今日から俺は四天王!

ノベルバユーザー358273

1章18話 黒崎エスケープ①











「牢の中で魔力を使わないでください、と何度も言っているのですが。」


「なーんでバレんだろうなぁ」


「私は魔力の残り香を感じ取れます。ですので、この牢屋の番をしているのです。」


「へえー」


「いいですか、貴方が不審な行動を取ればユージン様が上層部に話を通せなくなります。...旅への不安で魔法や剣術の練習をしているのは、魔力の残り香でわかります。ですが、今は抑えてください。」


「...あー、まあ、そうだな。やめるよ。」


「嘘です。やめないでしょう。」


「なんでバレんだろうなぁ」


「貴方の手を見れば―――」


「はいはい、べつに大して何もしてねぇよ。」








カイトは今、ひたすら鍛錬の日々を送っている。
独房の周辺にはカイトと監視の兵士が一人。普段の監視は鎧に包まれた一人の兵士と、三銃士の一人、『ヴァン・フレイビア』が交代でカイトを見張っている。


 ヴァンはなぜか、カイトに修行をつけてやっていた。兵士は危険行為とみなして禁止としているが、ヴァンが言うことを聞かない。


「ヴァン様が貴方に剣や魔術を教えているのは知っています。...おそらく、私情で貴方に稽古をつけているのでしょう。ですが、私はヴァン様とは違います。ユージン様の苦労を、貴方は...」


「あいあい、わーってますよー。...お、もう交代の時間じゃないか?早く休みなよ」


「貴方と言う人は...明日の昼にまた来ます。ヴァン様にもよく言っておきますからね。」


「はいはいー兵士さんもご苦労様ー」


ふう、とため息をついて、鎧に包まれた兵士は階段を上がっていった。


カイトの友人のユージンは、カイトを独房から出す為に国を仕切る上層部に交渉をしているが、いかんせんうまくいかない。独房で暴れた形跡があったり、敵国『アズフィルア』の勇者と言われていたことが原因である。








しばらくしてヴァンが降りてくる。




「よー、元気かクロサキカイト。...今日もか?」


「...ああ、一々聞くな。」


カイトの目つきが変わる。






ヴァンが簡単に鉄格子を外すと、そこには頑丈なコンクリート部屋が完成する。


カイトはふらりと立ち上がると、目を閉じ、手を前に突き出した。


「...」


強く念じる。




アニメやマンガでは必殺技を叫ぶ場面が多い。大抵は、読者や視聴者に説明をするために叫んだり、格好をつけるために言葉を発したり、その言葉自体が技の発生に必要であったりする。


改めて考えてみると、無言で多種多様の技を使うのは、頭を使う。だから、カイトは少々の恥ずかしさを捨て、技の名前を言うことにした。


実際ものを覚えるには声に出した方が良い、と学校の先生が言っていたのを思い出したのだ。


カイトがバリアを張った時も、黙って考えて貼るより、実際に『バリア』と言葉を発した方が想像しやすかったと言う経験がある。




『スペード』と言う役職から与えられた、『四天王』の能力。『超具現化』と呼ばれたそれは、自分の想像通りに魔力を操る。剣の形にすることもできれば、槍の形や槌の形に。壁の形にして固めれば防御にも。
極めれば、一度見た魔法でもある程度真似して使うこともできる。
ここで重要なことは使用者の膨大な魔力や想像力、知識量がモノを言うと言うこと。


想像力も乏しく、知識もない。魔力が取り柄のカイトは、技の名前を毎度決めて具現化することで形を反射的に思い出せるようにしたのだ。




「――《創造クリエイト》―――ソード!」


カイトの目の前で、青色の激しい竜巻が横になって現れる。青い火花を散らす竜巻の中心で剣が作られると、渦が四方へ飛び去る。そして、バチバチと音を立てながら青色の剣を右の手でしっかりと握っているカイトの姿。


「いいじゃねーか。具現化も調子ちょーしがいいみてーだ。最初に見た頃と比べりゃすげー進歩だぜ。うちのサンライト魔法まほー剣士よりも質が良い。コツかなんか見つかったか?」


「ああ、丁度いい参考資料を俺の元いた世界で多く見てたのを思い出してな。魔法陣から剣を出したり、投影したり、ゲームのように瞬時に出したり...まあ、ただのnエヌ番煎じだ」


「...わかってると思うが、その力は武器だけに使うもんじゃねーぞ。壁作ったり、それこそ俺のカエンダンを真似したみてーに、理屈を無視して『他者の技を真似』できる。威力や精度せーどは置いといて、な。」


「随分、親切だな?」


「あ?...まーな。お前には親切にしてやってんぞ」


「償いのつもりか?...キンライは、帰ってこないんだぞ...!」








少し前の事だった。牢で暇をしていたら、突然、ヴァンが現れた。『わりー。こーするしかなかった』『アンタは悪くない』などと、よく分からないことを言っていたが、『キンライのオッさんは死んだ。トドメは俺が刺した』と言われた時は、冷静になんかなれなかった。




「...ああ、確かに、キンライを殺したのは俺だ。他の誰でもない。...ハッ、恨むんならテメーのその実力を恨むんだな。」


「っ!てめぇ――」


「また俺とやるか!?ちっぽけな努力といっときの感情で簡単に俺を、『三銃士』の俺を超せると思うなよ」


「...アンタは、アンタはなんで俺に稽古なんか」


「前にも言ったが、覚えてなかったか。『牢から放した勇者がその辺でおっ死んでましたー』なんて言われたら、コッチのメンツが立たねーんだよ。この世界の最低限の力はここでつけてもらうぜ。...さあ、やるんだろ、稽古」


