ではないだろうか、というアリシャの懸念があった。
 ましてや、ラピスはご主人様のようなものだ。 
「行っていいんですか?」 
「私にあなたを止める理由なんてないわ。それに、あなたには、果たさなけれならない何かを感じる。そういうの、ずっと持ち続けると腐って毒になると思うわ」
「ありがとうございます!」
 アリシャは頭を下げた。
 先生と呼ばれたくないと、ラピスは言ったが、アリシャには先生のように思えた。
「ところで、食糧はちゃんと持っているの?」
「はい、大丈夫です。旅は慣れていますから、抜かりはないです」
「また何かに襲われたりしないかしら?」
「平気です。街道沿いは比較的安全ですし、ラピス様がくれた武器もあります」
「そう?」
 アリシャは今、ラピスが伸長してくれた装備一式を身に着けている。
 紅白のカラーリングや、金髪王冠など、お嬢様っぽい装備に、使い古しの旅用カバン一式という、新旧そろい踏みのちぐはぐさだが、旅人としての貫禄は感じられる。
 ラピスは、暫く心配そうにしていた。
 自分の渡した装備や、剣や、盾を見つめて。
 アリシャの言っていた言葉を思い出していた。
 無力でいたくない、と言っていた言葉を。
「アリシャ」
 と、ラピスは名を呼ぶ。
「アリシャ。あなたは人間だから、こんなことを言うのは気が引けるけれど。もしも何かを守りたいと思うとき、真に守るべきはどちらなのかを、よく考えて。叶うなら、貴女が間違っていると思う方に、刃を向けることを願うわ」
「え?」
「あと、勝てないときはちゃんと逃げるのよ」


 じゃあ、がんばりなさい、と言うだけ言ってラピスは北を目指すべく歩き出した。


 しかし途中で、くるりと踵を返して戻ってくる。


「やっぱり心配だから、これを貸しておくわ」
 差し出したのは、青白く輝く、正八角形の物体だ。
「え? あの、これ……『メルクリエ』さん、でしたっけ?」
「よく覚えてるわね」 
 名前を呼ばれてうれしい、といった感じで、ほわっと、輝きを強くする拳大ほどの青い宝石は、水と冷を受け持っている、魔石だった。
「この娘は、私の分身のようなものよ。あなたに何かあれば、この娘を通じて私にもそれが感じられるわ」
 ラピスは、それを、アリシャのカバンに無理やり押し込んだ。
 不思議と重量は無く、押し込んだ瞬間に姿を消してしまう。
「じゃあ、気を付けるのよ」
 渡すものを渡すと、ラピスはダッシュで立ち去り、
 途中でふわりと宙に浮くと、空をばびゅん、と飛んで行った。
 唖然としていたアリシャは、一言だけ漏らす。
「飛べるんだ……ずるぅい」

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