ドタバタ異世界ライフ~兄よ、ストレス解消に暴れる妹のケツを叩け~

にしまつ

二話 才無き強者①

 …妹においてけぼりを喰らい、二日経つ。
  幸いな事に、ミステアがくれた金貨袋があるので、宿には困らない。

 然し、然しだ。妹の消息不明で現状手詰まりな俺はどうしたら…。
  しょんもり顔で黒髪を押さえつつ、街の広場でパンを口にしている。

 耳を澄ますと、魔王死すだの、名も無き英雄の行方を求むだの。
  街中は妹の噂で持ちきりだ。

 黒髪で活発そうな美少女魔術師だの、悪魔を従えた魔術師だの、
  …羨ましくなんて無い。断じてない、決して、多分、いやきっと。

 そんな中、魔王の残党狩りがもっぱら主流らしく、どこもかしこも
  仲間を募集している声が、嫌でも耳に入る。

 入ろうかな? 残党狩りしていれば、嫌でも妹と出会うんじゃないかと、
  そう、思っているが一つの疑念がある。

 妹は確かに願った。力が欲しいと。
  だが、俺は何も願わなかった。いわば巻き込まれただけだ。

 俺にチートな能力は備わっているのか?
  あるのは背中の名も知らない日本刀のみ。

  「はぁ…憂鬱だ」

 出るのは溜息ばかり、なのだが、そんな俺に凛とした声の女の子が
  声をかけてきた。

  「やぁやぁ、そこの業物を背負うお兄さん。
    魔王残党狩りに全魔術を修める(予定)この私、クルナを仲間にどうでしょうか?」

 …今、(予定)とか自分で言わなかったか? 言ったよな。
  何かの冗談か? と、声のした正面を見上げると俺の肩程の背丈の女の子だった。
  いかにも魔術師といわんばかりの格好に、赤茶色の長い髪。
  一部三つ編みをしており、ぱっちりした蒼い瞳に笑顔が良く似合う美少女だった。

 だが、自分で(予定)とかいうあたりやばそうな子の臭いがする。
  だもので、丁重にお断りしたのだが…。

  「そんな事言わず! 一度!! 一度でいいから試して下さいよ兄さん!!
    今なら凄いスキルもついてきますよ!?」

 何の安売りだよ。益々怪しい。断固断る願い下げ…両肩を掴まれ、
  激しく前後に体を揺さぶられてしまう。

  「ちょっ!おま!!! やめてくれ!!」
  「お願いしますお願いしますお願いします!! 
    もう相手居ないんですよ!! このままじゃぼっちです!

    ぼ っ ち な ん で すぅぅぅぅうううっ!!!!!」

 ぼっち…うん。それは、判るが。この子、魔術師の癖に何てパワフルなんだ。
  脳が!!砕けた豆腐に潰れたトマトぶち込んだ状態になっちまう!!!

  「やめ、ちょおま!ちぬ!!」
  「おねがいだぁ!! このままじゃお里に錦を飾れねべさぁーっ!!!!」
  「訛りでたー!? つか、顔っ鼻水っ!!」

 つい出た訛りに涙と鼻水が大洪水の顔芸で、俺の胸元へと迫ってくる
  これは流石に嫌だ。こんな美少女いやだぁぁぁぁぁああっ!!!

  「う、うわ。くるな…来るなぁぁぁああっ!!!」
  「おねがいだがら連れでっでぇぇええ…ずびぃぃぃいいぃぃ!!」

 余りの握力と腕力に引き寄せられ、哀れ俺の一張羅は鼻紙に。
  ねちょりとした感覚が鳩尾あたりにひろがり、さらにそれを押し付けてくる。

  「わ、判った! 連れて行く、連れて行くからやめてくれマジデ!!!」
  「ほ、ほんとけ?」
  「ああ。男に二言はねぇよ。けど…大変だと思うぞ?」

  そう言うと、ハンカチを濡らして、服にべっとりついた鼻水を必死で
  拭いつつ、コチラの現状を伝えた後、判断して貰う事にした。

  「お、おぉぉぉ。あの魔王レンゼンヴァールを、
    まるで虐るように屠った天才少女のお兄様でありましたか!!」
  「天才つか、それが勢い余って天災にならないか、心配なんだよな…」
  
 ようやく落ち着いて、横で座り込み、手渡した果実水を服に零すほどの
  勢いで立ち上がりるクルナ。

  「ならば、お兄様もさぞかし才気溢れる豪傑に相違ありません!!」
  「いやお兄様て、そして無いから」

 いかにも自信ありげに言い切ったクルナに対し、右手を軽く横に振り、否定。

  「何を謙遜なされるか!! お兄様!!」
  「いやお兄様て…。あ、そうか。自己紹介してなかったな。忍と言う。
    宜しくね」
  「うむ! 宜しく頼むぞシノブお兄様!!」

 変わってねぇ!! つかこのこ喋り方がちょくちょく変だな。

  「なぁクルナ。もしかして、無理矢理口調かえようとしてる…のか?」
  「はいそうです! 何かワタクシに見合う、そんな口調が無いかと調整中なのです!」
  「どんなだよ…」

 もう、訛りでいいだろ。と、思いつつ俺がマコトを探す旅に、
  一人、妙な魔術師の少女が仲間入りする事になる。

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