「クソッ...ああ。始めよう。」




距離は約10メートル。カイトはヴァンに向かって剣を構える。


「そら、行くぞ...カエンダン!」


いくつもの火球がカイトに向かって飛んでいく。


「はあっ!」


カイトは次々と球を切り、攻撃を防いでいる。球の数は少しずつ増え、速度も上がっていく。


「おい、切る場所が手前になってきてるぞ!脇を開けるな!剣が大振り過ぎだ!簡単に後ろに下がんな!」


カエンダンとヴァンの怒号が飛ぶ。


「ぐっ...!」


「上体が立ってる!サボってんじゃねー!切る位置はもっと前!鈍くなってるぞ!!」


「...っく!」


まるで工事現場のように騒がしく、複数の爆発の音が牢の中で響く。カイトは忙しなく向かってくるエネルギー弾を防いでいるが、少しずつ押されている。立て直し、崩れ、立て直し崩れ...






そのまま、数時間が経った。






「剣の像がボヤけてんぞ!疲れたかボンクラ!」


「ハアッ、ハアッ...!」


「あと20秒!当たると死ぬぞ!必死で食らいつけ!!」


「お、おお...!」


より勢いを増すカエンダン。これで最後だ、と言わんばかりに大きなカエンダンを放つ。カイトは大きなエネルギー弾を見るや否や、剣を構え直した。剣が淡く光る。魔力が集まっていく。


「ハアッハアッ...『明星一閃みょうじょういっせん』!!!」


切るのではなく、今度は『突き』でカエンダンを吹き飛ばした。この技は、生前キンライが使っていた技だ。真似を何度も繰り返し、日に日に精度は増していき、威力のある弾を吹き飛ばすほどになった。


「...よし、10分休憩だ。ほらよ。」


ヴァンが剣をカイトへ投げる。手に取るカイト。


「はあ、はあ...お、重いっ!昨日よりも重い!!」


「10分振ってろ。お前の体重よりは軽いだろーよ。」


震えながら剣を構え、素振りを始める。休憩にはなっていないのだが、さっきの訓練よりは運動量が少ない上に自分のペースで振れる。カイトは手のひらの血豆を潰しながら一本一本丁寧に振った。




「さて、10分経ったか?っと、悪りーな30分経ってたわ。」


「て、てめぇ...!」


カイトの手はいつも通り血塗れになっていた。服もいつも通り、血を拭いていたので真っ赤だった。汗が吹き出し、腕が痙攣している。


「おら、さっさと拭きな。飯の時間だろ」


そう言ってヴァンは新しい衣服と数枚のタオルをカイトへ投げた。受け取ると服に血がつくので、タオルだけ掴む。血と汗を拭き取り、服を変える。カイトは自分の身体をジッと見る。


(身体がかなり締まってる...腹筋てこんなに割れるもんか...随分と派手に肉体改造しちまったな)


「じゃ、俺は上に行くからまた後でな。しっかり食えよ。」


そう言ってヴァンは汚れた服と、重すぎる剣をひょいと持って歩いて行った。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ガシャリ、ガシャリと鎧の音。


「血の匂いがします。」


「いやあ、鼻血出しちゃって。」


「汗も。臭いますよ。」


「鼻血で焦っちゃって、もー汗ダラッダラだよね。ヴァンも俺も大慌てって感じ」


戻ってきた兵士と、何気ない会話をする。カイトはおちゃらけているが、兵士はカイトの行き過ぎた努力に疑問を抱いていた。だって、両手は包帯で巻かれていて、いつも少し痙攣している。血の焦げた臭いと汗の臭い。ススだらけの顔に、衛生的とは思い難い伸びたボサボサの髪。来た時よりもガタイは良くなってるのに、どこか不健康そうで、今にも倒れそう。


「...何が、そこまで貴方を動かすのです。どう考えても度が行き過ぎています。ヴァン様に言っておかなければ―――」


「俺が、俺がそうしてくれって頼んだんだ。いいんだよ。普通の人間じゃあ、出来ないことがあるんだ。暫くは、このままで。戒める為に、な。」


カイトの目の先には自分手。皮の剥がれた手の平。鋭く、忌々しそうに見つめている。


「...食事にしましょう。貴方の身体が持ちません。」


「兵士さん。いつも心配かけて悪いな」


「...エルベハート」


「ん?」


「私はエルベハート家の者です。鎧で顔が出せていないので、分からないとは思いますが。」


「どこだよエルベハート家って。じゃ、エルベハートさんって呼べばいいかな」


「エルベハート家を知らない?勇者であるのに?...まあ、はい、暫くはそう呼んで頂けると他の方と区別がつくかと。」


「名前は、言わないってことは聞かない方がいいか。短い間だけど改めてよろしくな。」


「はい。名は重要ではありません、ただ私がどこの家かが分かれば。...少しお休みになられてください。稽古を認めた訳ではありませんが...休養も大事です。私も、剣を習っていた頃に師からそう教わりました。」


(甲冑で怖い兄貴感でてるけど、優しい奴だなあ。気遣ってくれてるのか)


「...ああ、そうだな。アンタといる時は少し休むよ。」


「ええ、是非。」




カイトが敵国、『サンライト』に囚われてから2週間が経とうとしている。




キンライが死んだ。




そう聞いてからの日々はひたすら鍛錬だった。利用できるものは全て利用して、必ず脱出する。それだけを考えている。少しでも暇だと、怖くなってしまうから。


『キンライが死んだのは黒崎海斗が弱かったからだ。』


そう言われるのが怖いから。






クロサキカイトは、死の責任に耐えきれず、ひたむきな努力へと逃げたのだ。





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